負けず嫌いな女の子と煽り気質な女の子のお話
笹塔五郎
第1話 コテンパンに
いつもの帰り道、
学校が終わると、大体帰り道の途中にあるゲーセンに寄って、ゲームをするのが日課だった。
肩にかかるくらいの栗色の髪。
制服は指定された通りにしっかりと着ている陽佳は、イヤフォンを付けたままゲーセンの中を歩く。
ゲーセン内の騒音は、イヤフォンから流れる音も全部かき消してしまうほどだ。
それでも陽佳はイヤフォンを外すことなく、目的の『台』の前に座る。
『格闘ゲーム』――いわゆる格ゲーをプレイするためにやってきた。
陽佳の趣味の一つ……と言うより、それくらいしか趣味がないのだが。
「……」
懐から小さな小銭入れを取り出すと、ジャラジャラと音を鳴らしながら小銭を探る。
百円玉か五十円玉しか入れていないが、百円玉がないことに気付くと、陽佳は一度両替をするために両替機の方へと向かう。
(あれ……?)
対面側をちらりと覗いた時のことだ。
誰か座っている――それも、陽佳と同じ『
(誰だろ……)
少し気になりながらも、陽佳は少し面倒だな、と思ってしまう。
あまり人付き合いを好んでしない陽佳は、学校でも一人で行動することが多かった。
誰かと一緒にいるのが疲れる――そう思ったのは、中学に入ったあたりからだろうか。
誰と誰が付き合っているだとか、誰のことが好きだとか――そういう話題で『トラブル』があったりすると、いつも陽佳は面倒だと感じてしまっていた。
そう考えているうちにだんだんと人付き合いが減っていって――高校一年生の春、入学して二月は経っていると言うのに、陽佳には友達がいなかった。
それでも別に困ることはない。
陽佳は両替機に千円を入れて、チャリンチャリンという音が周囲に響く。
ちらりと、陽佳がプレイする予定の台に視線を送る。
その対面に座っている少女は、長い黒髪を後ろで結び、腕まくりまでして気合い十分といった感じだった。
(あれは……)
陽佳もよく知っている人物だった。
学校の男子だけでなく、女子達もよく噂しているところを耳にする。
『緑凛の女神』なんて仰々しい呼び方をされている、クラスメートの
(何でこんなところに……?)
そんな疑問が浮かんでくるが、それを言うなら陽佳も同じだろう。
ひょっとしたら、彼女はゲーセンでゲームをするのが好きなのかもしれない。
ただ、陽佳には別に関係のないことだった。
百円玉も一枚手に持ち、残りは小銭入れにしまう。
(二台あるし、もう片方でいっか)
俗に言う『店内対戦』を好んで行う陽佳であったが、対面に関わり合いのないクラスメートがいるとなると気まずい。
もう一台の方でプレイして、適当に時間を潰そう――そんなことを考えていると、席に戻る途中で蓮がこちらをちらりと見ているのが分かった。
一瞬、視線が交わる。
だが、すぐに陽佳は視線を逸らした。
(……あ)
座席に戻ろうとしたところで、別の人が座っているのが見えた。
対面に人がいるから避けたのだろうか。
こうなると、空いているのは蓮の対面か隣だけだ。
(……帰ろうかな)
何となくそんなことを考えていると、少しだけ対面側から蓮が顔を出しているのが見えた。
再び、陽佳と蓮の視線が合わせる。
そして、「やらないの?」と口で言っているのが見えた。
陽佳は少しだけ、むっとした表情になる。
別に挑発しているつもりはないのだろう。
けれど、そう言われると引き下がるのも癪であった。
どのみち、ここでやらなければ「昨日、ゲーセンにいたよね?」とでも話しかけられる可能性はある。
(じゃあ、軽く遊んで帰るか)
陽佳はそう考えて、蓮の対面に座った。
ゲームについては、はっきり言って結構やり込んでいる方だ。
陽佳からすれば、ゲーセンに通っているような雰囲気もない蓮に負ける要素などないと考えている。
(『投げキャラ』ね。確かに火力はあるけど、私のキャラも不利ってわけじゃないし)
蓮が練習している姿を見ながら、陽佳は百円を投入する――関わり合いのない二人が、初めてゲーセンの格ゲーで関わり合いを持った瞬間だ。
――陽佳はこの後、コテンパンにやられることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます