第4章 血族 第七話

神聖教査問官A「捕らえた魔物達を研究・実験し対処法を導き出すのも我らの勤めよ!」

神聖教査問官B「話はここ迄だ、ホーリーライト!」


 査問官が呪文を唱えると応接室の床に大きな魔法陣が現れ白い光が円柱の様に上へ上へと登ってゆく。


オリビア「カハァッ!」 

アスル「アァァッッ!」

神聖教査問官A「ハハハッ!良いぞ吸血鬼共!血の一滴も残す事なく浄化されて無くなるが良い!」


 ホーリーライト(聖なる光)は魔族以外には回復魔法となる光属性魔法であるが、魔族の中でもアンデッド及びそれに近しいモノ『オリビアとアスル』には大きなダメージとなり二人の皮膚はみるみる黒く変色し浄化されてゆく。


オリビア「ベルハルド様…」

ベルハルド「オリビア残念ですが許します!」

オリビア「お許し感謝します…吸血鬼用結界か…ククククッ…死ね!虫けらが!」


 オリビアが全身に力を込めると昨晩のクリスチアーノとの戦闘中にみせた紅いもやを身にまとってホーリーライトを唱えた査問官Bに飛び掛り首をはねた。


神聖教査問官A「な!何故動ける!」

オリビア「何故って?言う訳無かろう!ゴミ虫が!」

査問官A「ゴッ…ゴボゴボゴ………」


 査問官Aは喉を貫かれ自らの血で溺れるような音と共に息絶えた。


オリビア「陛下!お怪我は?」

ベルハルド「私は大丈夫だが、君とアスル君は?!」

オリビア「私は問題有りません、ソイツもぐに元に戻るでしょう」


 純血種であるオリビアはバンパイア特有の回復力でみるみる変色が消え去り、オリビアに比べて時間は掛かるがアスルも同じく変色が消えていった。


オリビア「先程から気にはしていたが、お前覚醒していないのか?」

アスル「えっ?覚醒ってなによ!」

オリビア「…道理で脆弱な身体つきに回復の遅さ…納得がいった…」

ラヴ「ちょっとアンタ達!外にもう一人居るわよ!」

男「……ほぉ〜私の気配に気付くとは!流石はイリス王国ラヴ・ガーナー殿!」


 少しおどけながら入ってきた男は頭を下げなければドア枠にオデコをぶつける程の背丈と異様に長い手脚の持ち主だった。

 この男も全身黒尽くめではあったが査問官達とは違い首から大きなマル枠に十文字の黒い首飾りを下げていた。


ラヴ「アンタ…そのマル枠に十文字の首飾り…ペイン?!」

男「当たです!流石!流石!私は神聖教ペインのひとりで『黒傷こくしょう』と申します、以後お見知りおきを!」

オリビア「貴様!神聖教ならお前も此処で死ね!」


 オリビアは自身の爪を伸ばした手刀で黒傷に向かって斬りつけ突き刺し息もつかせず攻撃した、しかし黒傷はその攻撃全てを防ぐと右の脚をオリビアのみぞおちにくい込ませ弾き飛ばした。


黒傷「いやいや、人も魔物も諦めが肝心ですよ〜」


 戦慄が走る、オリビアをも圧倒する強さであった。

 黒傷の眼は部屋の中央の一点を見つめて動かない…訳では無い、爬虫類の様に外側に向いた目は動かさずとも部屋全体を見渡す事が出来ていたのだ。


黒傷「じゃあ此処で全員死んでくだ…」

アスル「ケルルッ!」

ケルル「ワオォォン」


 アスルの叫びに反応しルシーナの影からケルル(ケルベロス)が飛び出し黒傷の前に立ちはだかる。


黒傷「?!!!」

ケルル「ガフッ!…」


 ケルルの噛みつきを黒傷は後ろへ跳ねて辛うじて躱した。


アスル「皆さん落ち着いて!このケルベロスは味方です!」

黒傷(おいおい!コイツ居たのか?手に余るぞ…)

ケルル『アスル姉ちゃんコイツ喰っても良い?』


 形勢逆転である!黒傷はオリビアと同等以上の戦闘力を持っていた、しかしケルベロスと此れだけの人数を一度に相手となると話は別である。

 身構える黒傷とアスルの『良し!』を待つケルルの睨み合いは続くがその時タイミング悪くコールスの使者が階段を駆け上がってきたのだ。


使者「陛下!大変です!ベルハルド陛…ば…化け物!」


 ドア枠の向こうに現れた使者にその場の者達は一瞬気を取られその隙に黒傷は応接室から消えていた。


ベルハルド「な…な…いや、聴きたいことだらけで…」

オリビア「落ち着いてベル!兎に角急場は凌がれました!」

ベルハルド「こ…この魔物はいったい?!」

アスル「ケルルは!この魔物は私のお友達です!」

ケルル「グルル!『弟だよ!』」


 驚きおののくベルハルドと強大な魔物の出現に身構えるオリビアだったがアスルとルシーナの説明に大きく目を見開きながら取り敢えず納得するのだった。


ラヴ「ところで、その使者殿の話を聴いたほうが宜しいんじゃなくって?」

ベルハルド「そ…そうであった!その者発言を許す!」

使者「陛下…コールスが大変な事に!」


※※※


 コールス王国王都より東へ馬で駆ける事一昼夜、ウラル山脈西端と海岸線に挟まれる形で国境を護る『城塞都市ナルバ』がある。

 魔族戦争の折に北の最前線に建てられた城塞だったが終戦後に山脈で採れる鉱石の運搬中継地点として発展し都市となったのがナルバである。

 その城塞都市ナルバの東門を遠目に黒い靄を纏い只ひたすらに西を目指す大きな集団があった。


ライオネル「ナルバ!何度見ても忌々しい!」

ベクター「此処がバンパイア共の居る街ですか…」

ライオネル「此度こそあの裏切者共を血祭りにあげてくれるわ!」

ベクター「私はモルモットさえ戴ければ文句はありません…クククッ」

ライオネル「あの城を落とせばその後は貴様の好きにすれば良い…」

 

 ベクターは死んではいなかった、そして彼は魔族軍幹部の生き(?)残りであるライオネルと共同で城塞都市ナルバを攻略しようとしていた。


※※※


使者「…との報告が伝令鳥にてよこされました!」

ベルハルド「報告書の日付から察するに今日にも戦端が開かれる…」

オリビア「陛下!直ぐに帰りましょう!」

ベルハルド「あぁ…だが…」

 

 サミットの行われている都市オムスから城塞都市ナルバまで船で4日が最短ルートであった。


ルシーナ「兎に角ナルバを失う理由にはいきません!プルコギ首相には私から説明いたします、ベル達は急ぎ帰国の準備を!」


 ルシーナはプルコギの居る首相官邸へ向かいベルハルド達は出航の準備に港へと急いだ。

 落城までに間に合う可能性は低く主戦力のオリビアが居ない防衛隊では街も守りきれないだろう、しかしベルハルドとルシーナの気持はひとつだった『自分達の野望の大きな一歩となるナルバの街と民を失ってはいけない』と…




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る