第62話 「お、おい!今の音は何だ?!」
「お、おい!今の音は何だ?!」
「わかりません」
王子が取り巻きに尋ねるが答えは返ってこない。
しかし、王子と違って取り巻きたちには何処か落ち着きがあるような気がするのは気のせいだろうか?
「兎に角入り口に向かいましょう。脱出が最優先です」
教師の内一人が第4王子に提案する。
「そ、そうだな。皆、安心して私に付いてこい」
当然安心など出来ない。
王子たちの直ぐ後ろにチラズとドラゴレイムを配置し、俺とツヴァイが殿を務める形で5年生たちを護衛する。
程なくして、後ろから気配を感じ、ツヴァイを盾に少し距離を問った。
現れたのは上級生たちと合流するまで蹴散らしたのと同じ種類のモンスターが十数匹、それとまだ見た事の無いモンスターが1匹。
「ば、馬鹿な?!あ、あれはジャガーノートじゃないのか?!」
教師が慄くように叫んだ。
ジャガーノート?
前世で聞いた事があるような?うーん……何の名前だったかな?
教師が見ているモンスターを観察する。
全長は3メートルを超えているだろう。
天井すれすれの巨大な体躯だ。
緑と茶色が混ざったボディは人のそれに近い。ただし腕が4本ある。
頭部は潰れているというか、首が埋まっているというか、表現が難しいが、体に埋没している感じだ。髪の毛はない。
4本の腕はそれぞれ火、水、風、土と言った具合に違う属性の魔力を帯びているようだ。
「ジャガーノートってどんなモンスターなんですか?」
先ほど叫んだ教師に尋ねると、彼はモンスターから目を逸らさないまま答えてくれた。
「Aランク指定のモンスターの中でもかなり脅威のモンスターだ。巨大な体躯から放たれる拳だけでも厄介なのに、それがそれぞれ異なる4つの属性を持っているせいでかなり防ぎにくい。遠距離の攻撃魔法で迎撃しようとしても、火魔法は水の拳で、水魔法は土の拳でといった具合に防がれる。接近して戦うにしてもリーチはあるし、攻撃力も高い。また皮膚が鋼の様に硬いので並みの剣士では切り傷程度しか付けられず中々致命傷を与えられない」
おぉ~流石教師、良くつらつらとモンスターの特徴が出てくるものだ。
となると小柄なツヴァイの素早い動きでかく乱し、足の腱などを狙うのが妥当かな。ただ、それだと時間が掛かりそうだし、教師の説明を聞いてちょっと試して見たくなったことがある。
「武術部の先輩、ちょっと試してみたい事があるので槍を貸してくれませんか?」
「え、ええ?戦場で得物を貸すのか?まぁ、どうせあのランクの魔物相手に俺が出来る事なんて何もないけど……」
先輩は渋々といった感じで槍を貸してくれた。
「≪身体強化≫≪硬化≫」
俺は自身に全力の身体強化の魔法を、そして槍に硬化の魔法を掛けた。
そんでもって、槍を~……
「ぶん投げる!!でやぁ!!」
「おいいいいぃ!!俺の槍ぃ!!」
俺がぶん投げた槍はジャガーノートの体に風穴を開け、後ろの数体のモンスターを薙ぎ払って、ダンジョンの壁に突き刺さった。
「なんだ、意外に脆いな、ジャガーノート」
もしかして姿を真似するモンスターとかかな?
そんな能力を持ったモンスターの話を聞いた事がある気がする。あれ?あれは前世でやったゲームだっけ?う~ん、思い出せないな。
………
周囲には少しの間の沈黙。そして―――
「「「えええええええぇ!?!?!?!?!」」」
大袈裟じゃない?
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