我ら超常研究同好会

まくつ

土ノ蠱ヲ討伐セヨ

ようこそ超常研へ

第1話 超常研究同好会

「バレー部部員募集中です!」

「バスケ部は楽しくやるのがモット―です!いかがですかー」

「陸上部は未経験者歓迎です!」


 はい、今日は高校の入学式。私、三角みすみしのぶは本日から高校生!

 今はあれですよ。スポーツマンガの定番、部活動勧誘というやつですよ。

 まあ運動音痴の私は入る気なんてないんだがな! 私は帰宅部として青春を謳歌するのだ!


「新聞部で全国行きましょう!」

「ウチの放送部は強豪ですよー」

「一緒にツチノコ探しどうですか!」

「アニメ好きの人、アニ研いかがですかー」


 うんうん。本校は文化部も盛んなんだね。新聞、放送、、アニ研かあ。


 っておい待て、今って言ったか??? あの腹が太いヘビ?あれを探すって?


 咄嗟に声のした方を振り向く。


 長い深緑色の髪の女の人と目が合った。待て、緑色って、、、しかしよく見れば美人だ。でもそれも台無しだよ。

 UMA。どどーんと極太のゴシック体で書かれた黄色のTシャツ。いや、ダサすぎでしょ。小学生男子のセンスの方がまだマシだろこれじゃ。

 おまけに『超常研究同好会』と書かれた錦の幟。おい、どんだけセンス無いんだよ。


 緑の髪、黄色のTシャツ、錦の幟。うーん、信号機お姉さんとでも呼ぼうか、なんて考えていると、


「君、超常研に興味あるんだな! よし、部室を案内してやる! 早速ついてこい!」


 はい、突然声をかけられました。まさか興味があると思われたのかよ。


「へっ? いや、そういうわけじゃ」

「遠慮するな早く来い!」


 容赦なく信号機は私の腕を掴んで引っ張ってくる。細い腕なのに凄い力なんだが?万年帰宅部の私が抗える力じゃない、、、


 …というわけでやって参りました。超常研究同好会?とやらの部室です。

 文化部の部室棟のすみっこ、掠れた文字のプレートがかけられているね。


「さあ、着いたぞ! ようこそ、超常研究同好会の部室へ!」

「お、おじゃまします」


 恐る恐る足を踏み入れる。ぼろい外見とは裏腹にそこには綺麗に片付いた部室が!


 あるはずもなかった。


 いや、部と言っていいのか?これ。部屋じゃない。最早ゴミ屋敷と言った方が適切なのではなかろうか。

 まず足の踏み場がない。誇張抜きでマジで無い。乱雑に散らかったよく分からない物の山。もう床が見えねえよ。


 そんな謎の物の海の上に小島のようにビーズクッションが浮いている。その上には…


「お疲れっす。新入部員っすか?」


 金髪ショートカットのいかにも令和っぽいJKがごろごろしながら声をかけてきた。


 こっちに目をやることなく有名なオカルト誌『ムウ』を開くその横顔は、ぶっちゃけ可愛い。かなり可愛い。

 信号機お姉さんといい変人ってどうしてこんなに美人なんだろうね。


 金髪さんは少しムウを眺めてクソデカため息をついた。


「はあ、つまらんっすね。中途半端なリアリティーを求めた結果がこれっすよ。ねえ新入部員君、君もそう思うっしょ」

「ええと、そうなんですね……」


 何なんだこの人。戸惑う私の肩に信号機お姉さんが手を置く。


「紹介するよ。彼女が超常研究同好会部長の九頭くとう瑠符るふだ」

「どうも、二年五組の九頭っす。よろしく」

「えっ? 信号機さんが部長なんじゃ?」


 あ、言っちまった。


「はっ! 信号機か。確かにそう思われても仕方ない。名乗るのが遅れてすまないな。私は山本静香。ここ超常研の顧問をやっている者だ」

「なるほど、顧問ですか。ってえええええ!?!?!?顧問!?!?!?貴方が???」


 顧問ってあの、部活を監督する先生のことか?いやおかしいだろ?

 どうみてもこの人社会人に見えないよ?


