第52話 第4王子視点(2)

 「【試しの遺跡】?当然知っている」


 王立学園の卒業試験と呼ばれる演習で使われるダンジョンだ。

 難易度は低く、毎年大したけが人も出ない、そんなオリエンテーションに近いくだらん行事だ。


 「それが何だと言うのだ」


 「卒業試験に使われるあのダンジョンに挑むのは、将来この国の未来を背負う貴族の卵たちです」


 「話が見えんな……それで?」


 「王家より枝分かれした発言力の高い大公家の嫡男、子煩悩で知られる侯爵家の令嬢、外交を中核の担う侯爵家の次男。今年も例年通り、大層な顔ぶれで御座いますね」


 「ええい!さっさと本題を話さないか」


 爺さんは昔から答えを焦らす傾向にある。俺はそれが嫌いだ。


 「万が一、そんな者たちの身に何かあれば国の一大事です。ですか、ダンジョンでは何が起こるか分からないもの。多くの冒険者がダンジョンのモンスターに殺され、トラップで命を落として来たのです。ダンジョンとは本来そう言う場所で御座いましょう?」


 「つまり何か?爺さんは事故か何かに見せかけて学園の生徒を襲えと言っているのか?そんな事をして何になる」


 「儂がでは無く何者かが、ですぞ。或いは事故か、事件か、不測の事態こそダンジョンの華でございましょう」


 「だから!学園の生徒どもが死んだぐらいで、この国の貴族の基盤が揺らぐワケでもあるまい!それに何の意味があるのだ!?」


 「死なれては確かに意味がありませんな。いえ、何人かは犠牲になって貰った方が強い印象が与えられるでしょうから……そうですな、4分の1程度ぐらいには犠牲になってもらいたいですな」


 「ああ、もう!!さっさと結論を言え!!貴様の悪い癖だぞ」


 「これは失礼しました。さて、生徒たちを命の危機に晒したとなれば、それは当然学園を運営する国の責任、王族も貴族たちから非難の対象になるでしょう。しかし、どうでしょう。学友の危機を聞きつけた第4王子が、自身が罰せられる可能性もいとわず、軟禁された王城から駆け付け、颯爽と彼らを救出するのです。現王の信頼は地に落ち、逆に第4王子の名声と信頼は急上昇する事でしょう」


 「やっと本題か……しかし、どうやるのだ?爺さんの口ぶりからしてモンスターを出現させる方法はあるみたいだが?」


 「はい、とある魔道具を使います」


 そう言って爺さんが俺に見せたのは1枚写真だった。

 写真には両開きのドアが映っている。ドアにはびっしりと魔法陣が描きこまれておりそれが魔道具だとうかがえた。


 「それは【魔物の扉】と名付けられた魔道具で、それには大量のモンスターを封印しておくことが出来るのです」


 爺さんは俺が写真を確認した後、その写真を小さな魔法の火で燃やして灰にした。

 恐らく証拠隠滅の為だろう。


 「何?そんな物が存在するのか?」


 「先頃、とある国が開発に成功しました。元々は1つに付き1体のモンスターを封印出来るだけの代物だったのですがね。最近発明されたとある魔道具の技術を応用する事で1つに付き100前後のモンスターを封印出来るようになったのです。まぁ、扉以上の大きさのモンスターを封印出来ないという欠点はございますが」


 「つまり、巨大な扉さえあれば伝説のドラゴンでも封印出来るという訳か?」


 「Aランク以上の魔物の封印に成功した例は今のところ数える程ですね。なので、今回使用する魔物はBランクの群れになります」


 「ふん。微妙な性能の物を用意しよって」


 「ほっほっほ、申し訳ありませんな、何せまだ研究段階の魔道具故ご容赦下され。さて、この魔道具ですが、既に【試しの遺跡】に密かに設置してあります」


 「ほう?どうやったのだ?あそこは試験の当日以外も警備がいる筈だろう?」


 「なぁに、当日以外は警備があると言っても手薄。第4王子こそ国王に相応しいと考える同士たちが動いてくれたお陰で楽なモノでしたよ」


 「ほう!そのような者達がいるのか。では俺から直接褒美の言葉を送ってやろう」


 「ほっほっほ、それはさぞ喜ぶことでしょう」


 「うむ、そうだろうな。それで?大量のモンスターに生徒たちを襲撃させるのは分かった。しかし、それをどうやって解決するのだ?私は天才だが、いくら何でも1人でBランクのモンスター100体を相手に出来る訳では無いぞ」


 「そこは簡単です。魔物の扉を起動して頂くだけで結構。後は扉が勝手に魔物を封印されます」


 「簡単に言ってくれるな。それを生徒どもに目撃されたらどうするのだ。それに魔道具の場所までどうやって辿り着く?」


 「目撃される可能性は低いですが、別に目撃されても構いません。むしろ目撃して貰った方が好都合なぐらいです。王子には護衛兼案内役として同士を数名お付けします。この者たちはAランク冒険者相当の実力を有しておりますので、Bランクの魔物たちの中でも王子を安全に魔道具の場所まで案内出来ます。表向きは王子を慕ってついて来た城の騎士たちという事にしておいてくだされ。ダンジョンに突入後、王子は生徒たちと接触して頂き、ダンジョンに突如強力なモンスターが出現した原因を確かめると言ってダンジョンの奥に進んでいただきます。この時、多くの生徒たちはダンジョンから脱出する為に王子とは逆にダンジョンの入り口に引き返すでしょう」


 「なるほどな。目撃されても構わないというのは?」


 「謎の魔道具がモンスターを出現させていた。その原因を突き止め、王子はそれを利用してモンスターを排除した。これは明らかに人為的な事件で、それを王子はそれを命がけで解決し、多くの貴族たちの命を救った。きっと貴方の活躍は英雄譚として吟遊詩人たちに詩われることでしょうな」


 「ふむ……悪くないじゃないか。父上は学生を危険に晒したと糾弾され、逆に俺は英雄になる訳だ」


 そして世間は知るのだ。誰が王に相応しいのか―――




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 コーネリア視点(1)に


  流石にダンジョンに1学年全員で挑むのは狭いので2組ずつにわけて挑んでいる。現在ダンジョンに潜っているのは私の所属するA組とB組だ。


 という分を追記しました。




 コーネリア視点(2)の


 また、ダンジョンの入り口を塞ぐ土砂の撤去に掛かる時間を5・6時間から1日と半日に変更しました。

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