第4章 血族 第九話

 ナルバは南にあるウラル山脈と北にある海岸線に挟まれた地に山脈で採れる物資の中継地点として造られた街である。

 その昔魔族領からの侵攻を堰き止めるために山脈から海岸線へと繋がる防御壁とその中央部分に巨大な要塞が鎮座する人族の北部防衛拠点であった。

 陽が西の地平線に沈み空は夕陽で染まった茜色から漆黒の闇へと模様を変える。

 低く黒い雲が月と星の明かりを遮ると日中は静まり返っていた東の平野に一つまた一つと何処からともなく人影が集まり始めた。


ライオネル「とばりは降りた、敵はとワザワザ灯りを灯して誘っておる…さぁ行け!この場にある全ての命を喰らい尽くすのだ!」


 号令と共に無数のアンデッドが防御壁に向かって行進を始めた、『グォォォォ』哀しく苦しむ様な呻き声が大群を成して壁へと迫る。


兵士「報告!先鋒隊とみられるアンデッドが動き始めました!その数およそ二千!」

トーマス騎士団長「先ずは投石!充分引き付けて火矢と火炎魔術の一斉射!」


 トーマス・ゴドウィンはコールス王国の現騎士団長である、魔族戦争時には中隊を率いて魔族軍相手に幾度となくこの平野を駆けまわった歴戦の勇士だ。

 トーマスの指示で防御壁の内側から巨石が放たれると丸く削られた巨石はアンデッドの群れの中に落下した後も剥き出しの硬い地盤で跳ねて暫く転がり群れを押し潰していった。

 アンデッドの群れが弓矢の射程内に入ると火矢を一斉射出、それに続けて魔術師達の火炎攻撃が放たれた。

 アンデッドには火系の攻撃が有効だ、火矢が命中したゾンビは燃え上がりその炎は近くのゾンビにも燃え移る!火属性魔術も同様だった。


ライオネル「フムフム、定石通りだな…第2陣も進めろ!第1陣が壁にとり着いたらガーゴイル隊を出せ!」


 地上からは消滅(死)すら厭わないゾンビとスケルトンの大群が防御壁まで迫り、空中からは石矢を物ともしないガーゴイル達が逆に矢と投槍で防御壁上部に居る兵士達の数を減らしてゆく。


トーマス「スタロー殿、すまぬが空の敵を頼む!」

スタロー「了解しました、お任せください」


 スタロー(家名なし)はオリビアに魔族領逃亡時代から行動を共にする純血バンパイア(男性)でオリビア不在時のバンパイア隊統括代理を任された者だった。

 オリビアがコールス王国に仕えた頃のバンパイアの数は純血種10人に混血種が5人程度だった、しかし現在のコールス王国には20人程の純血種と混血種も50人を越える程にその数を増やしていた。


スタロー「訓練通りスリーマンセルの10隊で空の敵を駆逐する!但し無理はするなよ!」


 バンパイア隊は背中から蝙蝠の様な羽根を出すと一斉に飛び立ち次々にガーゴイルを叩き落としていった、元々バンパイア族は魔族全体でも上位種でありガーゴイル程度では相手にすらならない存在なのだ。


※※※


 戦場となっている平野の更にその向こう側に小高い丘がありその上にライオネルの軍は本陣を構えていた。


ベクター「そろそろ出しますか?」

ライオネル「良いだろう貴様の駒にも活躍の場を与えてやらねばな、スカルを前へ…私も出る!」


 本陣の軍がライオネルを残し左右ふたつに分かれるとその後ろから巨大な魔物がと歩を進めてくる。

 その魔物は『スカルドラゴン』死して其れ程時間が経過していなかったのであろうその身体は殆ど白骨化してはいるがまだ処々に悪臭を放つ肉片がこびり付いていた。


バンパイア兵「あ…あれはスカルドラゴン?!」

スタロー「マズイな!あれを壁に近付けさせるな!」


 ガーゴイルを一掃したバンパイア達だったが息つく暇もなくスカルドラゴンに挑む。


スタロー「奴に魔術は効かない!牽制しつつ打撃で対処!」

ライオネル「クククッ良いぞコッチへ来い先ずは羽根をもぐ!」

ライオネル「…さぁいくぞ!おちろ蚊トンボ過放電オーバーディスチャージ!」

バンパイア兵達「グワァァ!!」


 ライオネルを中心に放たれた電撃はスカルドラゴンの周りを飛んでいたバンパイア兵達の羽根を焼く、電撃により羽根を焼かれ麻痺させられたバンパイア達はゾンビとスケルトンがうごめく地表へと落ちるしかなかった。


ライオネル「ハハハッ…あの忌々しい女!オリビア・キャンベルが居なければバンパイアと言えどこんなものか…」

ライオネル「スカル!バンパイア共を踏み潰しあの壁を崩すのだ!」


 防御壁にはアンデッド達が取り付きライオネルの前に頼みの綱のバンパイア達が撃ち落とされた、スカルドラゴンはその巨躯をものともせず壁によじ登り防御壁を壊し始める。

 下位種族のゾンビやスケルトンだけならまだしもスカルドラゴンや多数のナイト級のスケルトンが居てはオリビアの居ないコールス王国軍は為すすべなく撤退せざるおえなかった。

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