閑話 第5王子と虹色の薬
時間軸が少し戻ります。
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【第5王子】
「はい婚約者様、プレゼントです」
事前に信用のおける部下以外の人払いを頼まれ、そうして私の婚約者であるサリーが渡して来たのは、アーバン先輩印の次元収納と、ちょっとした厚みの紙の束だった。
「これは?」
「アーバン君の購入した奴隷の人たちが、【西のダンジョン】と【試しの遺跡】で見つけた、まだ世には出てないドロップアイテムの現物と、それに関する今のところ判明している事について記載した資料です」
「…一応聞いておくけど、王家に対する献上品、ってわけじゃないよね?」
「まさか、王家の人間としてもアーバン君が自由に遊んでもらった方が都合が良いでしょう?だったらそれら以外の面倒事の類は任されて欲しいなぁ、と思いまして」
「要するに、ドロップアイテムの効果をこちらに調べて欲しいと言うわけだよね。さっそく遠慮が無くなってきたね」
「あら?王族すら利用する考えは嫌いでは無い。殿下はそう仰って下さいましたよね?」
「そうだね、嫌いでは無いよ。ちょっと拝見させてもらうよ」
受け取った資料に軽く目を通して見て驚かされた。
「死んだ筈のゴブリンが復活?【試しの遺跡】30階層までに手に入れたドロップアイテム?30?え、ま、待って、アーバン先輩が直接【試しの遺跡】の深部に潜ったのかい?」
「ゴーレムで遊びたかっただけみたいですよ?そのついでにゴーレムを作るのに使えるアイテムとか魔法陣を探したらしいです」
「そ、そう。ヌゼを通して許可を求めて来た時は、奴隷たちだけに行かせるのかと思っていたけど、アーバン先輩自ら、ねぇ」
「意外ですか?」
「意外と言えば意外だし、アーバン先輩らしいといえばらしいかな。ゴーレムで遊びたかったという主目的を聞かされれば納得できるね」
「アーバン君らしいですよね」
「それで、この資料には虹色の液体についてはゴブリンでの実験結果のみが書かれてて人間に使用した際の効果が一切書かれていないけど、これはつまりそう言う事だと思って良いのかな?」
「そうです。アーバン君は嫌がるでしょうし、奴隷の人たちにそういう事をさせるのも躊躇う、というかさせないと思いますから。殿下なら汚い仕事が出来る部下の数人ぐらいいらっしゃるでしょう?」
「それはまぁ、ね」
「それじゃあお任せしますね、婚約者様」
「はいはい、お任せ下さい、婚約者様」
それにしても死んだはずのゴブリンを生き返らせる事が薬とは……
流石に眉唾だが、慎重に動く必要があるな。
死刑が確定していた者たち相手に、幾つかの実験を行ったところ、この虹色の液体がとんでもなくやばい代物だという事が判明した。
「まさか本当に死者を生き返らせる事が出来るとは……」
もしこれが貴族たちの耳に入ればかなり不味い事になる。
実験の為に預かった薬は1本を残し全て使い切った。
他に有るとすればアーバン先輩の居るネフィス家、それかダンジョンの深部で直接モンスターからドロップするしかない。
後者は現実的ではないと分からない貴族が、私兵や奴隷たちに無理をさせるだろう。そうして何人もの無駄な犠牲者を出した後のその馬鹿な貴族や、最初からドロップアイテムの入手を諦めたうちの馬鹿な貴族が取る行動は、この蘇生薬の出所を探る。正直、アーバン先輩に辿り着くのは難しくは無いだろう。何でも奴隷たちにネフィス家の家紋入りのマントを装備させているらしいしね。
……間違いなく虎の尾を踏みに行く馬鹿が大勢現れる。
アーバン先輩に直接接触したがる高位貴族はそう多くは無いだろう。
無駄なプライドが邪魔して頭を下げれない者、アーバン先輩の活躍の所為で発言力が低下し逆恨みしている者、以前にアーバン殿に無礼を働きそもそも接触を禁じられている者。
