第4話『頼み事』


 俺は茄子やトマト、ベーコンを切る。エレナにはパスタを茹でてもらう。

 俺は5分茹での細いパスタより、7分茹での太いパスタの方が好きだ。

 なので、7分茹での太いパスタを選んだ。


「大魔王様。お上手です」

「どうも」


 お昼は俺が料理すると決まっているのだ。なぜかって?

 そりゃあ、大魔王でも料理が出来た方が、貴婦人や若い子にモテるからさ。

 そう、料理を作ってあげると、相手が喜ぶ事を知っている。

 それにダンジョン暮らしは退屈だ。料理ぐらいしないと暇を潰せない。

 そして、トマトベースの野菜パスタができあがり。

 テーブルに出来上がったパスタを置き。彼女は市販のアイスティーでガラスのコップに注ぐ。


「「いただきます!」」


 俺達は、出来上がったパスタをすする。

 エレナは、目をキラキラさせ、ほっぺを抑える。


「すっごく、おいしいです!!」

「よかった」

「トマトの酸味と甘み、茄子も堅すぎず柔ら過ぎず、ちょうどいい。ベーコンもおいしいです。ガーリックが効いていて、パンチもある。麺は私が茹でましたけど。すごく、すごく、おいしいです」

「はは、そこまで喜んでくれたら、作りがいがあるな」

「あの、ディアナさんに、お昼の食事も誘った方が、良かったのでは?」

「まあな。誘ってもいいんだが、その前にエレナに折り入って話があるんだ」

「話とは?」

「確か、エレナは横浜の魔導大学で准教授として教鞭にたっているんだよな」

「そうですが?」

「いや、俺。魔導大学に生徒として受験しようと思う」


 綺麗な手からフォークがするりと、抜け、皿に落下。

 エレナは石のように、かたまる。そして、瞳を大きく開け。


「ええええええええええええ――!?」


 まるで盆踊りみたいなポーズをとる。俺は思わず吹き出し。


「ハハハ! いいリアクションだな!」


 すっげぇ、美人なのに。反応が面白いな。

 俺が爆笑していると、エレナさんは顔が真っ赤になり、コホンと咳払い。

 フォークを皿の隣に置き、一呼吸する、冷静な表情へ切り替える。


「その、大魔王様はどうして、うちの大学に? 大魔王様は魔導の王でもあります。大学で魔術を学ぶモノは、ないと思いますが?」


 至極もっともな疑問である。


「まあな。生徒じゃなく大学の講師として働くのもアリだが、俺には学歴がない。高校は卒業してるけどな。俺は普通に受験して生徒として、入学し大卒を取得する」


「なぜ、大卒を?」


 まるで、面接だな。


「そうだな。大卒の方が就職に有利だろ? なんやかんやいって、日本の、今の時代でも学歴社会だからな」

「立派に大魔王をやっているじゃないですか。これ以上の職はないと思いますが」

「ハハハ。ありがとな! 大魔王という職も立派だよな。俺もそう思う。だけどな、それだけじゃ、つまんないだろ。窮屈というか。俺にはもっと広い視野が必要だと思うんだ」。

「なるほど」

「ハハハ。なんか、面接だな。こりゃ」


 エレナはハッとし、わたわたと慌てる。


「すいません! 根堀は葉掘り、聞いてしまって!」


 俺はまた吹き出しそうになった。エレナってクールそうに見えて、案外、感情が表に出やすいタイプなのかもしれない。


「いいんだ。当然の、疑問だと思う」

「では、大学を受験しますか?」

「ああ、受験する」


 俺が頷くと、エレナは優しげな表情になり。俺の目を見る。


「でしたら、ぜひともお手伝いさせてください! 過去問とかも、用意しますので!」


「ああ、よろしくな! エレナ先生!」

「はい!」


 こうして、俺は大学受験をする事に決定した。


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