第34話 空想

アムアに来てすぐ前大魔法師様に弟子入りし、5ヶ月後に初級魔法を、その2ヶ月後に下級魔法を、5ヶ月後、アムアに来て1年後に中級魔法を使いこなし、『魔法使い100億人に1人の逸材』と呼ばれる時期もあった。


その時わずか8歳だったこともあり、最年少記録を3回更新した。この記録が一つでも破られることは、もう二度とないだろう。


「す、すごいね。ネリネ。俺が教える必要も無さそうだけど……。」


「師匠のお教えがとても丁寧だからです。師匠のおかげで、私、今すっごく毎日が充実している気がするんです!」


この頃は、私もよく笑っていた。


その一年後、師匠と一緒に大陸へ行ったとき、連れられた定食屋ではじかみを食べた。


あんまり美味しいとは思わなかったけど、師匠が好きと言っていたから、味は気にせず、癖で食べるようになった。


さらに月日は流れ15歳。私は史上最年少で上級魔法を習得した。しかし、その後魔力の純度や量が高くなることはなかった。


3年経っても最上級魔法が1つも使えず、逸材と呼ばれた私の地位は揺らいだ。


そしてついに、禁じられていた魔法石に手を出した。けれど、それでも最上級魔法を習得することは出来なかった。


20歳の時、フェートン王国で魔法石による『石熱病』を患った。酷い高熱で死にかけていたところを、偶然訪れた王宮医によって助けられた。これは、私の人生最大の幸運で、人生最大の失態となった。


口外しないように念押ししたが、王宮医は王族にそのことを報告した。そして、王族はアムアで禁じられていた魔法石を私の弱みにして数々の命令を下してきた。


しかし、魔法石はメリットも大きかった。魔法石で石熱病を患った後は、魔力が信じられないほど膨大になることが、私を実験体にすることで判明した。


そのお陰で25歳の時、歴代最年少で最上級魔法を使いこなし、高齢だった師匠……前大魔法師様の後継ぎは、ほぼ確実に私になった。


「ネリネ・アマンダを大魔法師に……任命する。」


私が50歳の時、518歳だった師匠は他界し、遺言として私を後継ぎに指名した。


大魔法師になってまず最初に行ったのが、規制が緩かった魔法石の全面禁止だった。使うことはもちろん、所持することも禁止した。


魔力が膨大になるとはいえ、アムアの魔法使いを苦しませたくはなかった。


次に、威厳を見せるためという理由で大魔法師はアムアに名前を全て捧げる法律を作った。本当は、自分の名前が忘れたいほど嫌いで、鬱陶しいから。


さらにアムアの魔法使い全員の記憶と苗字を不完全だけど捨てさせた。暗い過去を聞くのはもううんざりで、過去を見てほしくないから。


その後の100年は、ルア、フランクリン、ジャレッド、コーデリアを大陸から拾い、他の魔法使いが育て上げ、今では私が弟子を取った。


「今はここが、あたしが住んでる国なんですから!家族であろうと、血が繋がっていなくても、関係ありません!」


……私が弟子と同じ年齢で、同じ立場だったら、弟子のように他人を見捨てなかっただろうか。


いや、迷わず見捨てていたはず。情が入っていない土地の人間など、私は興味がないから。


家族であろうとも、私は迷わず家族を見捨てていた……。


……でも、もう死んでいるであろう私の両親に、150年振りに会ってみたい。本当はずっと分かってた。お金さえあったら、時代が違ったら、両親は私をたくさん愛してくれてたって。


とうかあ、私、どん底から、こんなに成り上がった。とうかあも、新聞とかで私の存在を知っていたの?


そう思った瞬間、心から感謝を伝え、心から微笑むことが出来た気がした。


でも返事は当然、来るわけもなかった。



我に返った私は、今の状況を思い出した。無駄なことは考えず、弟子を追わなければ、その気持ちで頭の中をいっぱいにした。


「……弟子の所へ行くぞ。」


「は、はい!」


そうして、コーデリアの家に向かった。

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