閑話 ミランダの場合

 私は父親が嫌いだ。


 私の母を半ば無理矢理の様な形で娶って置いて、正妻から父親の実家に正式に苦情が来ると簡単に切り捨てた。その癖血の繋がりがあるからと私を利用して当たり前の様な態度が許せない。挙句の果てに使えないのならお前の母に渡している援助は打ち切ると言う。それはお前が支払うべき養育費というモノだと理解できない事が信じられない。



 私は母親が嫌いだ。


 父に捨てられ、愛した男に捨てられ、実家に捨てられて、私に当たる哀れな母親。自分を悲劇のヒロインだと、憐れまれるべき存在だと私や周りに押し付けるその態度が許せない。挙句の果てに父親の言いなりになって私を年寄りの変態の後妻に宛がおうとしているのが信じられない。



 私はアーバン=グランシェルドが嫌いだ。

 

 幾ら才能があるからと、たかだか伯爵家の令息だった分際で、チラズ先輩やサリー先輩に対するあの馴れ馴れしい態度が許せない。自分は権力に屈さず、暴力を跳ねのける力があると言わんばかりのあの自由奔放な態度が勘に障る。挙句の果てに敬うべき王族を顎で使うような素振りまで見せることが信じられない。



 私はミランダ=ケーシーが嫌いだ。


 そんな大嫌いな人間達に振り回される人生から抜け出せない、母親譲りの甘ったれたヒロイン体質の自分が嫌いだ。








 「アーバン先輩、少しお時間よろしいですか?」


 「何?」


 「実は、父が一度、どうしてもアーバン先輩に直接お会いしたいそうなんです。卒業後、出来れば私の長期休暇期間にお時間を作って頂けませんか?」


 父親からはずっと前からアーバンに会わせろと言われてきたが、ついに先日業を煮やした父親が、次の長期休暇期間にアーバンと父親を合わせることが出来なければ、私の家への援助を打ち切ると言ってきたのだ。当然母親からもそれぐらいの事が出来なければお前の存在価値など無いと、圧をかけられている。


 「ええ、嫌だよ面倒くさい」


 コイツ――!


 そもそもアンタが陞爵の際に事前に私の父親に挨拶していればこんな事頼まずに済んだのよ!

 生徒会長は学生だからと各貴族毎の挨拶をしない事をお許しになったみたいだけど、アンタの父親は四方に頭を下げて大変だったのよ!分かってんのかこのアンポンタンは!!

 パーティもお茶会もあいさつ回りも、貴族の大事なお勤めでしょうが!!


 ……イケない。

 落ち着かないと。


 「父が大層先輩のゴーレムを気に入ったそうで。先輩が卒業後ゴーレムに関する事業を立ち上げると伝えたら、是非資金援助させて欲しいと言いだしたんです。話だけでも聞いてみませんか?」


 こいつは只のゴーレム馬鹿だ。適当にゴーレムを褒めておけば喜んで話に乗ってくるだろう。


 「ふ~ん」


 って!乗ってこないじゃない!なんでよ!いつもだったらゴーレムを褒められたら馬鹿みたいに、というか馬鹿丸出しではしゃぐじゃない!何で今日に限ってそんな興味無さげなのよ!


 「ど、どうしたんですか先輩。いつもだったらゴーレムを褒められたら馬鹿みたいに喜ぶゴーレムバカなのに」


 しまった。コイツと喋っているとイライラしてつい口が滑る。


 「今のところ資金には困ってないよ。それと、ミランダのお父さんってどのゴーレムのどの辺りを褒めてた?」


 「――え?」


 どのゴーレム?

 ……デカい奴は見る機会なんて無いわよね。

 とすると小型の方。確か文化祭で配ったヤツをを貰った令息がショーケースに入れて自慢してた筈。あれなら父の目に留まる機会もあったわよね?


 「文化祭で配ったヤツですよ。文化祭で貰った生徒が自宅に飾って自慢してたのを見た父が羨ましがっちゃって」


 「ミニHMGのどの辺を褒めてた?」


 どの辺って何よ!?

 

 「……か、かたち?」


 「どんな風に褒めてた?」


 う、うぜぇ!知らないわよ!!


 「か、かっこいいなぁ…って」


 「実際に動くところをみたり、動かしたりは?」


 ショーケースに入れてるぐらいだから動かしたりしてないわよね?


 「多分見てないし、動かしてないと思いますけど……」


 「それなのに資金援助したいって?」


 「せ、先輩のゴーレムの性能は高いって有名なんですよ」


 「実はさ、前に調べてみたんだけど、俺が配ったゴーレムって殆ど全部飾られてて、遊んでくれてる生徒がいないんだよ」


 「そ、そうなんですか?」


 「そう。だから俺のゴーレムの性能の良さを知ってると言っても噂程度のはずだろ?それなのにそのゴーレムが素晴らしいから買いたいって話がいっぱい来てさ」


 で、出遅れた!?


