第68話 「あ、2人ともウチの屋敷が見えて来たよ」

 「あ、2人ともウチの屋敷が見えて来たよ」


 俺がチラズのジョーカーを引き抜いた瞬間、1人先に上がっていたサリーが声を上げた。


 「え、どれどれ」


 俺は簡易テーブルの上に手札を捨てて、馬車の窓から身を乗り出した。


 「あ、アーバン先輩きたないですよ」


 文句を言いつつも、チラズが俺の後ろから窓の外の様子を窺う。


 「おお!」


 見えて来た屋敷はそれは立派な屋敷だった。大きさだけでもウチの屋敷の倍近く有りそうだ。豪華絢爛なシンメトリーのその御屋敷はネフィス家の財力と権力を物語っていた。手入れの行き届いた庭も見事だ。一体何人の庭師を抱えているのだろう。爵位は1つしか違わないのに。もしかしてウチって伯爵家の中でも貧乏な方なのか?


 「コーネリア先輩とサリー先輩の8歳の誕生日のお披露目パーティの時にも思いましたけど、本当に立派な屋敷ですよね」


 と、俺の後ろでチラズが呟いた。

 ん?チラズは確かネフィス家と同じ侯爵家の人間だと聞いたことが有る気がする。つまり、ウチが伯爵家の中でも貧乏なんじゃなくて、ネフィス家が侯爵家の中でも金持ちなのかも知れない。


 「というかチラズ君。キミ、ネフィス家に行ったことあるの?」


 「え?歳が近い貴族、と言っても学園に入学していない10歳以下に限りますけど、その位の年齢の貴族派は皆招待されたパーティでしたけど?もしかしてアーバン先輩は招待されて無いんですか?」


 「え?ええ~……」


 え?何、俺嫌われてる?泣くよ?泣いちゃうよ?


 「グランシェルド家にもちゃんと招待状は出したよ?お姉ちゃんの時は覚えてないけど、私の時は確かグランシェルド伯爵はいらっしゃってた筈だし。ただ、アーバン君は来てなかったよ。確か熱が出て屋敷で安静にさせてるって言ってたよ」


 ん?招待されたのか。風邪じゃしょうがないないな、くっくっく。


 「もしかして、その時に来た貴族の顔とか名前を全部覚えてるんですか?」


 「まさか。アーバン君は当時貴族の間で色々噂されてたからね。流石にネフィス侯爵家のパーティぐらいには連れてくるんじゃないかと言われてたんだけど、それでも来なかったから覚えてただけだよ」


 サリー先輩の8歳の誕生日という事はおそらく俺が前世の記憶を思い出す前の話、屋敷でメイドの尻を追いかけるのに夢中だった頃だ。少々甘やかされ過ぎじゃないかアーバン君。

 そういえば前にカミーユにお尻を触ったことを謝った事があった。俺が前世の記憶を思い出すきっかけになった事件の事だ。

 謝られたカミーユは貴族の令息仕えのメイドならそれも仕事の内だと笑っていた。その後、むしろゴーレムの制作の手伝いはメイドの仕事では無い気がしますと、遠回しに文句を言われたが、そうなんだと適当に流して置いた。カミーユはメイドの中でも器用な娘なので、助手をして貰えないと困るのだ。とはいえボーナスぐらいは考えておこう。と、後方を走る使用人用の馬車の方を見ながら考えたのだった。

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