第27話 「し、心配をするな、ア、アーバンよ。
「し、心配をするな、ア、アーバンよ。何があってもお前だけは守ってやるからな」
王城の待合室で、俺の横で父がガチガチに緊張していた。
登城当日、俺は11歳という年齢もあり保護者同伴で王城に訪れていた。母は来ていない。
次元収納の魔道具の特許の事は公に出来ないらしく、父にすら登城命令の理由は教えられていない。そのせいで、どうやら父は何らかの処罰を恐れているらしい。
失礼な、アーバン君は悪い事なんて……ちょっとしかしないぞ。
「お待たせしました。アーバン=グランシェルド殿。それとエドガー=グランシェルド伯爵。謁見の準備が整いましたので謁見の間までお越しください」
当代の伯爵より先に子息の名前を呼ぶのはどうなんだ?
ちらりと父の様子を伺うが気にした様子はない。今回は俺の用事で呼ばれたからこれが正当な順番なのかもしれない。些細な事を気にするのはよそう。
騎士の先導で俺たちは謁見の間に向かった。
謁見の間には10数人の騎士、それと20名ぐらいの貴族が待っていた。
赤い絨毯が轢かれた先にある少し高い位置にある玉座にはこの国の国王と思しき人物が鎮座している。
実は国王の顔をきちんと見るのは初めてなので、おそらくと前置きしておいた。
この世界、動画はおろか写真すら存在しない。王の姿を見たのは姿絵だけだったのだが、この国王が本物ならあの絵はちょっと盛られていたらしい。
姿絵だと二枚目風の青年だったが、今は小太りの気の良いおじちゃんと言った感じだ。案外昔は本当にイケメンだったのかもしれないが。いや、昔の姿絵を使っている時点でアウトか。
「よく来た、アーバン=グランシェルドよ」
国王自らの御言葉だ。今度は父の名前すらない。
「謁見の機会を賜り、恐縮至極にございます、陛下」
ちなみに、頭を垂れて待つ習慣は無いらしい。つまり「面を上げよ」ってやつは無しだ。どうせならちょっとやってみたかった。さらに言うなら王が先に謁見の間に入っていて、俺たちを待つかたちになっていた。前世の常識とは色々と違うらしい。
それで言うと最も違うのは名前だろう。何と王族には名前がない。
国王を呼ぶときは陛下だし、王子や王女は第〇王子や第〇王女という呼び方をする。古くからの習わしで理由は諸説あるらしい。
「早速で申し訳ないが、本題に入りたい」
王が手を叩くと玉座の横の戸から眼鏡を掛けた気真面目そうな男が出て来た。白い手袋をはめたその手には俺が作った次元収納の魔道具が持たれていた。
男が王の横に立つ。
「この次元収納の魔道具を作り出したのは貴殿であると言うのは
「はい、間違い御座いません。それは私が作ったモノです」
嘘をついてもしょうがないので、正直に答える。
俺の返答にこの場にいる貴族たちがざわつき始める。
そして、俺の横では父の凄い顔でこちらを見ていた。
(聞いていないんだが?!)
(てへぺろ☆)
そんな会話をアイコンタクトで交わす。
「それを証明出来るか?」
「証明、で御座いますか?ふむ……無理ですね!」
順番が逆で良いなら、俺が次元収納の魔道具の特許を持っている事こそが証明になるのだが、王が聞きたいことはそういう事では無いだろう、だったら俺が開発したなんて証拠はないに等しい。おそらく盗作か何かを疑われているのだろう。
俺の答えに再び場がざわつく。
「陛下。やはりこのような子供がこれ程の魔道具を作り上げるなど不可能です。ここは如何なる手段を用いても入手経路を吐かせるべきです」
「そ、そうでございます。本来ならば特許はそれを制作した本人のもの。つまり本特許は無効でございましょう」
「おお、そうだそうだ」
などと口々に言っている。もしかして特許の使用料を払いたくないのかな?貴族の癖にセコいやつらだ。
「静まれ―――」
たった一言、王が小さな声で忠告すると、場は一気に静まり返った。
「アーバン=グランシェルドよ。では、これと同じものを制作する事は可能か?」
「それでしたら可能です」
「1つ作るのにどれぐらいの時間が掛かる?」
「そうですね……必要な道具が揃っていれば2時間ほどで出来ると思います」
この答えに、またもざわつく貴族たち。なんだね、君たちは一々ざわつかないと痔になる呪いにでも掛かっているのかね?
「必要な道具とは?」
「一般的な魔法陣を描くための道具と、書き込む素体があれば問題ありません。あ、あと魔力液は自分で調整したのを使いますので、魔力が空の状態の方がありがたいですかね」
「……それだけか?」
「はい、それだけです」
「……用意出来るか?」
王が次元収納の魔道具を持った気真面目そうな男に問いかける。
「10分もあれば」
「では、直ぐに手配を頼む」
「は!」
気真面目そうな男は一礼すると直ぐに謁見の間から出て行った。
それを確認した王が、今度はこの場にいる貴族たちに話しかける。
「諸君。知っての通り例の魔道具は国のお抱えの魔道具師にさえ制作が不可能だった。そこで目の前でアーバン=グランシェルドに作ってもらえば、先ほどの諸君らの疑いは晴れるのではと思うが、どうだろうか?」
「そ、それは……」
「ふん、そんな事が本当に出来るのであれば、疑いも晴れるでしょうな」
中年貴族が伸ばした口髭を指でいじりながらこちらに疑惑の眼差しを向ける。
というか、国のお抱えの魔道具師なんているのか、初めて知った。
「よろしい、ではこれより30分後。場所は別棟の工房、そこでアーバン=グランシェルドには魔道具制作を実演して貰う!異存は有るか?アーバン=グランシェルド」
「ございません」
異存はないよ。
でも
不平不満はあるよ。
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