第8話 クラス分けの試験は全4教科。
クラス分けの試験は全4教科。一般教養、魔術、剣術、礼儀作法。見事に家庭教師に教わったものばかりだ。馬術は、まぁ御家の方針だろう。
教室に案内され、一般教養の試験が行われる。
今年入学する生徒は全部で102人。3つのクラスに分けられた。キーン君は別のクラスで試験を受けるようだ。偶々か、騒ぎを聞いていた学園側の配慮か、どちらにしても助かる。
「一般教養の試験は1時間、鐘の音と共に開始してください」
筆記試験が僅か1時間とは。むしろ試験を2日に分けて初日全部使うぐらいした方が良い気がするが、あまり筆記試験に重きを置いてないのだろうか?1日で全試験を終わらせるのは入学試験ではなく、あくまでクラス分けの為の物だし、遠方から来ている子にも配慮しての事か?
カーン、カーン、カーン……
鐘の音と共に試験用紙を表に返す。
内容は……うん。家庭教師に習った簡単な問題ばかりだ。
やはり筆記試験の重要度はそれほど高くないのだろう。
しかし問題数は結構あるので、時間は掛かった。全問解き終わったのは鐘の鳴る4・5分前で見直す余裕はなかった。
答案用紙を机の上に置いたまま、グラウンドに移動するように言われる。
次は剣術の試験らしい。正直剣術は得意ではない。前世でもバリバリのインドア派だったし、今生でも剣術の授業と馬術の授業ぐらいしか運動はしていない。
グラウンドに着くと10人ほどの大人が木剣を持って待ち構えていた。
「これから皆さんには彼方に居る方々と模擬戦をして頂きます。もちろん勝つ必要など御座いません。皆さんの現時点での実力を確認したいので、皆さんは全力で挑んでください。それでは、皆さまお好きな方の前にお並び下さい」
(アバウトだなぁ)
そんな事を考えつつ、俺は適当に一番左の人の前に並んだ。
ちなみに俺の前には既に6人程並んでいる。
「それでは皆さん。はじめてください」
「「「「よろしくおねがいします」」」」
声を出したのは全員試験官側、つまり生徒側は挨拶もせずに木剣を振り始めた。多分彼らは平民なのだろう。大の大人が10歳の子供に気を配らねばならぬ世の中、世知辛いものである。
何人かの試験を観戦していて思ったのは、これなら問題なさそうだ。という事だった。どう見てもお遊戯。9~10歳の子供たちの剣は剣術というにはあまりに稚拙で、ただ木剣を振り回しているだけに見えた。
「すばらしい剣でした。お疲れ様です」
そんな稚拙な剣に、見え見えのおべっかを逐一言う試験官。本当に世知辛い。
「次、アーバン=グランシェルド君」
「はい」
ようやく俺の番が来た。俺は木剣を受け取り前へ出る。
ふと横を見ると、中央辺りにキーン君の姿が見えた。キーン君もこちらに気が付いたようで、見下したような笑みを浮かべている。
態々爵位が上の相手にまで嚙みついたのだ、よほど自身の実力に自信があるのだろう。自分で優秀だと言っていたし。
「それでは、はじめ!」
「「「「よろしくお願いします」」」」
試験官が声を揃えて挨拶をする。例によって生徒側は誰も挨拶などしない。俺以外は―――
「お願いします」
挨拶をすると、試験官は一瞬だけ呆けたが直ぐに気を取り直し木剣を正眼に構えた。多分珍しいだけで挨拶をする子供はたまにいるのだろう。
正面の試験官を見る。大人の中でもガタイが良いほうだ。身長は1m90cmくらいありそうだ。構えは基本的だが隙はない。まともにやり合ったら一薙ぎで仕舞いだろう。まぁ、貴族に忖度しなければならない彼らがそんな事をするはずも無いのだが。
さて、どうしたものか。いつもの剣術の授業の時は身体強化の魔法を使って筋力やスピードの無さをカバーしていたが、これは剣術の授業、流石に魔法を使う訳には……ん?そういえば身体強化の魔法を使ってはイケないなんて説明はされてないような?言うまでもないということだろうか?
「あの、身体強化の魔法は使っても構わないんですか?」
俺は試験官にだけ聞こえるような小声で確認した。
仮に使ってはイケないというのが常識なら、大声で確認するのは恥になるだろうからだ。
「つ、使えるのですか?」
返ってきたのは意外な返事だった。
身体強化の魔法はそれほど難しくない。実際に俺は真面目に魔法の授業に取り組みだして半年後にはオリビエ先生に習い始め、3日前後で習得出来た。
「一応使えます」
使えるのと、使いこなせるのでは違うだろうと思い、一応と答える。
「少々お持ちください」
試験官はその場を離れ、会場の隅で採点していた人物の元へと駆けて行った。
少しの間小声でなにやらやり取りをした後、戻ってきた試験官が放った言葉は。
「使えるものなら、使って構わないそうです」
微妙に引っ掛かる言い回しだ。先ほど試験官が確認を取るために近づいた人物に目を向けると、なにやらニヤついた表情でコチラをみている。どういうこと?
とにかく、使っても構わないというなら使うべきだろう。
「≪身体強化≫」
これで、身体能力は大人のそれとそん色ない筈だ。リーチの差は如何ともし難いが、長物を使う訳にもいかないので、そればかりは今回は仕方ない。
「では、行きます!」
俺は思いっきり地面を蹴った―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます