第2話 狂気の部員
「ん、戻った。連れて来たよ」
「こんにちは。
私が部室―もといゴミ溜め―で九頭先輩の話を聞いていると中学生?くらいの少女が入って来た。黒髪ボブの可愛らしい少女だ。
横には黒髪ロングの清楚系美人を連れている。
「お、そっちも新入部員っすか」
「ん。見込みあり。その子は?」
「
「みかくにん、か。悪くない。よろしくね、ゆう」
は?今この子、私に向かって「ゆう」って言ったか?私は忍だが?
「あの、私はみすみしのぶって言うんですけど。ゆうとは一体?」
「三角忍、音読みしてみて」
み、かく、にん。なんと、未確認ではないか。超常研にぴったりな名前だね!
「未確認、それは分かりました。でもなんで『ゆう』なんです?」
「Unidentified Mysterious Animal。未確認生物、通称UMA。Uは未確認のことだよ。だからゆう。簡単でしょ。ふふ、かわいい」
「は、はあ……」
「私は
九頭先輩といい名前の癖がいちいち強いんだよな。ラヴクラフトの血縁かよ。ってかこの人三年なのか。どうみても中学生じゃねーかよ。まあ悪い人ではなさそうだ、
「よろしくお願いします。
「ん。ほら、りんも挨拶」
「は、はいっ。
黒髪ちゃんが挨拶をしてくれた!
おい清楚じゃねーか。こんなまともな奴がいてくれて私はうれしいよ全く。
「よろしく、輪禍ちゃん!」
ああよかった。これでまともな青春が送れるよ。
「では、お近づきの印にこれをどうぞ」
「なんと、ご丁寧にありがとう」
輪禍ちゃんは何やらDVDを差し出してきた。
「へえ、ホームシャークアローンねぇ」
あらすじは……『クリスマスに少年クリスは一人でお留守番していたところ家にサメが襲来!家の中を自由に泳ぎ回るサメを知恵と工夫でぶっ殺せ!』か。
おい待て。
「なんだよこれ! 弩B級じゃねーか!」
「まあ!よろこんでいただけて嬉しいですわ」
ああ、ダメだ。そうだよ、こんな部活に来る奴がまともな筈なかったよ。黒髪清楚の「ですわ」口調でB級映画好きって何なんだよ。どんだ属性盛れば気が済むんだよ。
「気に入っていただけならまだまだありますわよ。スクールシャーク、ロードオブザシャーク、シャークマンなど!」
次々とDVDを取り出す輪禍ちゃん。つーかVHSも混ざってるじゃねーか。どんだけガチ勢なんだよ!
善意でやってくれてるし断れん。こんな時は……
私は満点の笑顔で返す。
「ありがとう! でも気遣いは無用だよ。友達でしょ!」
「そうですか、またいつでも言ってくださいね」
ふう、耐えたよ。
「ねえるふ。四人、揃ったね」
「確かにそうっすね。部活動申請してくるっす」
安里先輩が九頭先輩をつつく。
四人、とはどういうことだろうか。
「あの、四人とは一体?」
「ああ、四人揃うと同好会から部活動に昇格できるんすよ。うまくいけば予算が増えて部室が広がるっす。これでこのゴミ溜めともおさらばっすよ!」
そう言って九頭先輩は部室を出ていった。
いや、ゴミ溜めの自覚あったのかよ。なら片づけとけよ。新入部員迎える部屋じゃねえよ。
「ひとまず片付けよう。これじゃあ新入生の歓迎もできない」
「「はーい」」
というわけで、片づけのお時間です!
この時の私は知る由もないのであった。これから始まる地獄を……
◇ ◆ ◇
はい、侮ってました。
拝啓、私が超常研に入部して五日が経ちました。
私は愉快な先輩と気のおけない同級生と一緒に愉快なツチノコライフを。
送っているはずもなく! はい、まだ片づけは続いています!
「そろそろ半分いきそうっすね! やっぱり四人いると速いっす」
九頭先輩は嬉しそうに言っているが待て、まだ半分っつーのが適切だろ。四人で一日三時間、十日かかる片づけって何なんだよ!一人でやったら一二〇時間、つまり丸五日じゃねーか!
私はとにかくその辺にある物を拾ってはゴミ袋に放り込む。五〇枚目あたりから使った袋の枚数を考えるのは諦めました、
「うーん、これはゴミかな? 先輩」
「ん、これは縄文土器。重文クラスだから気をつけてその辺に置いといて」
「はーい」
なるほど、重文か! っておい!
