第48話 コーネリア視点(1)
「はあっ!!」
私が放った横なぎの一撃が3体のスライムを一掃する。
やはり素晴らしいな、このウインドブレイドは。アーバン君には感謝しかない。
「流石です、コーネリアお姉様!!」
スライムが消滅したのを確認して、クラスメイトの女子たちが私の周りに駆け寄ってくる。
流石にダンジョンに1学年全員で挑むのは狭いので2組ずつにわけて挑んでいる。現在ダンジョンに潜っているのは私の所属するA組とB組だ。
私は同級生であってお姉様では無いのだが、いくら訂正しても直して貰えないので諦めてお姉様と呼ばれている。
「怪我は無いかい?」
「はい!」
彼女たちはとろけるような眼差しを私に向ける。
うーん、悪い気はしないが私にそっちの気は無いので正直困る。
まぁ私の剣術に惚れ込んでくれているのならうれしい。私だって素晴らしい剣術を目にすれば見惚れる。
そう、2年と半年前、当時1年生だったアーバン君の剣術を初めてみたあの時の様に。
当時たかだか10か11の少年の剣技に私は一目ぼれしたのだ。
そして2年の頃には既に武術部にすら私に敵う生徒はなく、自身が最強だと己惚れていた私の鼻を見事にへし折ってくれた。
残念なのは、アーバン君がゴーレムにかまけてばかりで殆ど剣を握ってくれない事だ。ゴーレムに掛けるあの情熱を剣に向けてくれたら、彼は一体どれほどの剣士になっていただろう。
それこそ、伝説の英雄テオさえも超える、そんな剣士になっていたかもしれない。
ただ、その世界線だと、このウインドブレイドを作って貰えなかったということになるので、それはそれで嫌だ。うん、アーバン君にはどっちも頑張って貰おう。
卒業したらもうアーバン君と手合わせする機会も無くなってしまうのが寂しい。
最後に本気の手合わせを願い出てみるかな。普段は渋る彼でも最後の記念にと言えば相手をしてくれる気がする。彼はいい奴だからな。
卒業か……
人見知りのサリーが1人になるのが心残りだったが、アーバン君やチラズ君がいれば寂しくは無いだろう。これで心置きなく卒業出来……ない!
やっぱりアーバン君と手合わせ出来なくなるのは寂しい。
卒業後は騎士団に入団が決まってはいるが、騎士団の中にもアーバン君程の剣士はいなかった。
まてよ?アーバン君も騎士団に入団すれば解決するのでは?
―――いや、彼は間違いなく魔道具関係の進路を選ぶだろうな。もしかしたらゴーレム兵器の新事業なんぞを立ち上げるかも知れない。
何とか彼との縁を継続出来ないだろうか。
縁……そう言えば彼には婚約者はいるのだろうか?彼が魔道具研究部に入部してから3年、そんな話は聞いた事が無いが。
耳ざとい上級貴族ならすでに次元収納の魔道具を発明したのがアーバン君だという情報は得ているだろう。だったら1つや2つ。いや10や20では効かない数の見合い話が来ている筈だ。
いっそ私と結婚してくれないだろうか?実家は侯爵で私は長女だから家格としては何の問題も無いだろう。
色仕掛けでもしてみようか。
色仕掛け?私が?
……無いな。私は生まれてこのかたレディにしかモテた事が無い。殿方が求める女性らしさとはかけ離れているのだろう。まだ人見知りのサリーの方が上手く出来そうだ。あの子は私にはない強力な2つの兵器も持っているしな。……いや、私も決して小さいわけでは―――
そうか、サリーとアーバン君が結婚したら彼は私の義弟、会う機会は幾らでも出来るのか。案外悪くない案なのでは?サリーもアーバン君の事は気に入っている様だし、釣書でしか見た事のない相手と結婚するより幸せになれる可能性は高い気がする。相手が次元収納を発明したアーバン君ならば父上や母上も文句無いだろうし。
……父上はサリーをお嫁になんかやらないと駄々をこねそうだが。
「あ、あのコーネリアお姉様?どうなさいましたか?」
私を取り囲んでいた女子生徒の1人が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
どうやら考え事に夢中になり過ぎた様だ。
「いや、何でもないよ」
そう言って彼女の頭をポンポンとする。
―――あ、しまった。ついサリーにするようにしてしまった。
「はわわわわわ!!!!!」
彼女の顔面が茹で上がったロブスターの様に赤くなる。
何故私はこうも女子にだけモテるのだろうか。うれしいような、悲しいような。
「こら、お前等。集中しろ!今は演習中で、ここはダンジョンなんだぞ」
引率の教師に指導されて、漸く私を取り巻いていた女子たち達がしょぼしょぼと離れていく。
―――ドオォン
その時、遠くから爆発音が聞こえ、地面が揺れた。
「な、何だ?!」
「ま、待ってください。今、念話の魔法で地上班と連絡をとります」
嫌な予感がする。
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