この雨が晴れたら、虹の下で君と甘い恋をしよう

ほしレモン

あおぞらから始まる物語

第1話 晴れたあの日から始まった

夏が始まる6月のある日。


「ねー、そう君の好きな人、知ってる?」


 隣の親友から話しかけられ、びくりと肩を震わせる。

 中学2年生の私——青海おうみ蒼葉あおは——は本を読んでいたのをやめ、本を閉じて目線を少し上げると、にっこり笑った顔が映った。


 奏君。

 本名は、神崎奏汰かんざきそうた君。あだ名が、そう君。

 私のクラスメイトの一人で、頭がよく、フレンドリーで気が利く男子。

 学年問わずモテてるらしい。


 そんな奏君の好きな人。

 最近クラスの話題はそればっかりだ。


 いいのか悪いのか、席が隣だからその好きな人について、だいたい知っている。

 それでも、実際、誰なのかみんな知らなかった。


「知るわけないよー。そういう藍ちゃんこそ、知ってるの?」


 頬杖をつきながらたずねる


 藍ちゃんとは、私の大親友のこと。

 藍ちゃんはクラスの中心にいる女子と仲がいいから、情報の入手もすっごく速いんだ。


「もー。蒼葉ちゃん、自覚なさすぎ! 奏君の好きな人、蒼葉ちゃんに決まってるじゃん!」

「えっ⁉」


 あの人気者の奏君の好きな人が……、私っ⁉


「ないない、冗談きついよ」

「冗談じゃないって! マジで言ってるの!」


 にやにやと笑いながら私の目を見てくる。

「そんなわけないよ!」と、藍ちゃんに負けずに反論する。


 真っ赤になって否定するけど、藍ちゃんはにやにやと笑うばかり。

 も~っ!!!

 

 どうすればいいか、あわあわしていると終業のチャイムが鳴り、話は終わった。

 よかった、チャイムに救われたよ……。


 ははは、と笑いながらちらり、と男子と一緒に話している奏君を見る。

 あの、奏君が……。


 なんでだろう。

 そんなことないとわかっていても、なんでこんなに胸が騒がしいんだろう。


 そんなことない、そんなことない。


 どんなに言い聞かせても、藍ちゃんの言葉が頭から離れない。


 ――『奏君の好きな人、蒼葉ちゃんに決まってるじゃん!』


 奏君のことをそっと見た。


 とくん、と胸が鳴った。


 それがどうしてなのかは、よくわからないけど。


 ふと見つめた空は、何かの始まりを示すように、すっきりと晴れていた。




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