第12話 「明日はいよいよ入学式ですね、坊ちゃん」


 「明日はいよいよ入学式ですね、坊ちゃん」


 「そうだね」


 工房でゴーレムをいじりながら、助手の代わりを務めるメイドから薄く伸ばした金属の板を受け取る。


 色々調べて分かったことだが、石製のゴーレムより木製のゴーレムの方が消費魔力が少なく、且つ滑らかな動きが出きる。しかし所詮は木。強度は足りないし、火にも水にも弱い。そこで、木製のボディに板金を装着してみた。これは割と成功で、消費魔力に変動はないまま、装甲を補強する事が出来た。なにより見た目がロボットに近づいたのが良い。

 とはいえ、芯が木のままなのであまり無理は出来ない。ゆくゆくは木材に変わる素材を見つけたいと思っている。


 「そう言えばお聞きしましたか?キール=ギュンター様の話?」


 「ん?ああ、試験の時に絡んできた子か。彼がどうかしたの?」


 「坊ちゃんに迷惑をかけた事をギュンター子爵は大変お怒りらしく、ここ2カ月は屋敷に軟禁状態。再教育をしているという噂ですよ」


 「へぇー」


 あの手のタイプがそんな事で反省するかな?寧ろ逆恨みとかしてきそうなんだが。


 「あまり興味が無さそうですね」


 「実際ないかな。そんなことよりゴーレムの面白い情報とか無い?」


 「坊ちゃんが知らないようなゴーレムの情報を持っているわけありませんよ。あぁ、そういえば、貴族令息の間のゴーレムブームはもう下火で、最近はフライングボードが流行っているらしいですよ」


 「なん……だと……」


 ブームが去るのが早いよ。いや、流行ってそんなものだろうけど。

 ゴーレムの良さは広まりきらなかったか、無念。


 フライングボードとは、これも魔道具の一種で、要は少しだけ浮くタイヤの付いていないスケボーだ。地面から10cmくらい浮かび最大時速凡そ5km、スピードが出るようにしようと思えばもう少し早くすることはできるが、子供の玩具ということから安全面を考慮してこのスピードらしい。


 実は俺もフライングボードは持っている。ゴーレムに応用できるかもと思って3台ほど買ってもらったのだ。まぁ、既に2台はバラバラだが。

 例えば、装甲面を重視して重たくなってしまったゴーレムに浮遊系の魔法陣を組み込めば、浮くまでは行かなくても重量を軽減できると思ったのだ。

 重量を軽くするのには成功したのだが、バランスがとりにくくなり歩行スピードが落ちるという本末転倒な結果に終わっている。現存の魔法陣を使うのであればいっそ完全に飛行出来るようにするほうが、まだ容易な気がしている。


 「というか坊っちゃん。明日は入学式なのに、ゴーレムばかりにかまけてて良いのですか?入学式の準備はお済ですか?」


 「一応準備は終わってるよ。明日入学式だからこそ今日中にキリの良い所までやっておきたいんだよ」


 結局この日の作業は夜遅くまで続いた。

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