第73話 「改めて自己紹介しておこう。ヌゼ=ネフィスだ侯爵だ」
「改めて自己紹介しておこう。ヌゼ=ネフィスだ侯爵だ」
と、こちらを見る時だけ器用に魔王の表情を覗かせながら、ヌゼが自己紹介をしたので、こちらも自己紹介を返した。
「さて、事前の噂では貴さ……貴殿は常人ではあり得ない速度で魔道具を制作出来るのであろう?となればもう完成しているのではないかね?何故我が屋敷に泊っておるのだ?年頃の娘もいる屋敷にだ。非常識だと思わんのかね?」
うーん、言ってることは尤もな気がするが、敵意が凄い。何を言っても地雷を踏んでしまうと分かっている今、何と返事をするのが正解かと悩んでいると、俺の代わりにニーナが答えてくれた。
「木材で作る予定だったところを急遽石材に変更したの。今はその石材が届くのを待っている所よ。ちなみに予定では明日の朝には届くわ」
「ふん。貴様は次元収納の魔道具である程度の荷物を運べるのだろう?だったら状況に応じて必要になるであろう幾つかの素材は持ってくるべきではないのかね?」
一々御尤もで。そして次元収納の魔法も使える事は黙っておこう。
「幾ら次元収納の魔道具と言え積載量限界はあるでしょう?無理を言ってはいけませんよ。それに、こちらに合わせて態々素材を変更して下さっているのに、それをネチネチと……」
「むぅ……分かった。不手際を攻めるような事を言ったのは謝ろう。しかし、この屋敷に宿泊するのは駄目だろう。近くに宿がある、そちらに泊るべきだ」
「近くと言っても、貴族用のホテルまでは馬車で1時間かかりますよ?まさか平民向けの宿の事をおっしゃっている訳ではありませんわよね?それに、当家に宿泊して頂くよう提案したのはこちら側です。爵位や立場を考えると彼らには断りずらかったと思いますよ」
「い、1時間ぐらい大した距離では無いではないか、それに―――」
「ねぇパパ」
サリーがヌゼの言葉を遮った。
「パパはアーバン君の事が嫌いなの?」
「い、いや別に嫌いという訳では無いが……」
「じゃあ何でそんなに意地悪ばかり言うの?」
「べ、別に意地悪を言っている訳ではないよ?私は貴族として、いや、人としての常識を解いているだけで……」
「貴族の令息がウチに宿泊したことは以前にも何度もあったけど、その時は何も言わなかったよね?なんでアーバン君にだけ言うの?」
「い、いや、それは、親御さんも一緒だったし……」
「じゃあグランシェルド伯爵と伯爵夫人も呼べば良いの?」
「まぁ、家族ぐるみのお付き合いね」
ニーナがわざとらしく笑顔で多さげさに言う。
「ぬぐぅ!」
「アナタ。宿泊と言っても客室がある部屋と娘たちの部屋は離れていますし、これ以上とやかく言うと、サリーやコーネリアに嫌われますわよ」
「…………」
「返事は?」
「分かった……2人の宿泊を認めよう」
「よろしい。それと後でお話がありますから、時間を作って下さる」
「……わかった」
話がまとまるとサリーが笑顔でブイサインを向けて来た。え?今の会話の流れ計算だったの?こわ!
その後魔王に睨まれながらの豪華な朝食は何の味もしなかった。
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