第33話 また会う日を楽しみに

「……俺は、ルイ。だが、俺のことは大魔法師と呼んでくれ。お嬢ちゃんの名前は?」


「ネリネ・アマンダ。」


ネリネの花言葉は、華やか、幸せな思い出、輝き、忍耐、箱入り娘、また会う日を楽しみに。私と程遠い名前で気に入らなかった。


私が下の名前もアムアに捧げる法律を作ったのは、この名前が大嫌いだったから。なにが箱入り娘だ。なにが愛されるに値するだ。産んだ責任も取れなかった愚か者共のくせに。


「ネリネ・アマンダ……いい名前だね。」


「どこが?」


「愛されてたって分かるじゃん。」


「そんなの知らない。それに、貧しかったのなら、私を産まなきゃ良かったじゃん。そうしたら、私はこんなに苦しまないで済んだ。」


あの頃は今すぐにでも私をこんなに惨めにした両親を呪ってやりたかった。私を産んだ責任を取らせてやりたかった。


私をこんな不気味で気色悪い外見にした神は、いつもそっぽを向いて、金持ちで欲張りな貴族共ばかりに温かく微笑んでいる。結局神も、お金と贅沢が大好きな傲慢野郎に過ぎなかった。


「人生は山あり谷あり。今はどん底でも、何ヶ月、何年、何十年もしたら、俺みたいに成り上がれるよ。」


「でも、私はこんな髪色だし、瞳も、気味悪いでしょ?そんな私が……」


「そんなことない。俺はその色好きだよ。格好良くて、ネリネが羨ましい。俺はこんな色のオッドアイだから、甘く見られがちなんだよね。威厳がないっていうか……。」


『羨ましい。』その言葉は、私の心に深く突き刺さり、物心ついて初めて、涙が垂れ落ちた。初めて感じる大粒の涙はしょっぱくて、止まることを知らずに次から次へと流れ落ちる。


前大魔法師様の人生は私でも知らない。前大魔法師様に聞いても、『労働』としか言わなかった。平民は割と当たり前だから少しは教えてくれてもよかったのに。


「ネリネ、俺と一緒にアムアへ行かない?死ぬのを待つしか出来なかった君に、俺が君が存在する価値を作り出してあげる。」


「変なの。……こんなゴミみたいな孤児院を抜け出せるなら行く。」


前大魔法師様が伸ばした手を掴み、朝になって院長に暴言を吐き捨て、前大魔法師様と共にアムアへ向かった。


アムアに向かっている途中に、前大魔法師様からアムアの規則を教えてもらった。そして、もし私が大魔法師になったとしても、その規則を緩めてはいけないとも言われた。


「なんでですか?」


「ネリネにはまだ難しいだろうけど、大陸に弱みを握られたり、家族同然の魔法使いが危険に晒されたくはないからさ。」


「……」


記憶がなくても、私は師匠の教えを無意識に覚えていたみたい。

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