第4章 血族 第二話

 大陸の西海岸沿いにあるオラダニア共和国は近隣諸国のハブ港として西方諸国経済圏の中心国の役割を果たしていた、沿岸にある三日月型の半島全てが船着場となり日々大小100隻を越える交易船が行き交う。


水夫「おーい!港がみえる!オムス港だぞ!」

ローサ「えっ!あれがオムスの港?デカ〜い!」

ルシーナ王女「やっと到着ですわね!」


 マリチュードで王族専用の外洋船と護衛船2隻に乗り換えオラダニアの港街オムスまで20日を越える航海だった、長期の航海だった為に陸を恋しがっていた者達は喜び歓声をあげる。

 港へ降り立つとオラダニア外交官達がチャールズ国王とルシーナ王女を迎え迎賓館へと案内を始めそれに続く様に護衛群も大移動を始める。


アスル「ローサ乗り出したら危ないわよ!」

ローサ「隊長!すごい人集りですね!」

ヴィンス「オラダニアは共和制国家だからな、王族の行列が物珍しいんだろう…」


 港から迎賓館へ威風堂々と向かうその行列をひと目見ようと集まったオムスの民は『やはり大国イリス』と感嘆の声をあげる、その観衆と行列を宿屋の一室から見下ろす影が数名。


男A「あの黒髪の女で間違いないのか?」

男B「間違い有りません」

男A「チャールズめ!ムーアに毒されおって!」

男C「いきますか?!」

男A「あわてるな!時間はまだあるもう少し待て…」


 その黒尽くめの謎の集団は黒髪の女(アスル)をさげすむような目でみつめるのだった。

 

※※※


 翌日にはイリス王国を含む主要5カ国の代表者といくつかのオブザーバー国の代表が全て揃い迎賓館大広間にて歓迎晩餐会が催された。

 主催国であるオラダニア共和国ブルコニ首相が現れ代表者挨拶を済ますと優雅な曲が流れだし目当の貴人に歩み寄る者や様子を窺う者など様々に分かれた。


ブルコニ「イリス国王陛下ご無沙汰しております…」

チャールズ「久しいですな、いつぶりになりますかな……」

ブルコニ「陛下とは…4年前になりますか!」


 オラダニア共和国は議会制国家である、議員は8年に一度の国民参加の選挙で選ばれ首相は8年に一度議員の投票で選ばれる、4年前に外交大臣だったブルコニは2年前に首相に選ばれたのである。


チャールズ「外交大臣が次の首相になる呪いは健在のようですな」

ブルコニ「ハハハ!私は呪いなどには屈しませんぞ!」


 オラダニアは西側諸国経済圏の中心国で外交が命である、故に否が応でも外交関係者が首相に選ばれる可能性が高い。

 そしてこの国の首相ともなれば相当な激務職と言われている、歴代首相達はこぞって身体の不調や過労で退任せざる終えなくなり、それを持って『呪い』と冗談めかして言われる様になった。


ブルコニ「ところで陛下、先に紹介しておかねばならぬ御仁が居られまして…」

ベルハルド「ご無沙汰しております、コールス王国ベルハルド・アンダーソンです」

チャールズ「むっ!ベルハルド殿とな!これはこれは大きくなられた!」

ベルハルド「その節はお世話になりました、陛下にお会いするとあの頃を思い出します!」


  コールス王国は大陸の最北西にあり夏は短く冬の長い地域である、寒さ故に耕作には適して無いが大陸を横断するカザフ山脈の西端に位置するこの国は山脈からの鉱石という恵みとその加工技術で成り立っていた。

 20年前の魔族戦争の折、大陸北方の最前線であったコールス王国もまた街を大地を荒らされ存続も危ぶまれる状態であった。

 当時のコールス国王デリドラは自身は前線での指揮のため残り妻と子供達を親友でもあるチャールズのイリス王国へと疎開させていたのだ。


チャールズ「してデリドラ……御父上は?」

ベルハルド「はい、ここ数年体調を崩して…いまでは介添えなしでは…」

チャールズ「そうか…残念だが仕方あるまい、わしも同様よる年波にはな…ではこれよりはそなたが頑張らねばなるまい!」

ベルハルド「はい!至らぬ点も多々あると存じますが宜しく御指導下さい!」


 ベルハルドは社交辞令では無く父の友人であり疎開中の父親代わりであったチャールズには心の底から尊敬の念を抱いているのだった。


ルシーナ「ベルハルド陛下!御父様だけではなく私の御相手もよろしいかしら?」

ベルハルド「ルシーナ姫!」

 

 二人はベルハルドのイリスでの疎開中に寝食を共にした言わば幼馴染の様なものであった、ルシーナは幼い頃から活発でベルハルドにイタズラ三昧、ベルハルドは虚弱体質もあり反対に大人しくいつもルシーナの尻にしかれていた。


ベルハルド「姫は相変わらずの御様子で!」

ルシーナ「姫はやめてよ!そんな齢ではなくなったわ…でもベルは立派な御仁になられた様で!」

ベルハルド「そうそう姫!あの時の我等の野望に一歩近付きましたよ!紹介します…」


 そう言うとベルハルドは付き従っていた護衛の騎士を手招いた。


ベルハルド「我が王国の近衛団長を任せてます『オリビア・キャンベル』です」

オリビア「お初にお目にかかりますキャンベルと申します、以後お見知りおきを…」

ルシーナ「ベル!まさか?」

ベルハルド「そのまさかです!訳あって今の地位におさまってもらってますが、いずれはあの野望の一端を担ってもらう約束をしております」

ルシーナ「そうなのね!今は此処に居ないけど我が王国にもキャンベルさんと同じ様に私達の野望を手助けしてくれそうな人材がいるのよ!またの機会に紹介させて頂くわね!」

オリビア「…それは楽しみです…」


 オリビア・キャンベルは静かに微笑むと差し出されたルシーナの手を握る、歓迎の晩餐会は滞りなく進行し各国の要人達はオムス特有の海産物料理や美酒に舌鼓を打つのだった。


※※※


 カザフ山脈北側旧魔族領には草木も育たない不毛地帯がある、その領域に人族は足を踏み入れられず魔族のみが生息する地がある、その領域の一画に未だ魔族のみの繁栄を模索する一団があった。


ライオネル「……なるほど、だが貴方の言うようにそう上手くいきますかな…」

ベクター「御安心なされよ!貴方の力と私の技術があれば恐れる事など何も無い!」

ライオネル「……良いだろう貴様の口車に乗ってやる、今回こそあの忌まわしきバンパイア共を根絶やしにしてくれようぞ!」


 光の者に闇の者、聖と邪、魔族に人族。

 各々の思惑が入り交じる中、華やかに煌めくオムスの夜は更けてゆくのであった。






 


 

 


 

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