第6話 反省

(嘘、嘘だ……)


 信じられないものを見た――そんな様子で、陽佳はコントローラーを手放して脱力する。

 一週間もかけて練習をしたのに、蓮を相手にまるで歯が立たなかった。

 決して不利な戦いだったわけではない。

 むしろ練習している分、陽佳の方が有利だったはずだ。

 それでも二戦先取で蓮の圧勝。動きを読まれているかのように、次々と技を決められて負けてしまった。

 練習したコンボも、相手に当てることができなければ何の意味もない。


「い、今のはたまたま……」

「別にこの後何回でも戦ってあげるけどさ、先に罰ゲーム終わらせようよ」

「……っ」


 結局、追い込まれてしまったのは自分の方だと陽佳は気付く。

 蓮の本音を聞きたかったのに、いつの間にか『自分の好きな人』を暴露する必要が出てしまったのだ。

 はっきり言って、陽佳は相当追い詰められている。

 陽佳は負けた時のことなど、一切考えていなかったからだ。

 それこそ、蓮の好きな相手が誰か聞き出すための勝負だったのだから、少なくとも負けること前提では物事を考えていない。

 しっかりと前準備までして敗北してしまったのだから、陽佳は何も言い訳が効かなかった。


「ほら、早く教えてよ」


 そんな陽佳に気持ちを知ってか知らずか――ずいっと距離を詰めて蓮が問いかけてくる。

 だが、陽佳には何も答えが思い浮かばない。


「あー、えっと……ね。別に、いないかな」


 迷った末に、陽佳はそんな風に答えるしかなかった。何せ、それが事実なのだから。


「えー、それじゃ罰ゲームにならないじゃん!」

「だ、だって、本当のことだし……」

「じゃあ、負けても罰ゲームにならないことにしてたんだ? 陽佳って結構卑怯なことするね」

「なっ、べ、別に卑怯じゃないでしょ!」


 陽佳は強気で否定するが、蓮に勝つために事前に練習をしておくという、思いっきり卑怯なことはしている。

 それで負けたのだから、はっきり言って目も当てられないような状態なのだが。

 そんな陽佳に向かって、いたずらっぽい笑みを蓮が浮かべる。

 その表情を見て、ぞくりと背筋に寒気のようなものを感じた。……何か、嫌な予感がする。


「それなら、罰ゲームはわたしが決めたものでいいよね?」

「え、それは……」

「いいでしょ。だって、陽佳から仕掛けて負けたのに罰ゲームにならないなんてダメでしょ」

「うっ、わ、分かったから」


 陽佳も蓮の言葉に従わざるを得ない。

 それこそ、有利な条件を出して負けてしまったのだから。

「どうしよっかなー……」


 悩むような素振りを見せながら、蓮が部屋を見渡す。

 どんな罰ゲームにするつもりなのか。

 以前から勝負をすることはあっても、この前みたいに『キスをする』という過激なものは初めてだった。

 どんな要求をされるのか――不安な表情を浮かべながら陽佳が待っていると、蓮の視線が『ある物』に止まる。


「じゃあ、これにしようかな」

「これって、縄跳び?」


 それは、中学生くらいまで使っていた縄跳びだ。

 今は使うこともなく、机の下あたりに放置していたもの。

 蓮がそれを手に取ると、陽佳に向かって指示を出す。


「じゃあ、後ろで手を組んで」

「え……それって、縛るってこと!?」

「ん、一先ずはそういう感じかな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! いくら何でもそれは……」

「えー、だって罰ゲームだよ? 多少は過激なくらいの方が面白いし、陽佳も反省するでしょ?」

「は、反省……?」

「うん。わたしに勝負を挑んで、罰ゲームも軽い感じで逃げようとしたでしょ?」


 ――本当は勝つつもりしかなかった、なんて言える雰囲気ではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る