第四話 仲間としての距離感

「ちょっと誰あなた。初対面で何考えてるわけ?」




 サンドラさんに話しかけようとしたところ、その近くにいた女性の人が食って掛かってきた。


「あの、サンドラさんと話がしたくて…………」

「なによ! ナンパなんてしようものなら、ただじゃおかないからね!」

「ち、違います。ただ、サンドラさんとお話がしたくて」

「まさかあんたそっち系? どっちにしろ気色悪いからさっさと消えてくれないかしら」


 高そうな装身具に貴重そうなローブにを身にまとった女性。彼女は僕のことをナンパ師とでも勘違いしているのか話しかけさせてくれない。


「マーサさん、相手の用件を聞かずに押しのけるのはよくないですよ」

「どうしたんだマーサ、またナンパでもされたのか?」


 そこにさっきまでサンドラさんと話していた女の人とサンドラさんがやってくる。

 サンドラさんの衣服は前回と違って動きやすい半袖に長ズボン。またサンドラさんの隣の女の人は、マーサと呼ばれる人と違って装身具も少なめで戦闘服も継ぎ接ぎだらけに見える。


「この弱そうなカス男がサンドラを罵りに来たらしいから文句言ってたんだけど」

「あ、アレクサンダー様! い、いや今は勇者様!?」

「や、やめてサンドラさん。今の僕そこまで偉くないからさ」

「は? お、おまえ、勇者???」


 自嘲する僕をマーサさんが睨めつけてくる。眼力だけなら魔族にも匹敵する怖さだと思ったが、サンドラさんがなだめる姿がそれを調和している。とってもお似合いなあたり仲間なんだろうなと感じた。


「マーサさんは気が強いところがありまして、申し訳ございません――――それとですが勇者って本当なんですか…………」


 こっちの女の子は敵対する気は無いようだが僕のことを敵として認識しているようだ。


「うーん、勇者と言ったら勇者ではあるんですが……最弱ランクですし、ルータス王の影響でいまだにソロってことに困ってて……」

「アレクサンダー様……」

「だから顔見知りのサンドラさんに頼んでみたんだけど…… ごめんなさい!」


 言ってて自分が情けなくなった。協会から慌てて逃げ出したのはそれが理由だと思う。

 背筋が冷えるような感覚を覚えたのは勘違いだろう。そして僕はこの場から立ち去ろうと走り出し




「アレクサンダー様、別に俺は困ってないですよ!」


 引き留められた。




◇◇◇




「アレク! もっと剣振り切って!」

「はい! がんばります!」


 サンドラに言われたように剣を振るう。燦々と照り付ける太陽が己の体をむしばむが、そんなことでへこたれずに振り続ける。


 サンドラがマーサともう一人の女の子マルガレータを説得してパーティーに入れてくれたので、今はパーティー【カサブランカ】に所属させてもらっている。


『ダブルロック』

「ぐっ…………」

「ぐっじゃないですよ避けてください! 全弾被弾しながら戦うなんてタンク以外ありえないですよ!」

「すいません! がんばります!」


 マルガレータさんはサンドラが納得しているからか割と肯定的で、狩猟の時間を割いて僕のことを育成してくれる。サンドラだって僕のことを嫉妬してもおかしくないのにそんなのをおくびにもださない。


『イミテーションフィリア』

「ひあっ!?」


 魔法が後ろから飛んでくる。マーサさんが死角をついてきて放ったようだ。


 マーサさんについてだが、現状渋々付き合ってくれている。避けにくいってだけで、避けることのできる魔法しか使ってこないので、優しい人なのだろうと僕は思う。


「アレクサンダー様、なかなかいい線言ってると思います! 俺もこんな時期ありましたし!」

「アレクだよサンドラ。今の僕は何の権力もないサンドラのパーティーメンバーなんだから」

「そうだったなアレク! じゃあまだ剣振れる?」

「もちろん!」


 サンドラとはあの後話し合って互いに呼び捨てするような関係になった。

 王族としてずっと対等な関係にあこがれていたのも大きいと思う。だけど、僕はサンドラと一緒に呼び合いたいって思ったからこの提案をした。王の弟アレクサンダーとしてではなく、一人の少年として。


「皆お疲れ様。今日はいったん終わろうか」

「「「お疲れ様」」」


 という感じで、修練は二週間続いた。




◇◇◇




 カランッ――――扉を開けると、ざわざわとした雰囲気が外に漏れだす。


「いらっしゃ~い何人だねー?」

「はーい三人です」

「三人ねー! だったらこっちに座ってやー」


 サンドラが手早く僕を案内する。冒険者の暮らしを体験させてくれるといわれたからついてきたのだが、今日は居酒屋につれてくるつもりだったらしい。


「おばちゃーん酒瓶3本!」

「あいよー」


 サンドラ、マルガレータ、反対に僕という順番で座る。店内は大広間ぐらいの大きさのはずなのにほぼすべての席が埋まっていて、店員がてんやわんやしている。


「マーサさんは連れてこなくてよかったんですか?」

「あぁ、もちろん誘ったよ。でもマーサは倹約家だからさ、基本的に飲みにはこないし結構な頻度で働きに行ってるんだよ。んで、今回も見事に断られちまった」


 マーサさんは努力家なんだなぁ。あの硬派な性格を思うと妙に納得してしまう。


「マーサさんは働きすぎなんですよ! しかも何かと思えば強い装備買ったりしてて! すぐ壊してしまう私が言うのもなんですがもっと他にも使えるものあると思うんです!」

「まぁまぁ、愚痴はそこまでにしとこうよマルガレータ。今日はアレク初めての居酒屋で初めての飲酒なんだろう? せっかくだし楽しくいこう」

「そうですね、はじめてっていう記念日ですしね」




 今ここに、飲むか呑まれるかの戦いがアレクに待ち受けている!


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