第2話 放課後の付き合い

「あはは、そんなこともあったねぇ」


 ゲーセンの前の自販機で、蓮が笑いながら言う。

 陽佳はそんな蓮の姿を見て、むっとした表情を浮かべた。


「……正直負けるとは思ってなかったよ。だって、蓮ってゲームとかしなさそうだったし」

「うーん、しない方だとは思ってたよ?」

「それ、私のこと馬鹿にしてるでしょ」

「してないって! ただ、わたしはそういうイメージがあったんだなーって」


 ――もう一月以上も前の話だ。

 結局、一度負けてしまい火がついた陽佳は小銭入れから百円を次々と投入することになる。

 どれだけやっても、蓮の方が圧倒的に強かった。

 終わった後に、蓮が笑顔でやってきたことは今でも覚えている。


「楽しかったよ、雪野さん!」


 ……もう、本気で煽られているのかと思った。

 それ以来、陽佳はあまり格ゲーをやっていない。確かにゲームは好きだが、あのゲームをやるとどうしても蓮の笑顔を思い出してしまうからだ。


(なんかむかつく)


 その気持ちも悟られたくなくて、ゲーセンに寄る機会も減っていた。

 今はこうして、二人で帰る仲になってしまっているが。

 主に、蓮の方から陽佳のことを誘ってくる。

 誘われても断ればよいのだが、何かと話しかけてくるようになった蓮となし崩しに付き合うようになってしまった。……こうして一緒にいるようになってから分かったのは、『緑凛の女神』なんて呼ばれている蓮は、割と普通の女の子だったということだ。当たり前と言えば当たり前かもしれないが。


「このあと陽佳の家でゲームする?」

「別にいいけど、またウチ?」

「え、嫌だった?」

「嫌とかじゃないけど……」


 大体、放課後になると蓮が家に遊びに来る。

 陽佳と蓮の家はお互いに近所にあった――その事実も、今の状況に拍車をかけているのだろう。

 正直、高い頻度で誰かを家に上げることは少し疲れる……そんな風に、陽佳は思っていたのだ。


「んー、じゃあさ。今日はウチくる?」

「蓮の家? お姉さんは?」

「今日はバイトじゃないかなー。別にいたっていいでしょ」

「それはそうだけど、なんか落ち着かない」

「あはは、何それ」


 蓮は笑うが、他人の姉というものに接するのが、陽佳はどうにも苦手だった。

 やはり陽佳は人付き合いが苦手なのだと、そこで改めて認識してしまうくらいには。


「まあ、今日は大丈夫。いないから」

「何か怪しい」

「怪しくないよ。今日は水曜日だからたぶんバイト!」

「たぶんって言ってる」

「絶対バイト!」

「別にいいけどさ、たまには真っすぐ帰ってもいいんじゃないの」

「わたしは真っすぐ帰ることになるもの。別にいいでしょ、付き合ってくれても」


 蓮は結構押しが強い。

 なし崩しに、陽佳も頷いて蓮の家に向かうことになる。

 いつもと少しだけ違う、放課後の付き合いだった。

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