第9話 試験官の剣筋は一言で言えば丁寧だった。
試験官の剣筋は一言で言えば丁寧だった。基本に忠実というか、基本の通りというか。フェイントも無ければ型にない攻撃も無い。まるで最初に俺についてくれた家庭教師のようだった。
家庭教師は剣術の段階が進んでいくにつれて変わっていくものらしい。最初の家庭教師に型を習ったのは1ケ月程度。それから段階が進むにつれて家庭教師は変わっていき今は確か5人目だか6人目だか。
兎に角、最初に言われた通り倒す必要は無いとの事なのでコチラも型通りに剣を振るう。今の家庭教師が見たら怒るかもしれないが俺の前に試験を受けた子供たちの動きを見るにこれは基礎的な剣術を使えるのかという試験なのだろう。
試験官の正眼からの真っすぐな振り下ろしを木剣を横にして受け、受け流しす。本来なら体を回転させこのまま反撃を入れるのだが、正式な型では無いので、一歩下がって木剣を正眼に構え直す。
今度はコチラの番、試験官と同じように正眼に構えた剣を正しく振り下ろす。試験官はさきほど俺がしたようにそれを受け流した。
しばらくそんな型どおりの立ち合いをしていると終了の声が聞こえた。
「そこまで!」
終了の合図と共に試験官が膝を付き、木剣を杖代わりにした。息は粗く、大量の汗が噴き出している。
もしかして具合が悪かったのか?剣を振っている時は平気そうにしていたのに、気づけなくて申し訳ない。
「大丈夫ですか?具合が悪い様なら休むことをお勧めしますが」
「だ、大丈夫です。具合が悪いわけでは御座いません」
う~ん、プロの意地だろうか。どう見ても具合が悪そうなのに休まないとは。しかしそれは周りに迷惑をかける結果になる可能性もある。具合が悪い時は休んだ方が良いと思うのだが、子供の俺が口を挟む問題でもないか。
「ありがとうございました」
俺は礼をとって、木剣を返却してから列の最後尾へと戻った。
魔法の試験の為に先ほどとは違うグランドに移動した。
先ほどより広めのグラウンドには試験官らしき人が2人と、記録係らしき人が1人。どうやら剣術の試験と違って1対1で模擬戦をするなどではない様だ。
「皆さま、彼方をご覧ください」
魔導士っぽい雰囲気のローブを纏った試験官が指さす方を見ると、大きなクリスタルのような物体が浮かんでいた。数は5つ。
「彼方は皆さまの魔力の威力を図る魔道具に御座います。あのクリスタルに攻撃魔法を放っていただきますと、その威力が数字化されて表示されます。使用される攻撃魔法は何でも構いません。ご自身の得意とする魔法をお使いください」
へぇ、そんな魔道具もあるのか。仕組みはどんな感じだろう?魔法に込められた魔力量を数値化するだけなら難しくは無いと思うんだけど、それと衝撃の数値の合算値?いや、それだけで魔法の威力と言えるだろうか?火なら熱量、風なら風量、それぞれ別々に計算できるのか?あれだけのサイズの魔道具なら不可能では無さそうだが、ああ!魔法で壊れないように防御壁も展開しないと。いや?そんな事をしたらそもそも威力が図れないんじゃないか?う~ん、わからん。屋敷に戻ったら父さんにあの魔道具を手に入れられないか聞いてみよう。将来的にゴーレムに搭載する計器周りに使えるかもしれないし。
「アーバン=グランシェルド君。後は君だけですよ、早く並んでください」
「え?あ、すみません」
つい考え込んでいたたらいつの間にか俺以外は皆クリスタルの前に列になった並んでいた。俺は慌てて一番左の列の最後尾に並ぶ。
「では、最初の者、前へ」
言われて5人の子供たちが前へと進む。
「準備は良いですか?それでは、放て」
クリスタルまでの距離はおよそ50メートル。
5人は全員火球の魔法を選択したようで、全員が一斉に同じ魔法を放つ。
同時に放たれた5つの火球はその殆どが空中で霧散し、クリスタルに届いたのはたった1つだった。
「――――え?」
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