第4章 血族 第四話

ヴィンス「ローサァァッ!」


 マントの女は雄叫びをあげながら左手でローサの剣を弾くと大きく振りかぶっていた右腕をローサ目掛けて振り下ろした。


『パキンッ!』


 万事休すと諦めかけた刹那マントの女は足元から襲い来る氷から逃れるよう後退した。


クリス「ほぉ…私の『氷結』が避けられるとは…うむ実に面白い」

ヴィンス「クリス!」


 其処には落雷の音を追ってきたクリスチアーノが佇んでいる、彼の周囲は空気中の水蒸気さえも凍りつきその結晶がキラキラと宙を舞っていた。


クリス「ヴィー(ヴィンス)苦戦している様だな…」

マントの女「氷帝か!!」

クリス「暫く動向を観察させて貰ったが、この場の不要人物は君のようだねっ!」

ヴィンス(マント君!)

ローサ(マント君!)

パン(マント君!)

 

 クリスチアーノはイリス王国諜報局のエース中のエースである、戦闘能力も然ることながら理知的で合理的・頭脳明晰で沈着冷静、上司にしたい男ナンバーワン(イリス省庁内アンケート 調べ)である!。


マントの女「貴様っ!…私はくんでは無い!だ!」

ヴィンス(そこっ?!)

ローサ(そこっ?!)

パン(そこっ?!)

クリス「良いだろう!ではマントさん!この氷帝と一戦お手合わせ願えますかな!」


 突然ではあるがイリス王国上司にしたい男ナンバーワン(省庁内アンケート調べ)とマント(君改め)さんの一騎討ちが始まったのである!

 2人の動きは目で追うのもやっとの事で、スピード自慢のヴィンスでさえ全ての動きを捉えることが出来ずにいた。


クリス「ならばこの手は如何でしょうか?−196℃イチキュウロク!」


 細かい説明は抜きとしよう、瞬間冷凍である!。


マントさん「喰らうか!」


 クリスの周囲は木々や地面だけではなく空気さえも白く凍てついているのが判る、しかしマントさんの身近な周囲だけは紅く光りその紅が凍りつくのを阻んでいた。


クリス「…やはり…貴女は魔族ですね…これは実に興味深い…」


 二人の攻防はどちらも決定打の無いまま続く。


ローサ「…めちゃくちゃ寒い…でぃス…」


 クリスの発する冷気と吹雪に辺りは一面銀世界となり周りで見ている3人の頭にも雪らしき物が積り始めていた。

 

クリス「理解した、では取っておきをお見舞いしましょう!」


 クリスは宙に浮き直立のまま両腕を広げる、それはあたかも氷の神が降臨したかのように。


クリス「最後に言い残すことは?」

マントさん「確かに私は魔族だ!しかしなぜ貴様らがその同じ魔族の女を庇うのか!!」


 ローサが魔族と聞いてクリスの動きが止まった、クリスもアスルが魔族との混血である事は聴いていた、しかしローサの事は寝耳に水なのである。


マントさん「これは我等同種族同士の問題だ!」


 マントさんは種族同士の問題を語り始めた。

 魔族戦争終盤の20数年前、魔族軍幹部で四天王と言われるバンパイア族の王『フェルディナンド・バレンタイン』が突如謀反を起こし人族と和平をした、理由は多々あったのだが最大の理由がフェルディナンドが人族の女にうつつを抜かしその者との間に子を儲けた事だと言われている。

 しかしその叛逆を魔王が許す筈もなくバンパイア族は大規模な討伐軍に敗れフェルディナンドも魔王自らの手で引導を渡された。


マントさん「如何に魔族同士と言えども裏切り者達がどの様な末路を辿るか判るであろう」


 魔族領内でのバンパイア族の身分は最下層とされ奴隷扱いとなる、ある者は実験体・玩具・見せしめの為の公開拷問、生きながらに地獄を味あわされ続けた。


マントさん「私は幸か不幸か童子だった為に魔人に引き取られ何年も地下牢に閉じ込められていた…将来の玩具にする為にな!」

マントさん「窓も無く蒸し暑い地下牢、藁だけの寝床とトイレ用の穴がひとつ、思い出したかのように週に一度投げ込まれる食事は何かの死体…腐った死体の中から固まった血を穿ほじくり出し舐めて飢えを凌ぐ…」


 聞くに堪えない話が続きクリス以下全員の戦闘意欲も失せる。

 

マントさん「私は決意した、気が触れた廃人を装い時が来るのを待つと!奴らまんまと騙されてたよ…クククッ」


 数年後マントさんは成長し玩具として扱われる日がくる。

 痩せ細った身体を修正する為に新鮮な血を与えられ地下牢から解放されると屋敷の庭で身体の隅々まで洗い流され夜伽の時刻まで主の寝室でまたされた。


マントさん「…胸が高まったよ…数年ぶりにワクワクしたよ……何せソイツをブチ殺せる日がきたのだからな!」


 館の主は寝床へ入室後すぐに惨殺された、館の主も油断が過ぎたのだ『血を得たバンパイア』に対して。

 マントさんも深い傷を負ったがゆっくりとしている暇はなかった。

 着の身着のまま館を飛び出しカザフ山脈を左手に見ながら西へ西へと逃走する、追ってを躱し道中で同胞を見つけては助け見付かっては同胞を失いを繰り返しながら…

 目立たぬ様に街は襲わない、獣を襲い時には虫を食べて飢えを凌いだ。

 それこそ気の触れるような逃走生活は2年続きマントさん一行はある事に気付く『如何なる時も左手に見えていたカザフ山脈』が途切れている事に!


マントさん「我々は人族の地まで逃げ切った!」

マントさん「しかし!私達は忘れない!死んでいった者達の為にも忘れるわけにはいかない…全てはフェルディナンドとその一族の無能さが招いた事だと!フェルディナンドの血を根絶せねばならないと!」


 安住の地を得たバンパイア達は世界各地に同胞を派遣し捜し追い求めた、フェルディナンドと一族は皆殺しにあったと思われていた、しかし20年前にフェルディナンドが密かに逃がした忘れ形見の存在を知ってしまっのだから。

 マントさんはローサを指差しながらワナワナと震えている、魔族の裏切り者の血をバンパイア族の仇を。


マントさん「やっとみつけたのだ…やっと辿り着いたのだ…バレンタイン一族最後の血に!!」

 

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