そういった者たちが取る行動は?決まっている、奴隷たちの方に接触する事だ。
彼らには理解出来ない、奴隷を大事にするなんていう感覚を。それが普段ダンジョンに潜らせている奴隷なら尚更かも知れない。
奴隷に金を払って直接奴隷たちから薬を買おうとするならまだマシだ。頭の悪い奴ならば奴隷を盗もうと考えるかもしれない、或いは奴隷が薬を持っているのを確認した後殺して奪おうと考えるかも知れない。そもそもダンジョンの20階層に潜れるような相手を殺すのは中々至難の業だろうが、万が一それが上手く行って奴隷を殺されれば、いや、そうでなくとも命を狙われた事がアーバン先輩に伝わると不味い事になりかねない。
本来、この薬の価値を考えるのであれば、この薬を奴隷たちに可能な限り入手してくるように命令してもらうのが良いのだろう。
問題は相手がアーバン先輩である事だ。こちらに実験を丸投げした事から窺えるように、彼はこの薬にそれほど興味が無いのだろう。ただし、一応調べるべき物として認識はしている。ゴーレムに関係のないこの薬の入手に彼が積極的になるとは考えにくい。
ならばこちらが取れる策はこの薬が出来るだけ誰にも知られないようにする事だ。
問題はアーバン先輩側から情報が洩れる可能性が高いという事。
そちらはサリーに頼るしかないか。
後はアーバン先輩が直接薬を使ったり手渡したりする可能性が高い者への接触と口止め。
…何故か真っ先に王家の人間である第3王子が脳裏に浮かぶな。兄にはアーバン先輩に関する全てを口外しないように注意はしてあるが。
「第5王子殿下、ご報告が」
頭を悩ませていると、扉が叩かれ部下の声が聞こえた。
「入れ」
「失礼致します」
「それで、報告とは?」
「第3王子が【試しの遺跡】での訓練を陛下に嘆願したようです」
「……」
何がどうなればそうなるんだ?
王族がダンジョンで訓練?ちょっと意味が分からないな。
もうどうせなら【西の遺跡】で訓練してついでに蘇生薬を入手してくれないかな。
「それとサリー様から贈り物が届けられております。アーバン様に頼んで殿下とサリー様の魔力にのみ反応する次元収納を作ってもらったそうでございます。その次元収納がコチラになります」
「……贈り物ねぇ」
受け取って中身を確認する。
幾つかの見知らぬアイテムと紙の束、それと手紙が入っていた。
手紙には
”追加のドロップアイテムとチラズ殿が通常の特許申請を避けた方が良いと判断したアーバン君の発明品の数々です。私からのプレゼントです。殿下の婚約者より、愛を込めて”
とだけ書かれていた。
…なんで王族に対する貴族の、それも婚約者の手紙がこんなに短いのかな。
付随の資料は随分分厚いみたいなのにね。
「返事を書く、少し待っててくれ」
「はっ!」
婚約者様はどんどん遠慮が無くなっていくね、これでも私は一応王族で、アーバン先輩の事以外にも色々と仕事があるのだけれどね。
「でもまぁ、嫌いでは無いよ」
この後【試しの遺跡】の深層でも、ドロップ率こそ低いが蘇生薬が手に入ると分かった事と、まさか第3王子がその深い階層で訓練している事が分かったのは朗報だった。
アーバン先輩の奴隷たちや、カボと呼ばれる魔道具たちが倒しドロップした薬は兎も角、第3王子が倒したモンスターからドロップした薬を王家で管理しても問題はないだろう。
今はまだ数が少なすぎるので、薬の存在、情報を解禁などは出来ないが、第3王子には是非このままダンジョンでの訓練に励んで欲しい。
それにしても、第3王子があんなに桃が好きだったとは、知らなかった。
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