第2話 曇り空の下、雨が降る

そこから1週間。


授業中も。

休み時間も。


藍ちゃんにあんなこと言われた後じゃ、気になって仕方なくて。

隣の席で一緒に活動するときも、変に固まってしまった。


「蒼葉ちゃん!ここ、x=4であってる?」

「あっ、えっと……うん!たぶんだけどねっ」


び、っくりしたあ……。

いきなり奏君に話しかけられて心臓が騒ぎ出す。


「ふふふ、蒼葉ちゃーん?」

「あっ、藍ちゃんっ……?」

「今、話してたよね」

「見っ、見てたのっ⁉」


さっきの会話を思い出し、かあっと顔が熱くなる。

藍ちゃんはきっと、私の反応見て楽しんでいるんだ。


「やっぱり好きなんだよ。何かと蒼葉ちゃんに話しかけてくるし」

「そ、それはただ単に頼られているからであって……」


こそこそと耳打ちしてくる藍ちゃんに、赤くなりながらも首を振って否定する。


「応援してるよ」


ニヤニヤ笑っている藍ちゃんを見て、もう~と頬を膨らませる。


すると、授業中にも関わらず、クラスメイトが奏君に何か聞いているのが聞こえた。


「そーうくん。好きな人って、同じクラスなんでしょ?」

「あーうん」

「その人の性格は?」

「えっ、それは言ったらバレるでしょ! めっちゃしぼられちゃう」

「えー教えてよー」


今は授業。

授業やらないと。


頭ではそう理解しているのに、先生の言葉が頭に入って来ない。

かわりに、隣の会話が鮮明に聞こえてきた。


「あっ、じゃあその子が所属している部活動は?」

「部活かあ。それなら言ってもいいかな」

「えっ! 良いの⁉ 教えて教えて!」


部活動かあ……。

私は吹奏楽部。


「しょうがないなあ……黙っておいてよ? えっと……」


頭の中で計算していた数式が、一瞬でどこかに飛んだ。



「たしか、陸上部」



死刑宣告にも思えるその声が。私の耳に、届いた。


カラン、と音を立ててシャーペンが机から落ちる。

今は、下を向いちゃいけない気がして。


拾ってくれた周りの子に、笑顔を作って「ありがとう」と微笑む。


笑えていたかな。

大丈夫かな。


こんなこと、最初から分かっていたはずなのに。

いままで、否定してきたのに。そんなことないって。


何も聞こえない。


苦しさと、辛さと、悲しさが。

胸に残って、消えなかった。


この胸の痛さが、私の気づかないふりをしていた気持ちを肯定してくる。





――私は好きなんだ。奏君のことが。




好きだと気づいて、そして――失恋した。



窓から見えた景色は、どんよりと曇っていて梅雨入りを知らせていた。

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