第37話 正直、俺にメリットはない。
正直、俺にメリットはない。
メリットはないのだが、凄く真剣なケイトの眼差しを見ていると、俺にはとても断れそうになかった。
「……はぁ、分かった。1回だけだよ」
「感謝しますわ!」
ケイト、満面の笑みである。
定位置に立ち、構える。選んだのは風の魔法。他の魔法では轟音で他の生徒や教師にバレそうだったからだ。
って、待てよ?何で昼休みなのに魔法の威力を測定する魔道具が出てるんだ?倉庫に保管されている筈では?
「ねぇ?あのクリスタルって?」
「ああ、あれは私物ですわ。練習用にお父様に幾つか購入して頂いたうちの1つです」
なるほど、俺以外にもアレを購入して貰った生徒がいたのか。
とにかく、そういう事なら気にせずに魔法を放って良いだろう。
両手を前に突き出して、風の魔法を全力で放つ。
「≪
風の刃が生まれ、それが一直線にクリスタルへと向かう。
しかし、その風の刃はクリスタルをすり抜けて、後ろの分厚い壁の中に消えていった。
「え?」
「ん?」
ケイトと俺の疑問の声が上がった後、異変が起きた。
ズルリ―――
ゴトっ
徐にクリスタルが斜めに割れ、上の方がゆっくりと滑って地面に落ちたのだ。
魔道具は完全に壊れてしまっているので、当然数値は表示されていない。
よく見ると、後ろの壁にも細い傷がついている。
そこで漸く気がついた。俺が放った風の刃はクリスタルを切り裂いて、後ろの壁をも切り裂いたのだと。
ふと恐ろしい事に気づく。あの壁はかなり分厚いが、万が一貫通していて、その先に人でもいたら大惨事だ。
俺は慌てて壁の向こう側を確認するために走り出した。俺の後ろにはケイトも続いている。
壁の反対側にも風の刃で出来たであろう傷があった。つまり貫通してしまっている。やばい――
さらに刃が飛んで行った方であろう方を確認すると、そこは崖を石垣で固めた斜面。つまり只の行き止まりだった。石垣には傷がついていたが、この先は地中。つまり人を傷つけた心配は無いとわかり、一先ずはホッとした。
風刃は自主的に使用禁止にしようと決めた。
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