第32話 外の世界

「魔法石、家族……血……。」


「大魔法師様?」


弟子がコーデリアの家に行った後、ちょっとした頭痛に襲われ、思い出したくないを全て思い出した。


「ネリネ・アマンダ……。記憶、全部、思い出した。」


私は貧民街で生まれた。そして、物心着く前に孤児院に捨てられた。


「お前、黒髪に紫の瞳なんて珍しいな。カラスみたいで気色悪ぃ。近寄んじゃねぇよ。」


「あっち行って!アンタなんかと遊んだらあーしまで嫌われちゃうじゃん!」


6歳になっても、私は孤児院に馴染めなかった。院長も私を不気味に思い、他の孤児は部屋の布団で寝かせて、私だけは物置部屋で寝かせていた。


布団もないから、キッチンの釜戸から焦げた温かい藁を盗んできて、物置部屋の床に敷いて寝ていた。


「寒い。早く冬が終わらないかな。それか、一年中暖かい南に行きたい。夜は寒くて、怖い。」


私の住んでいた北部は夏が涼しくて、冬は寒い。それに比べて南部は、夏も冬もずっと暑いところだった。


でも、季節が進むにつれ、そんなことを考える余裕すら無くなった。日に日に釜戸の藁が減っていき、固くて冷たい床で眠るようになり、死ぬのも時間の問題だと考えるようになった。


後から知ったけど、これは私を嫌っていた孤児の仕業で、私への嫌がらせで藁を外に積もった雪の下に埋めていたらしい。


7歳になり、藁が一本も無くなった。生きることを諦め、凍え死ぬのを待っていた夜、私の恩人であり、偉大なる元師匠がやって来た。


「こんな才能の塊みたいな子を死なせようとするなんて、やっぱり大陸の人間はうるさいし、見る目がないし、無能だな。良い所なんて一つもない。猿って呼んだ方がいいかも。いや、一緒にされる猿が可哀想か。」


師匠は、若干声が高くて、たくましい体つきの男性だった。アイドルと見間違えるほどの美貌でネイビーの髪色で赤と緑のオッドアイを持っていた。


「おじさん、だれ?」


「おじさんって……。まだ475歳なんだけど?」


「人間は60歳までに死ぬよ。おじさんは頭がおかしいの?」


「……7歳って生意気なんだね。」


実際にこんな会話をした記憶がある。この時は魔法使いの存在を知らず、当然のことを言ったまでだと思っていた。


当時でも魔法使いは世界に知れ渡っており、存在を知らない人間は居ないとまで言われるほどだった。私は無闇に外の世界を知ろうとしなかったから、知らなかった。


「で、結局おじさんの名前は?」


「……俺は、ルイ。だが、俺のことは大魔法師と呼んでくれ。」

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