第4章 血族 第六話
夜が明けオムス国際会議場では各国の代表が一堂に会しオラダニア首相ブルコニによりサミットの開会が宣言され今後の世界のあり方についての協議が始まった。
各々が国内で抱える魔族・魔獣問題や対ムーア帝国問題から経済・交易に関する問題まで、4年前に提議された諸問題に対する答え合わせと今後の4年間に解決したい問題を話し合う9日間が始まったのである。
ルシーナ王女の出番は3日目なので本日のヴィンス隊はオムス港とその周辺施設の視察に向かうルシーナ王女の同行護衛となった。
ルシーナ曰く世界一の規模を誇るオムス港の港湾施設関連やあらゆる物資の移動効率が考えらた区画整備、中でもドッグで建造中の高速船など大国イリスと言えども見習わなければならない点が数多あり充実した1日だったと。
ヴィンス『港の視察はこれで終わりだ、この後は俺とラヴ・アスルの3人で殿下を会議場まで送り届ける、残りの者はこのまま解散して宿に戻るなり街を散策するなりしても良いぞ』
ビレイ『やったね!じゃあローサちゃん1杯奢るから買い物に付き合ってくれるかしら?』
ローサ『よろこんでぇ!』
アスル『いいな〜アタシも行きたかったな〜』
ラヴ『ほらほら、アスルは任務終わったら呑ませてあげるから!』
連勤になり不満顔のアスルを引っ張り護衛組はルシーナと共に会議場へと向かう、周りの者達がいつもとは違い神妙な面持ちをしている事にアスルは気付いていない。
※※※
5階建ての国際会議場には様々な規模の会議室以外にも応接室なども用意されている。
ルシーナは護衛3人を引連れて2階応接室へと足を運びドアの前には先客の護衛らしき男がひとり立っていた。
ヴィンス「先ずラヴとアスルは外で待機、呼んだら入ってきてくれ」
ヴィンスは男に取次いでもらうとルシーナと共に招かれ入室した。
ルシーナ「ベルハルド陛下お待たせして申し訳ございません」
ベルハルド「此方こそワザワザ御足労頂き申し訳ない…」
昨夜の歓迎晩餐会とは打って変わってルシーナとベルハルドは神妙な面持ちで挨拶を交わす、内容が昨晩の出来事なのであれば如何に友好国と言えど外交問題に発展する行為だからである。
ルシーナ「まわりくどいのは無しに致しましょう!此方としては今後一切『アスル・フルニエ』の命を狙わないと誓って頂けるなら今回の事は不問とします」
オリビア「ルシーナ殿下御言葉を返す様で大変恐縮で御座いますが…」
オリビアは胸の内を包み隠す事なく全てを話した。
今回の騒動が私怨に囚われ今ある自分や同胞の立場を鑑みず愚かな行為だと猛省している、しかしその反面で頭では理解してもバレンタイン一族に対して胸の内で燻ぶる抑えきれない反感の気持がある事も口にした。
ルシーナ「アナタの気持は理解しました、ですがアナタの行為は仇討にも満たない只の八つ当たりと
ルシーナ「貴方達には辛く悲しく忘れられない過去があった事は事実です、ですがキャンベルさん!ベルの想いも察してあげて下さい、今を生きる貴方達には前を向いて生きて欲しい…
オリビアは深々と頭を下げこれにて昨夜の襲撃の件は不問となった。
ベルハルド「では彼女を呼びましょう、生い立ちについて話さなければなりません…」
ベルハルドは防音のアーティファクトを停止させドアの外で待つアスル達を呼ぶのだった。
※※※
アスル「アスル・フルニエです!以後お見知りおきを!」
部屋には先に入室したルシーナとヴィンスだけでなく昨夜の晩餐会で見掛けたベルハルド国王とその従者らしき女がいた。
アスルはラヴの挨拶を聴いて名前の部分だけを自分に置き換えて同じ文言で挨拶を済ませた。
ベルハルド「今日はアスル殿に聞きたい事があってお呼びだてしたのだが…二・三質問しても宜しいかな?」
アスル「え?あっ…はい、任務に関する事以外でしたら…私の答えられる範囲でお答えします…」
