第4章 血族 第十話
東の水平線から日が昇り始め新たな朝が訪れた、高速船は西に大きく突き出た半島を迂回し今は東に向かって進んでいる。
ベルハルド「船長殿あと如何程でナルバに到着するのだ?」
船長「半島を迂回して約2時間、そろそろ見えてもおかしくない頃合いなのですが…」船員「船長!2時の方向!ナルバに間違い有りません!」
高速船は速度を落として沖合から街の様子を伺う。
ヴィンス「どうだアスル、街の様子は?」
アスル「街が燃えている…」
アスルは船のマストに上りイーグルアイを使ってナルバの街を見渡す、外郭が邪魔をして低い位置は見えないが至る所に火の手と黒煙が上がっている、だが街の中心が丘陵になっていてその頂上にある官庁舎の方は未だ煙は上がらず無事な様子がみえた。
アスル「待って!街の方から何か飛んでくる!」
オリビア「ステイサム!」
高速船の甲板に降り立ったのはバンパイア生き残り勢でアーノやスタローと同格のステイサムだった、ステイサム曰く防御壁の外側まで迎撃に出たスタロー麾下のバンパイア30名の消息は不明、防御壁の王国軍と残りのバンパイア達は後退を余儀なくされるが退路を断たれ今は高い壁で囲われた官庁舎に立て籠もっていると言う。
ベルハルド「それで民は?敵は?遠目で分かりにくいが魔族の軍が居るようには見えないが」
ナルバの民の殆どは魔族軍が到着する以前に王国軍の指示のもと隣の都市までの避難を終えていた。
続いて魔族軍の状況だが、昨夜防御壁の中まで攻め入った魔族軍は夜明けと共に進撃をやめ今は建物の中に潜んでいると言う、日光の苦手な雑兵ゾンビに合わせて陽が沈むのを待っているのであろう。
ステイサム「敵は日光が苦手なだけで不用意に近づけば襲ってきます…官庁舎に居る兵達は…」
ベルハルド「万事休すだと言うのか…」
やっとの思いでナルバに到着した、しかし防御壁を越えられた今のベルハルド達に為すすべはなく重く沈んだ沈黙が流れた…
オリビア「ジッとしていても何も始まらない!全軍一丸となって強行突破するしかあるまい!」
ベルハルド「そうだな…例え大きな被害を被ろうともそれしか…」
黒傷「ちょっと良いかい?」
黒傷は異を唱えた、強行突破もひとつの手だが敵は日光が苦手なだけで外郭へ着く前に囲まれてしまえば其れこそ大惨事を招くだろうと。
オリビア「ならどうすると言うのだ!」
黒傷は参考程度に聴いてくれと前置きして話し始める、黒傷自身の経験として敵軍の雑兵であるゾンビとスケルトンは群れをなせば脅威となるが単体ならば特別視するものでもない、更に此れだけの数のゾンビやスケルトンが集まれば強力な指揮者が居ない限り右往左往するだけの的になるはずと。
黒傷「そこで提案だ、どうせ全滅覚悟で考えるなら騎士団は囮として官庁舎で大人しく時間稼ぎさせとけ!」
黒傷「そして腕に自信のある奴で指揮者を潰す!概ねスケルトンナイトが中隊長ってとこか…で、総大将がスカルの上のリッチってとこだな!全部潰せれば後は鹿を狩るより容易いだろ?どうだこの方が可能性としては高いと思わないか?」
その場に居た者は只呆然と黒傷を見つめていた、神聖教徒の中でも殺戮だけを愉しむ狂気の集団と噂されていたペインの黒傷が可能性はどうであれ真っ当な意見を述べたからだ。
ラヴ「確かに遊撃隊にはかなりの負担を掛けることになるけど…私もその案に賛同するわ…」
ベルハルド「我々は協力してもらう身、異論はない」
先程まで沈みきっていた皆の顔に生気が戻り、場の空気さえ軽く明るく変わった様に感じる。
ヴィンス「なら決まりだな!勝負は敵の動きが鈍い日没まで!時間は無いぞ!」
ヴィンスの発案で空を飛べるバンパイア達はスケルトンナイトの居場所を特定し合図を送る事になった、スケルトンナイト程の巨体では民家には入れないので建物も限定され捜しやすいはずだと。
その合図は遠目の効くアスルが官庁舎から目視後に各遊撃隊へ念話で指示すると言うものだった。
ベルハルド「イリスの友よ黒傷殿よ…どうかこの国の民を助けて欲しい…」
ベルハルドが深く頭を下げるとそれに習ってオリビアを含むコールスの兵達も深々と頭を下げるのだった。
ヴィンス「さぁ行こう反撃開始だ!」
成功する可能性は低いであろうと誰もが心で思っていた、しかし何としても成し遂げると思う心がそれを遥かに上回り多国籍・多人種の即席チームの気持ちを一丸とするのであった。
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