 ……それはそうよね、アーバンに接触する方法としては真っ先に思いつく方法だ

わ。殆どの貴族はアーバンが卒業後にゴーレムで商売をしようとしていることはまだ知らないわけだし。


 「最初はロボ――ゴーレムが褒められて素直にうれしかったし、ロボ――ゴーレム談義が出来るかもと思って何人かの貴族とは学園の近くのホテルなんかで直接会ってみたんだけどさ。どいつもこいつも途中から次元収納やら新しい魔道具の話ばかり、後は自分の娘を第2夫人にどうかとか?こちとら婚約したばっかりだっていうのに」


 アホ共!もっと上手く話を持って行きなさいよ!


 「だからパスだって伝えておいて」


 「言えるかアホ!」


 「アホはひどいなぁ」


 はっ!思いっきり言葉が口から出ちゃった。


 「……父にはアーバン先輩に会わせないと援助を打ち切るって言われてるんです」


 ……何を言ってるのよ、私。


 「援助?」


 「……私と母は父からの援助で生活してて、それを打ち切られたら生きていけないんです」


 ……やめろ。私にだってプライドぐらいあるだろ!


 「……私を助けると思って、父に会って貰えませんか?」


 ……私はミランダ=ケーシーが大嫌いだ。



 「え~っと、とりあえずこのハンカチで涙を拭いて?それから落ち着いたら詳しく説明して貰える?」


 「……ハンカチぐらい持ってます」







 「話は分かったけど、それで俺がミランダのお父さんと会って、その後は?」


 「その後?」


 「例えば卒業後はミランダはどうするんだ?」


 「……金持ち貴族の後妻になれって言われてます」


 「なるの?」


 「他にどうしろって言うんですか」


 「就職とか?」


 「馬鹿じゃないんですか。これでも一応侯爵令嬢ですよ?そんな選択肢があるわけ無いじゃないですか」


 「コーネリアは騎士団に入団したけど?」


 あんな化け物と一緒にしないで欲しい。


 「彼女は1年生の時から男子生徒を跳ねのけてずっと剣術でトップだったんですよね?そんな例外を出さないでください」


 「ケイトも騎士団からお誘いが来てるらしいよ?」


 「ケイト?ケイト=フェメル先輩の事ですか?彼女だって極一部の天才じゃないですか。クリスタルの数字だって150を超えたって聞きました」


 「え?そうなの?」


 「なんで先輩が知らないんですか」


 「まぁとにかく、女性でも就職っていう選択肢がないわけじゃないんじゃない?」


 「だから2人とも普通じゃ無いんですって。それに別に騎士になりたいわけじゃ……」


 「じゃあ金持ち貴族の後妻の方が良い?」


 「嫌な聞き方ですね。……嫌ですが、仕方ないとも思ってます」


 「じゃあ取りあえずの逃げ道として働いて、その間に結婚相手を探すなり、やりたい仕事を探すなりするのは?」


 「取りあえずで目指せる程、女性が騎士になるのは簡単な事じゃないですよ」


 「別に騎士以外だって働き口はあるだろ?」


 「先輩の例えで出て来たのは2人とも騎士でしたけど?」


 「他だと……サリー先輩が手芸でちょっとした商売をしてるって聞いたかな?」


 「それも実家ありきじゃないですか」


 「あとは……パン屋?」


 「ぶふ――!パ、パン屋!あはははははは」


 侯爵令嬢がパン屋!彼に冗談のセンスがあるとは思わなかった。


 「そんなに笑う所?」


 「……はぁ……はぁ……久々にこんなに笑いました」


 頬が痛い。


 「でもおかげで吹っ切れました。アーバン先輩には断られたと父にはきちんと伝えておきます」


 「援助は良いの?」


 「どうせ学園にいるうちは寮ぐらしです。長期休暇だって実家に帰らなければいけないという決まりがある訳でもないし。学園にいる間にいい男でも捕まえてみせますよ!」


 「そう?じゃあもし見つからなかったらウチで働く?手元作業とかでも人員は欲しいし、事務方だって欲しい。流石にチラズ君と比べると給料はかなり下がるけど。ゴーレム魔法を習得できたら正規雇用も考えるよ?」


 「はい?」








 私の悩みなんて、簡単に解決できると言わんばかりのその態度が勘に障る。


 私はアーバン=グランシェルドが嫌いだ。



 「よーし!絶対在学中に良い男を捕まえるぞー!!」

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