第36話 主に魔法の実技訓練で使われるグラウンドに轟音と歓声が響いた。
主に魔法の実技訓練で使われるグラウンドに轟音と歓声が響いた。
クラスメイトのケイト=フェメルが放った火球が100点を越えたのだ。
ちなみにこれはこの学年で2番目に高い数字で、3番目に高い人間の倍近い数字である。
周囲のクラスメイトたちが拍手と称賛を送る中、ケイト本人は真剣な顔を崩さない。一瞬こちらを見た後、列の最後尾に戻って行った。
ちなみにその日俺が叩き出した数値は166、我ながらコントロールが上手くなったもので、十のくらいまでなら狙って出せるようになった。
「アーバン=グランシェルド。少し良いかしら?」
その日の昼休み、久しぶりにケイトに話しかけられた。彼女に絡まれるのも久しぶりだ。
俺は彼女に連れられて先ほどの魔法の実技訓練場に赴いてた。
「それで、何の用かな?」
俺から切り出すと、ケイトはいきなり深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
いきなりそう言われても、何を謝られているのか分からない。
「えっと、何が?」
「入学前のクラス分けの試験で貴方の不正を疑ったことですわ。今ならわかります。貴方の魔法の練度がどれほど高いのか。あの時、貴方が不正などしていなかったという事が。ですから改めて謝罪いたしますわ。本当にごめんなさい」
なんだ、そんな昔の事を気にしていたのか。案外いい奴なのかも。
「良いよ別に。気にしてない」
「謝罪を受け入れてくれて感謝しますわ」
「用件がそれだけなら、俺はもう教室に戻るけど?」
「まだ有りますわ」
先ほどまでの申し訳なさそうな表情から一変。真剣な眼差しをこちらに向けて来た。
「貴方。魔法の授業の際、手を抜いていますわね?」
あ、あれ?何でバレたんだ?以前より魔力のコントロールは上手くなったはずなのに。
「な、何の事?」
「私は貴方が魔道具研究部で遊んでいる間も、日々魔法部で自身の魔法を磨き続けてきました。お陰で3年生にして副部長を任されています」
自慢かな?
「3年間、必死に努力してもクリスタルの数値がようやく100に届いた程度。貴方がクラス分けの試験の時に記録した144にすら届きませんわ。そう考えた時、私の中で1つの疑問が浮かびましたの」
「疑問?」
「僅か10歳で144なんて出鱈目な数字を記録した貴方が、何故3年経っても1年生の時に記録した数字と似たような数字しか出せないのか。最初は魔道具研究部で遊びほうけていて魔法の練習などしていないからだと、勝手に思い込みましたが――」
話しながらケイトは1枚の紙をこちらに渡して来た。
「それはクラスメイトたちが魔法の授業で記録した数字をまとめたものよ。そこに書かれている通り、1年生の頃から平均で15、私を除けば最大で28上がっているわ」
もしかして毎回記録付けてたのか?意外にマメな性格の様だ。
「でも、貴方の記録だけ1年次の10日目に出した記録から殆ど変化がない。最大で174。今日の授業での記録は166。日によって調子の良し悪しが有るのは仕方ないけれど、上がるどころかむしろ下がっているわ」
「たまたま俺が早熟だっただけじゃないかな?」
「体が成長するにつれて、魔法の威力が向上するというのは国の研究機関にも認められていると先生にお聞きしましたわ。だからこそ、10~13歳の間に魔法の威力が変わらない貴方に違和感を覚えましたの」
「………」
「貴方がなぜ実力を隠しているか、何となく想像はつきます。入学初日の私の様に言いがかりをつけてくる相手を疎ましく思っての事でしょう?だから前科がある私からは普段から本気を出せなどとは言いませんわ。ですがどうか、私の我が儘をひとつだけ聞いて欲しいのですわ」
ケイトは一呼吸溜めてから真っすぐこちらを見据えた。
「どうか、貴方の本気の一撃を見せてほしいのです」
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