第69話 左右に分かれてズラリと並んだ執事やメイドが一斉に頭を下げる。

 左右に分かれてズラリと並んだ執事やメイドが一斉に頭を下げる。一糸乱れぬ洗練されたその所作に圧倒されてしまう。


 先頭の初老の執事が頭を上げてから近づいて来た。


 「お帰りなさいませサリーお嬢様。そしてようこそお越しくださいました。アーバン=グランシェルド様。チラズ=ノート様」


 侯爵家のチラズより自分が先に挨拶された事に一瞬違和感を覚えたが、爵位を持っている当主と違って、令息や令嬢は年齢順に呼ぶのが習わしなのかと思う事にしたのだ。したのだが……そんな作法は習った覚えがない。正直礼儀作法の授業はあまり真面目に受けていなかったので曖昧だ。


 荷馬車の中の荷物は任せて、俺たちは屋敷に通された。荷物の中身は再びばらしたナイトロードが入った次元収納の魔道具だ。ちなみに1メートル四方の箱型と2メートル×1メートルの箱型が1つずつ。どちらも厚みは50センチで木製なのでそれほどの重さも無い。他には今回次元収納の魔道具を作るのに使うだろう木材や、お土産とかが入っている。

 ちなみにカミーユやチラズが連れて来たメイドは別棟で待たされるらしい。


 しばらく美しい庭園を歩いた後(本来はここも馬車で通過するらしいが、サリーが庭を歩くのが好きなので、使用人が勝手に気を使ったのだろうと、サリーが若干申し訳なさそうに説明してくれた)、煌びやかな扉を潜り屋敷の中に入った。

 中もまた絢爛豪華で、天使やらが描かれた天井画、金の細工が施された柱、強大なシャンデリア。そんな前世でテレビの中でしか見た事ないような宮殿のような屋敷の玄関ホールには、豪華だが派手過ぎないドレスを身に纏った美しい女性と、珍しくドレス姿のコーネリアの姿が有った。


 (お姉さんかな?)


 初めて見る女性は、見たところ20代前半。顔つきはどちらかというとコーネリアよりサリーに似ている気がする。


 「ようこそお越しくださいました。わたくし、コーネリアとサリーの母で、ヌゼ=ネフィス侯爵の妻である、ニーナ=ネフィスと申します。以後よろしくお願いしますね」


 なんと、姉では無く母親だとは驚いた。とても二児の母とは思えない美貌だ。

 っと、驚いている場合じゃなかった。俺とチラズは急いで頭を下げた。


 「ノート侯爵が5男、チラズ=ノートです」


 「グランシェルド伯爵の嫡子、アーバン=グランシェルドと申します。お会いできて光栄です」


 「こちらこそ、かの有名なアーバン=グランシェルド殿にお目に掛かれて光栄ですわ」


 あっ、コレ、娘2人のお披露目パーティを欠席した事を根に持ってるのかも。きっとどちらの時も40℃を越える高熱だったんです。あと頭痛と腹痛と腰痛も酷かったんです。あ、腰痛は前世の俺の持病だった。


 「生憎と夫は今日は留守にしておりますの。挨拶も出来ずに申し訳ありませんね」


 めっちゃ嫌われてるかも。侯爵がたかが伯爵家の嫡男の来訪に挨拶に顔を出す方が稀だろう。それを謝罪するなど、おそらく皮肉なのだろう。いや、チラズの方に言ったかのせいもありかも?どちらにしろ俺の印象は良くは無いだろう。くそう、幼き日のアーバン君めぇ。社交をサボりまくってるから変な噂は流されるし、嫌われるんだぞ。貴族にとって人脈作りは大切なんだぞ。あ、それは今の俺も出来てないや。


 「さ、いつまでも立ち話もなんですから、お上がりください」


 「「おじゃまします」」


 使用人ではなく、侯爵夫人であるニーナ自身が案内をしてくれることに驚きつつ後をついて行く。

 コーネリアの顔を見るとこういう人なんだといった感じで苦笑していた。

 それにしても、改めて見るとドレス姿のコーネリアは実に美しいと感じた。いつものイケメンっぷりを残しつつも美しさが引き立っている。クールビューティといった感じだろうか。


 「コーネリア先輩、ドレス姿も素敵ですね」


 「おや、アーバン君もそう言う台詞が言えるんだね。少し驚いたよ。でも、キミに褒められるのは悪い気はしないね。ふふ、ありがとう」


 コーネリアはニコリと笑って前を歩きだした。

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