「重要文化財クラスって! なんでこんな所にあるんですか!」
「あー。それって確か古代河童文明の古代遺跡探しの時見つけたんすよね。私は教育委員会に届けようって言ったのに有珠さんがかわいいから持って帰るって聞かなかったんすよ。そろそろ時効かな?」
「………」
もうね、突っ込むのが無駄なんです。どんだけこっちの常識を改変してくれるんだよこの人たち。
この数日少しづつ超常研のメンバーについて分かってきた。ここらで軽くまとめておこう。
部長:
九頭先輩は無茶苦茶頭がいい。一瞬で超常研の部活動昇格を生徒会からもぎ取ってきたし校内一成績が良いらしい。
何を質問しても一瞬で答えてくれる。一度興味本位で米軍最高機密を聞いてみたら延々と語り出して酷い目に遭ったよ。真偽は、今は置いておこう。
金髪美人さんで頭も切れるからさぞモテるのかと思いきや発言がアウトラインを攻めすぎ、というかゴリゴリにアウトだから校内じゃ浮いているそうだ。
クラスの子の噂によると怪しい実験をしてるとか、、、多分事実だ。
そして超が付くレベルのオカルトマニア。古今東西のオカルト話が無限に出てくるよ。
うん、頭がおかしいね。
副部長:
安里先輩は『可愛い』の感性が狂ってる。さっきまで冬虫夏草をうっとりと眺めてたしこの土器の形もぶっちゃけキモいよ?
小さい頃にツチノコの可愛さに一目惚れしたのがきっかけで超常研に入ったらしい。
本人が小動物キャラでホントにかわいいのにこのギャップですよ!
部員:
輪禍ちゃん。彼女はまともだね。
B級映画マスターであるという点を除けばな!
彼女の口から飛び出す聞いたことのないサメ映画やパロディ映画の数々。初見の黒髪清楚お嬢様はどこに行ったんだよ。これで相対的にまともというのだからこの部活の狂いっぷりがお分かりいただけるだろう。
部員:
唯一の常識人とは私の事です。
顧問:
唯一名前がまともだね。でも中身は…
名は体を表す、なんて言葉を考えた奴を殴りたいよ。
この人は常識が欠如してる。
クラスではさ、優しい若い美人教師ってことで大人気なのよ。
でもここに来ると別人です。クソダサファッションで美貌を帳消しにしつつ酒を飲んでいます。
そう、酒を飲んでいるのだ! 四時過ぎの学校で!
うん、頭沸いてるの?
とまあ、こんな愉快で狂った仲間に囲まれて私の青春が始まったってわけだ。一応言っておくとみんな優しくて良い人です。
「九頭先輩、これって何です?」
液体で満たされたビンの中に何かが入っている。魚かな?
「ああ、河童っす。水掻きの部分ですね。そっちの方掘れば甲羅と頭も出てきますよ」
はー、河童か。でももう私はこの程度のことでは驚かない…
「わけないだろうが!!!」
「どうかしたんすか?」
平然とした様子で九頭先輩は私の顔を覗き込んでくる。ちょっとした仕草まで美人だなおい!
「河童ってあの、頭に皿載せてキュウリ食べる奴ですよね?いるわけないじゃないですか!」
「いるっすよ? 正体は水死体だ何だと言われてますが河童は実在します。昔は海底に文明を築いてたようですけど今じゃすっかり見ないっすねー」
はあ、もう終わりだよこの部活。
「これは手付かずの海岸で見つけた死骸っす。河童族は水がないと体組織を保てないのでホルマリン漬けにして保存してるんすよ」
淡々と当たり前のように九頭先輩は語っている。
「そもそも河童というのは伝説のアトランティス大陸を起源とする海生生物でして、頭の皿はソナーの役割を果たしていたと言われてます。甲羅はサメみたいなのから身を守るための物っすね。河川に生きてたらあのサイズの生物に甲羅なんて必要ないっすから」
「なるほど、理解しました」
はい、理解できないっていうことを理解しましたよ!
でもさ、なんだか妙に説得力があるんだよね。九頭先輩の話は。本当に事実を語るように淡々と話すから騙されそうになるよ。詐欺師の才能があるね。
まあそんなことを考えながら片づけを進めていくよ!