「そうだ。顧問だ。それでいて君の担任でもあるわよ? 三角みすみしのぶさん」

「へ? あ、確かに、よく見れば」


 担任の山本先生、確かにこんな感じだったかもしれない。

 昨日は緊張しすぎてまともに眠れず寝不足でね。担任の顔をよく覚えてなかったんだよね。

 それに話し方変わりすぎでしょ。教室ではもっと上品な雰囲気だったぞ。


「で、ここが超常研究同好会。その部室だ。何か質問はあるか?」


 ありますとも! それはもうありとあらゆるほどにね!


 そう言いたくなるのを抑えて一つだけ聞く。


「その、超常研って何をするんですか?」

「よくぞ聞いてくれたな! 超常研とはその名の通り、超常を研究する同好会だ。ツチノコ、河童、ネッシー。聞いたことくらいあるだろう? 私達は空想生物を研究している!」


 ……ダメだ。話にならない。馬鹿なのか?いるわけないだろう。そんなの。


「疑ってますね。でもいるんすよ、超常生物は」


 九頭先輩は私を見もせず寝転がって言う。この人、体の横に目でもついてるのか?


「火のないところに煙は立たぬ。至言っすね。本物がいるから噂になるんすよ」

「いやでも、ツチノコは何かを呑み込んだヘビって言われてますよね。幽霊の正体見たり枯れ尾花って言葉もありますよ」

「因果関係が逆っすね」


 我ながら上手いと思った返しを九頭先輩はばっさりと切り捨てる。


「確かに世の中で騒がれる超常現象は殆ど、いや全てが勘違いと言ってもいいっすね。でも、それの起源オリジンは紛れもない本物なんすよ」

「どういうことですか?」


 何を言っているのだ、この人は。自分からツチノコはいないと認めているじゃないか。


「人がツチノコを知るまではね、ツチノコなんていないんすよ。何かを呑み込んだヘビを見た人はそれを『何かを呑み込んだヘビ』って言うでしょうね。でもある日ツチノコが現れたら、常識は変わる。そうなったらね、何かを呑み込んだヘビはツチノコになるんすよ」


 月刊ムウをぱたんと閉じて九頭先輩は続ける。


「始まりはね、本物なんす。本物があるから偽物が生まれる。さっき忍さんは言いましたよね。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って。それはその通りっす。思い込みで、人は何てことない情報を曲解してしまう。でもその思い込みを作るのは紛れもない本物オリジナルなんすよ」


 なるほど、確かに説得力はあるのかもしれない。納得してしまった自分が悔しい。


「それは分かりました。でも入部は」

「一億円」


 お断りします、と言いかけた私の声を九頭先輩が遮る。


「とあるテレビ局がツチノコにかけられた懸賞金っす。世の中には超常を面白がる奴は沢山いる。本物が見つかった時の経済効果はそりゃもう大きいでしょうねぇ。珍しい生き物の生息地が潤ってるのを見れば明らかっすよ」


 そう言って九頭先輩は私とようやく目を合わせる。


「夢、あるでしょ。結局は浪漫なんすよ。ただまあ忍さんはそんなんじゃなびかないかな。というわけで活動参加は自由、勉強はタダで教える。それでどうっすか?ぶっちゃけ人手は喉から手が出るほど欲しいんす」


 そう言って九頭先輩は微笑んで私に手を差し出す。開いた窓から流れてくる風が綺麗な金髪を揺らした。うん、惚れちゃうねこんなの。


 多分この人は相当頭が切れる。私の思考をこの一瞬の会話で把握したんだ。こんな人なら、ついていってもいいかもしれない。


「それじゃあ、他に入りたい部活もなかったし。よろしくおねがいします」

「歓迎するっす。ようこそ、超常研究同好会へ」


 私は九頭先輩の手を取る。今ここに、私の青春が幕を開けるのである!


 ドンガラガッシャーン!!!


 うん、手を取った瞬間バランスを崩してよく分からない物の山が崩れたよ。見事に生き埋めです。


 とまあ不格好だけどもう一度。


 今ここに! 私、三角忍の超常青春物語が幕を開けるのだ!

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