第4章 血族 第三話
晩餐会も終了し各国の要人達も其々今宵の宿へと散っていった、ルシーナ王女はチャールズと同じく迎賓館での宿泊となりその寝所へと案内される。
ヴィンス「室内は概ね問題有りませんでした、殿下の就寝時は隣室にラヴがこの部屋にはビレイとアスルが付添い護衛しますので御安心を」
ルシーナ「分かりました、宜しくお願いします」
ヴィンス・パン・ローサの3人は翌日の予定を確認し終えると市街地に用意してある宿屋へと向かった。
迎賓館は街から離れた小高い丘の上に建てられていた為に街へ戻るには一本道の森を抜けるように進まねばならなかった。
ローサ「隊長〜宿屋に帰る前にお腹減った〜でぃス!」
ヴィンス「何か買って帰るか…但し飲酒は禁止だぞ」
ローサ「えぇぇぇ!なんでなんでぇ!」
パン「ローサぢゃん護衛任務中は呑んじゃダメでじょ」
ローサ「もぉ夜なのにぃ?!やだやだぁ!」
当たり前である、万が一護衛対象が襲撃を受けるとすれば人目に付かない暗い夜だろう、襲撃者にとっては都合がいい筈で夜中と言えどもその時に備えて然るべきなのだから。
ヴィンス「今夜は警備の厳しい迎賓館に泊まられるとの事で3人に任せてきたが、俺達も何か有れば直ぐに駆けつけるんだ!酔ってる場合じゃ無いだろう…」
ローサ「ムゥゥ…」
しかめっ面のローサを宥めながら3人は森を進んだ。
道の両脇は木々に覆われてはいたが上を見れば木々の間から星空が見え月明かりが差し込んでもいる、それに沿道には処々に灯りが備えられていて動くものが居れば判る程度の明るさは確保されていた。
ヴィンス(おいおい!こんな所で待ち伏せか?)
暫く平然と宿屋に向かって歩いていたヴィンスだったが何かの気配を察知し歩みを止める。
マントの女「ほぅ…私の気配を察知したか」
ヴィンス「何の用かは知らんが俺達はイリス王国の者と知って道を塞ぐのか?!」
前方の木陰からマントを頭から羽織った人影が道を塞いだ、薄暗くてそれが誰なのかは判らないが憎悪と殺気が抑えきれないでいる事は感じ取れる。
マントの女「その赤髪の女を渡せ…さすれば残りの者の命は保証してやろう…」
ヴィンス「…断わる」
マントの女は『フッ』と静かに笑うと抑えていた感情を露わにした、すると風は止み辺り一帯に
女の殺気はどんどんと膨れ上がり近くに居るだけで圧し潰される感覚を受けた。
ヴィンスはこの時点で『交戦』から『逃走』へと考えを切り替える。
パン「
ヴィンス「お前達は迎賓館へ!俺が時間を稼ぐ!」
マントの女「逃がすものか…3人共此処で…」
『パァァァンッ!』女の言葉を待たずにヴィンスは
『ドンッ!』
ヴィンス「ガハッ!」
一瞬の出来事だった、落雷跡に女は居らずヴィンスは大木へと蹴り飛ばされていた、この女はヴィンスのスピードを簡単に凌駕する能力の持ち主なのだ。
目の当たりにしたローサとパンはその桁違いの女に驚愕した。
※※※
クリス「…以上が明日の予定となります」
チャールズ「そうか…では皆下がって良いぞ、今日は疲れたであろう」
クリス「承知しました、我々は隣室に控えておりますのでいつでも…」
最高位の来賓用として設けてある部屋では晩餐会に疲れ果てた身体をソファに預けてチャールズは寛いでいた、クリスは部屋に異常がないかの最終チェックを終わり最後に全ての窓のカーテンをしめる。
『パァァァンッ!』
クリス「(…星空に落雷…)…ロイス殿!アイルトン!陛下を頼む…どうもネズミがいる様だ…」
クリスは騎士団長ロイスとクリス隊のアイルトンにチャールズを任せると窓越しにみえた落雷の方角へと足を進めた。
※※※
迎賓館の玄関前庭園にはベルハルドと護衛のアーノが居た、ベルハルドを寝所へ送ってからの消息が途絶えたとアーノからの報告に心配したベルハルドも共にオリビアを探しているのだ。
『パァァァンッ!』
突然の落雷の音にベルハルドとアーノは耳を塞ぎ頭を低くする、目のあった二人はお互いに苦笑いを浮かべながら落雷があったであろう森の方角を眺めると同時に一抹の不安を心中によぎらせるのだった。
※※※
マントの女「小賢しいね!このデカブツ!」
ヴィンスは左腕と右脚を負傷しポーションで回復を図るも戦闘復帰まではまだ時間が必要だった。
次いでローサを庇い盾となっているパンの両腕はアイアンモードになっているにも関わらず女の爪でズタズタに斬り裂かれていた。
マントの女「お前も其処で大人しくしてな!」
女は脚を高く振り上げるとパンの頭へ一気に踵を落とす、パンも態勢をずらしながら両腕を上げガードを試みるが女のパワーはガードを弾き肩へと振り落とされ『ゴギャッ!』と言う音と共にパンの左肩は粉々に打ち潰された。
マントの女「さぁ後はお前だけだ…永かった…苦しかった…只この一心で命を繋いできた…お前の血で全てを洗い流すとな!…消えて無くなれ!忌まわしい記憶と共に!」
マントの女は雄叫びを上げながらローサに跳びかかる、ローサも身構えはするがローズウッドを握る手にはもはや疲労と恐怖で力は無い。
ヴィンス「ローサァァッ!」
薄暗く静かな森にヴィンスの叫び声だけがこだました。
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