第59話 コーネリア視点(4)

 「でやぁ!」


 シャドーデーモンを2割程度の魔力でも何とか倒せる事が分かってからは魔力消費を極力抑えて戦っていた。さらに探索の魔法が使えるクラスメイトに協力して貰い出来るだけモンスターを避けつつ休息も取りつつ戦った。が、そろそろ魔力も体力も限界が近い。そんな時、別の種類のモンスターが現れた。教師曰く、レッサードラゴン。ドラゴンの中では最弱の部類だが、それでもドラゴン。強靭な脚が可能にする俊敏な動きで敵を翻弄し、鋭利な牙や爪で鉄さえも切り裂くという。さらに硬質な鱗で前進が覆われており、シャドーデーモンより多い3割の魔力をウインドブレイドに流す必要があった。


 「――っ」


 4体目のレッサードラゴンを倒した時、私を強化していた強化魔法の効果が切れた。

 ウインドブレイドに魔力を流すより、身体強化の方が多く魔力を消耗していたようだ。

 正直私は細かい魔力コントロールが苦手でアーバン君にもよく私の身体強化は無駄が多いと怒られていた事を思い出した。


 (死期が近いな……)


 ウインドブレイドに流せる魔力も精々あとモンスター3・4体分。

 魔法剣無しの私ではBランクのモンスターの相手は出来ないだろう。


 「お、お姉様……」


 私の情けない表情に気づいたのか、いつも慕ってくれているクラスメイトが不安そうに私を呼ぶ。


 ふと気づいた。自身の戦いが身体強化と魔法剣便りになっていたことに。

 いつからだろう。剣技よりも身体強化の練習に力を入れ始めたのは。アーバン君に手も足も出なかったあの時だろうか?

 いつからだろう。魔法剣で戦う事に固執した出したのは。アーバン君にウインドブレイドを貰った時だろうか?



 ……馬鹿か私は!

 彼は私が強くなる切っ掛けをくれた人物だ。

 彼を言い訳にする考えが一瞬でも自分の脳裏を過るなんて。 

 自分自身の浅ましさに反吐が出る。


 思い出せコーネリア=ネフィス。お前が初めてアーバン=グランシェルドに敗れた時、彼は魔法剣を使っていたか?彼は身体強化の魔法を使っていたか?

 否だ。

 武器は同じ木剣。そのうえで身体強化を使った私を、彼は力と剣技だけでねじ伏せたのだ。


 私が憧れた剣士の姿が確かにそこにあった。


 ウインドブレイドを握る手に力を入れる。

 ウインドブレイドを振れるのは後1振りか2振りか……それでも、例え魔力が尽きようとも最後まで戦おう。

 英雄テオやアーバン君に少しでも近づけるように。


 「コーネリア部長!しゃがんで!!」


 覚悟を決めた私の後方から聞きなれた声が聞こえた。

 私は咄嗟にその場にしゃがむ。その私の頭上を炎の渦が通り過ぎていく。

 そして眼前に迫っていたレッサードラゴンたちを焼き払った。


 「ご無事ですか、コーネリア部長?!」


 振り向けばそこにチラズ君と、彼用にアーバン君が作ったドラゴレイムが立っていた。ドラゴレイムの胸部からは小さな火と煙。先ほどの炎の渦を放ったのがドラゴレイムだと分かる。そのドラゴレイムの後ろからひょっこりと顔をだしたのがアーバン君と彼のゴーレムのツヴァイだった。


 「ふふ、ここは格好よくアーバン君に剣で助けに駆け付けて欲しかったな」


 「はい?」


 我ながら乙女チック過ぎたかな。


 「いや、何でもないよ。2人とも助けに来てくれてありがとう。助かったよ」


 礼を言うと、今までの緊張の糸が切れたのか、はたまた体力の限界だったのか、立っていられなくなり膝を付いてしまった。

 そんな私に駆け寄りアーバン君が体を支えてくれる。


 「いえ、間に合って良かったです。コーネリア先輩」


 彼に支えられたまま、私は安堵感から意識を手放した―――

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