第3章 ふたりのTURNING POINT 第九話

アスル「キャアァァァ!ヴィンスッ!」


 叫び声はその場にいる全員の注目を集める、叫ぶアスルにヴィンスが覆い被さり耳元で囁く。


ヴィンス「…どは……まもれ…だろ……」

ベクター「アルホース…貴様…本気で死にかけたぞ!」

アルホース「いや普通死ぬだろ……」


 其処に居るのはベクターに間違いは無かった、たがその姿はと言ったところかブクブクと膨れては徐々に形を変えていく。

 

ラヴ「何やってんだゴラァ!」

「ドォンッ!」


 ベクターは飛び込んできたラヴの鉄拳で観客席まで弾き飛ばされた。


アスル「ヴィンスしっかりして!」

ラヴ「アスル動かしちゃダメ!首をやられたのよ」

アスル「アタシを庇って!バカ!アンタ…ダメ!」


 ピクリとも動かない手脚、ダラリと横になり咳込むでも無くただ口元から真っ赤な血がダラダラと流れ落ちる。


アスル「ラヴさん!アルホースさん!助けてお願い!」


 ラヴは苦々しい表情で黙っている、このチームにはヒーラーが居ないのだ。

 アルホースは目を閉じ何かを思い悩む表情をしていた。


アスル「お願い!何でもするからヴィンスを助けてお願い!」


 アスルには珍しい位いに取り乱し藁をも掴む思いで二人の手を握る。


アルホース「……俺のヘマでもあるか…嬢ちゃん…なんでもするんだな…」

アスル「何でもするから!」

アルホース「…分かった、此れは貸しだ!飲ませてやりな!」


 アルホースは小瓶をひとつアスルに手渡した、その小瓶の中にはゴールドに輝く液体が入っている『エリクサー』だった。

 この世界でもエリクサーはあらゆる怪我や病気に効果を発揮してくれる希少な魔法薬である、但しその効果は決して完全とは言えない。


アスル「ヴィンスこれで助かるのよ!飲んでお願い!」


 アスルが小瓶をヴィンスの口元へと運ぶが反応は無い、呼吸をしていない訳では無いが浅く細く今にも消え入りそうなくらいに…。


アスル「だめ!アンタをギッタンギッタンにするのはアタシだって言ったでしょ!」


 アスルはエリクサーを一気に口に含み口移しでヴィンスの喉へと流し込んだ。


「…ゴク……」


 ヴィンスの喉が少し動くと僅かに飲み込む音がした、暫くするとヴィンスの呼吸音が徐々に太く大きくなってきた。


アルホース「これで大丈夫だな!アスル嬢ちゃん兄貴の事は頼んだぜ、俺達はベクターを殺る」


 アルホースとラヴが親指を立てたあとベクターへと突進して行った、遅れてローサやレディと残りの者達もアスルの脇を一斉に駆け抜けていった。

 観客席にあったベクターの身体はどんどんと大きくなり2階建ての民家位の大きさ迄膨らむとドラゴンの姿へと形を整えだした。


ベクター「お待たせしたな諸君!私が人生を賭けた研究結果を披露しよう!」


 ベクターは語った。

 ベクターの研究で魔物の核と魔石を融合し召喚する技法では知性の乏しい魔物の劣化版しか産み出せなかった。

 其処で並行して研究したのがキメラ製造である、知性の高い種族と知性には乏しいが戦闘力の高い種族を結合させる。

 しかしキメラ製造には難点がありひとつは戦闘力の高い種族を用意する事たが此方は魔石召喚でどうにでもなる。

 此処での問題はキメラ化した時に余りに違い過ぎる種族間同士は細胞レベルで反発し合う事と知性の高い種族の自我が強力な相手の魔力量に圧倒され精神崩壊してしまうと言う事だった。

 ベクターは幾百幾千という実験を重ねある結果に辿り着いた、相手に圧倒されない魔力量の持ち主で尚且つ混血種ならば細胞レベルの反発もクリア出来ると。


ラヴ「それでメアリーやアスルを拉致したわけね!」

ベクター「クククッそして私は奇跡的に入手する事ができたのだよ!『アンフィスバエナ』の核をね!」


 アンフィスバエナ・この世界ではドラゴンの上半身と尻尾の先に頭を持ち口から猛毒を噴射すると言われている、但し20年前の魔族戦争時に一度だけ目撃された希少な魔物である。


 ベクターは全身どす黒く上半身はドラゴン下半身には長い尻尾と其の先にもう一つの頭を持つアンフィスバエナに変化していた。


アルホース「それはそうとベクターお前良いのかよ?お前の頭…尻尾の方だぜ…」

ローサ「尻尾の先に人面があるって…なんかキモい…」

ベクター「だまらっしゃい!どっちの頭も私が支配しているから良いのだよ!」


 上半身の竜頭が口を大きく開き深緑色の液体を噴き出した。


ベクター「鉄をも溶かす猛毒、とくと味わうが良い!」

アルホース「喰らうかよ!『居合』!」


 噴射された毒液を躱しつつアルホースの渾身の一撃がアンフィスバエナの首を切り落と……せなかった!


アルホース「なんだぁ?」

ベクター「クククッ残念だなアルホース!今の私に物理攻撃は通用しない!」


 よく観るとアンフィスバエナの全身が粘着性の液体に覆われていた。


アルホース「な!太刀が溶かされている!」

ベクター「体を覆う粘液は攻撃を防ぐと同時にその武器を溶かしてくれる!合理主義な私にピッタリだろう!クハハハッ!」


※※※


 アンフィスバエナとキメラ化したベクター!

 エリクサーを飲んだとはいえ瀕死の状態のヴィンス!

 混合チームはベクターを倒す事が出来るのだろうか?!

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