第29話 本当の幸せ

「大公子さま♡そんな下賎な女など気にせず、私を見てくださいな♡」


時々、大公子妃が勝手に部屋に入ってきた。その度に俺の一方的な喧嘩となり、父と母からも呆れられ、屋敷に俺の居場所はなくなった。


そんな生活を5年くらい続けていた頃、ゴミみたいな魔力しか持たない魔法使いがやってきた。


「窓ちっちゃ!それにここ3階の端っこなんだけど。いくら頼むのがぼくだと言って、大魔法師様は情報提供が適当すぎな……っていた!!?」


「……ラベンダー」


「し、シスル・サンダーソニア」


「……ラベンダー」


その時、ゴミはめんどくさいと思うような、呆れるような表情をしていたと思う。


どういう経緯でアムアへ行くことになったのかは忘れたけれど、ゴミに説得されてアムアに向かった。


そこで俺を待っていたのは、地獄だった。


ラベンダーとの記憶を大魔法師に消され、魔法のことしか楽しみが無くなった。


最上級魔法を扱えるようになって十数年が経った頃、俺は実験の為に大陸に行き、気まぐれで予定になかったテオール王国に赴いた。


その時、神のイタズラなのか、昔に迷い込んだところと同じ貧民街に足を踏み入れた。


その瞬間、全てを思い出した。ラベンダーとの思い出も、悲劇も、虚無も地獄も。


自由を謳った不自由に、俺は堕ちたんだってことも。


2年間はやる気も起きず、毎日家から出なかった。悲しみに暮れた時、外からこんな声が聞こえた。


「オレ、最近記憶取り戻したんだよね。それでさ、記憶を捨てる法律を作ったの、現大魔法師様らしいよ。」


(あの大魔法師様が……?)


俺の大魔法師に対する印象は、その日に覆された。ずっと、優しくて、かっこいい人だと思っていたのに、人の思い出をぞんざいに扱う卑劣極まりない人だと。


そんな裏の顔を持った大魔法師が憎くて、禁止されていた魔力封印魔法の研究を始めた。


あの日王女に会ったのも、研究に必要な魔力が含まれる海水を手に入れに行くためだった。


準備が整い、友達と呼べるような人が居なかったから1人で反乱を起こしたら……


「シスルさん。幸せ絶対来るから前向いてください」


あの時俺に抱きついてきた時にオルラが放った言葉。ラベンダーの花言葉は、幸せが来る。あなたを待っています。王女は花言葉を知っていた。


「私は辛い昔を見るではなく、今と未来を見てほしかった。」


大魔法師は昔にラベンダーが言っていたのと同じようなことを発した。まるで死んだラベンダーが、俺になにかを伝えようとしているみたいに。


「ごめん。」


……大魔法師はどんな人生を歩んだのだろう。そういった法律を作る時点で、良い人生ではなかったはず。


反乱を起こしたのに気になったり、深く考えすぎたりする俺の負けだな。謝るべきは、俺の方か。

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