次はこの箱っと。
「お、ツチノコじゃないっすかそれ。懐かしいっすねー」
九頭先輩は私の手にしている木箱を指して言った。
「へ? ツチノコ?」
「そうっすよ。開けてみてください」
恐る恐る桐の箱を開く。パンドラの匣ってこんな感じなんだろうか。
ぱかーん。御開帳です。
「これって…」
「そう、これがツチノコっすよ。最強の妖怪、土ノ蠱の分霊っす」
箱の中にあったのは、、、ツチノコだった。胴体の太い蛇。トカゲでも何かを飲み込んだヘビでもない、本物のツチノコだった。
質感がね、蛇やトカゲとは違う。全く別の生き物だ。
そして、次の瞬間。ツチノコは一瞬で砂になった。
「あっ!」
「気にしないで大丈夫っすよ。ただの分霊っすから。死んでたんで丁度いいっす」
は? 何を言ってるんだ?分霊、とは一体?
「分霊ってのは魂を少し切り取ったものっすね。それを
「その、、、そもそも
ああ、そうっすね。と言ってビーズクッションに腰かけた九頭先輩は語り出す。
「蠱とは即ち呪いの意。世界を創造した根源たる呪い、その一柱が土ノ蠱っす。昔は水ノ蠱、火ノ蠱などのあらゆる属性の蠱がいたんすけどね。土ノ蠱がそれら全てを喰い尽くしました。そうして最強となった土ノ蠱は妖怪と言うより最早神の領域に片足突っ込んでる化け物っす」
…やっぱり頭がおかしいでしょこの人。もう小説でも書いてなよ。月刊ムウにでも寄稿すれば売れっ子間違いなしだよ。
「やっぱり疑ってますね。でも忍さん、今見たでしょ。紛れもない、ツチノコが土塊に変わる瞬間を」
確かにそうだ。あの神秘的な瞬間は本物だった。
だったら本当だというのか、この馬鹿げた土ノ蠱とかいうものの存在も。
「はあ、分かりました。信じますよ。で、そんなものを集めて何がしたいんです?」
「土ノ蠱殺しっすよ。あーしら超常研は土ノ蠱を倒すための集団として発足したんす」
「倒す?」
土ノ蠱を倒して何がしたいというのだ。一億とか言ってたじゃないか。
「土ノ蠱はね、強くなり過ぎたんですよ。緻密に整えられた世界の均衡を崩すほどに。あらゆる妖怪や魂を喰い尽くしたことでね。だからその存在が神に至る前に殺す。極東の魔術的な組織は殆どが土ノ蠱殺しを目的として発足した、って言われたら信じます?」
そう言って九頭先輩は不敵に笑う。でもその目は真剣そのものだ。
この話は本当なんだろう、そう思わせるだけの魔力を秘めている目だ。
「歴史上、魔術結社っていうのは巨大な敵を倒すために発足したケースが多いんです。それはなぜか、魔術を以てしても倒せない強大な敵に対抗するためっす」
そう言って九頭先輩は何かを口の中で唱える。
次の瞬間、先輩の手から炎が飛び出した。
「御覧の通りっす。魔術ってのは物理を超えて不可能を可能にする。だから大抵のことはできるんすよ。極めれば世界征服だってね」
そう言って先輩は平然と宙に浮いて見せる。
「つまりね、魔術師ってのは基本的に一人でなんでもできる。群れる必要が無い生き物なんすよ。逆に、魔術師という孤高の存在が集まるときはそれなりの理由があるってことっす」
「それが、土ノ蠱ってことですか」
「ご名答っす」
そう言って九頭先輩は炎で世界地図を空間に浮かび上がらせる。
「極東だと土ノ蠱、ヨーロッパではドラゴンなんかがそうっすね」
作り話にしては出来過ぎてる。もう信じるしかないじゃん、こんなの。
「それで、超常研も土ノ蠱を倒すために生まれた魔術結社ってことですか?」
「正解っす。騙して入部させたのは悪かったっす。どうします? やめても構わないっすけど」
正直、怖いね。こんなこと聞かされたら。
でも、同時に感じるんだよ。この胸の奥から湧き上がってくる高揚感。
ああ、気づいたよ。私はワクワクしてるんだ。
だったら答えは決まってる!
「よろしくお願いします、先輩!」
九頭先輩は笑顔でこう言った。
「改めて、ようこそ。超常研究同好会へ」
我ら超常研究同好会 まくつ @makutuMK2
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