ベルハルド「先ずは…」
ベルハルドはアスルの記憶にあるアスルの生い立ちを聞かせてくれとお願いした、アスルの返答は『拾われた時に包まれていた布にアスルと刺繍があったのでその名前を付けられた』と言うもの以外は諜報局が昔に調べたものと全て合致していた。
ベルハルド「ではご両親の記憶は全く無いと?」
アスル「私は乳飲児の時に森で拾われたと聴きましたので…」
少しの間を置いてベルハルドはルシーナとオリビアの顔を見渡す、二人はベルハルドに話を続けるように小さく頷いた。
ベルハルド「ではここで大事な事を聞こう……先日発覚したのだが我々は君の真実の生い立ちを君に教えてあげられる状態にある…なかには君にとって辛い内容も含まれるのだが…君は聴きたいかい?」
アスルは暫く黙ってベルハルドの目を見つめていた、ベルハルドもアスルの視線を逸らすことなく見つめ返していた。
アスル「どんな内容でも受けとめます…是非ともお聞かせください…」
ベルハルド「分かりました、我々の知る限りをお伝えしましょう」
ベルハルドはオリビアの私怨に関する事柄を省いて出来うる限りを話した、アスルの両親の事・当時と其の後のバンパイア族の事…そしてバレンタイン一族が恨みの対象となっている現状を。
ベルハルド「…以上が我々の知っている事だ…」
暫く思案したアスルは静かにユックリと彼女なりに言葉を選びながら話し始めた。
アスル「アタシ…バンパイアの混血だったんだ…アタシは混血だから…望まれずに産まれて捨てられたんだって思ってたんです、冗談ですが虫のように地面から湧いたんじゃ…って思ってもみました!…でもちゃんと両親が居て望まれて産まれたんだと知れて…うれしい…」
俯いたアスルはポロポロと涙を落しながら…言葉に詰まりながら話し続ける。
アスル「…でも…バンパイアの皆さんが私のお父さんや一族を憎む気持ちも理解できます…だから…わたし…悲しい…」
隣に座り黙って聴いていたヴィンスはアスルの肩に優しく手を置いた。
オリビア「アスル・バレンタイン!…王族とは…泣くな…」
震えながら話すオリビアはアスルに何かを伝えたくて、しかし感情が溢れて上手く言葉にできない。
「何だお前達は!…グアッ!」
アスル「あれっ!なにこれ?……」
アスルは突然身体に力が入らなくなり隣にいたヴィンスに寄り掛かるように倒れた、それと同時にベルハルドの後ろにいたオリビアも立っていられなくなり苦しそうに膝をついた。
『ダァンッ!』
入口のドアが突然開かれ黒尽くめ男達が乱入して来る。
男A「どうだね対吸血鬼用に編み出された結界の味は?」
ラヴ「アンタ達な…に…を…」
男B「あ〜…対人族用に拘束魔法も重ねがけしておいた、ユックリとしたまえ」
男A「我々は『神聖教会査問官』である!神聖教アルメラ様の名の下に魔族とそれに関わる全ての者を排除する為に参った!」
神聖教は大陸最大の宗教団体でその歴史は千年を越えると言われている、まだ大きな都市国家も無かった頃から人族の下層民を中心に広く普及されて今に至る。
大地の神アルメラを
ルシーナ「グッ…我をイリスの王族と知っての狼藉か!」
神聖教査問官A「我等は神聖教徒!魔族に関する者は王族とて容赦はしない!混血種アスル・フルニエを始末する為にオムスへきたが更にそれ以上の大物がつれるとはな!これこそアルメラ様の思し召し!」
神聖教査問官B「用があるのはバンパイア純血種オリビア・キャンベルと混血種アスル・フルニエの二人の命だけであったが、お前達も見逃す訳にはいかないな!」
突如現れた魔族根絶主義の神聖教査問官達!
身体の自由を奪われたヴィンス達に抗うすべは有るのだろうか!
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