第38話 努力

「……ジャレッド、私とアムアへ来ないか?そこで沢山の魔法を学び、研究すれば、正規の方法で母と生きて再開出来るかもしれない。」


「……!!行きます!!」


大魔法師様は本当に容赦がない方だった。自国のためならどんな手段だって厭わない。そして俺は、その罠にまんまとはまってしまった。


アムアへ行く前に隣国であるフェートン王国に行った。そこでフランと出会い、船でアムアに向かっている1ヶ月の間に親しくなった。


アムアに着いて規則を聞いた時に、俺は騙されたんだと漸く気が付いた。


「規則に則って、2人の記憶は捨ててもらう。」


「……え?/はい。」


フランは戸惑うどころか、嬉しそうに大魔法師様に近寄り、真っ先に記憶を消してもらった。


5歳も年下のフランが恐ろしかった。記憶が消された後は、魂が消えたかのように無となり、瞳には一筋の光もなかった。


「フラン?フランに何をしたのですか?」


「副作用だ。すぐ元に戻るから安心しろ。」


そう言って、半ば強制的に俺の記憶も消した。少しの間、世界が白黒に見えた。まるで色を塗る前の絵みたいな。


それからは、無意識に母を思い出して勉強と鍛錬に明け暮れた。……けれど


「みてみて!ジャレッド!おれ、初級魔法が……」


「ジャレッド!おれ、下級魔法を……」


俺の親友は俺を遥かに上回る才能を秘めていた。たった一年で、しかもほとんどサボっていたのに初級魔法と下級魔法を使えるようになった。


その頃、俺は初級魔法すら使えなかった。更に一年が経ち、俺がやっとのことで初級魔法を習得すると……


「おれ、中級魔法が……」


もう、やめてくれ……。俺の努力を、なんの意味もないかのように砕かないでくれ……。


悪気がないのは分かってる。でも、フラン。お前は分からないだろうが、悪意のない自慢が一番心を抉られるんだよ。


数十年の月日が経ち、フランとは違う魔法使いになりたくて、着いてきたフランと一緒に大陸に行き、実験を行おうとした。


その時、偶然母国であるオンセプリト王国で母さんの墓を見つけた。草花が生い茂り、原型が分からないほどだったけど。


隣に建てられていた家は古くなったのか、虫に骨組みを食べられて崩れていた。最初はなんとも思わなかった。けれど、俺の身長を記した壁が視界に入った途端に、今まで忘れていた記憶が一気に頭の中を駆け巡った。


「……ただいま。母さん。最期に会ったのは37年前かな。」


「ジャレッド?」


母さんの墓に抱き着いた。冷たいけど、どこか温かいぬくもりがある。


涙が止まらなかった。ずっと大切なものを放置してきたことを知らずに生きてきたのが悔しくて、苦しかった。


「……ジャレッド、大切な人なんでしょ?邪魔なものを綺麗に片付けてあげないと。」


「うん。」


どこぞのピンク髪と違って、俺が大魔法師様を恨むことはなかった。ずっと憧れてきたから今の俺が生きているし、フランとも戦えてる。


10年後、


「ジャレッド、おれ……最上級魔法を……」


「それ以上言うな。」


……なぜ?俺とフランでは何が違う?秀才は努力しても天才に勝てないのか?


迷うよりも先に、体が動いた。大陸の情勢を調査するという口実で大陸に赴き、魔道具店で質の良い魔法石を買い漁った。


「これさえあれば、俺も天才に……」


なれなかった。フランが本格的に魔法を使っている姿を見て、魔法石を使ってもフランには勝てないと痛感した。


更に最近では……


「大魔法師様の弟子になりました。フェートン王国の第4王女、オルラ・シュア・フェートンです。」


大魔法師様は弟子を一切取らないことで有名だった。その弟子はフェートン王国の王女。しかも、直系、純血の王族。


いくら大魔法師様といえど、国際的地位が上の、フェートン王国国王の権力には敵わない。この王女は、自国の権力で無理やり弟子になった卑怯者。


仲良くなれない?それがどうした。あんな小娘と仲良くなるなんて、こっちから願い下げだ。


小娘なんか……オルラなんか…………


「あたしはやるべきことをやったまでですから」


本来は俺達がやるべきことなのだがな。オルラ。

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