第3章 ふたりのTURNING POINT 第八話

アルホース「不味い!」

ベクター「さらばだ諸君!」


 ベクターは左手から順に転移紋の先へと消えて行こうとしていた……。


ヴィンス・ローサ「アスル!!」


 ヴィンスとローサがアスルを取り戻す為に能力一杯のスピードで迫るが届きそうに無い、このまま転移されてはアスルの居場所どころか生死さえも判らなくなるであろう。


アルホース『ロキシーッ!』

ロキシー『はい!空間操作!』


 ロキシーの能力(空間操作)は特別戦闘向きでも無ければ強大な威力を発揮するようなものでも無い、たがその能力で今まさに転移しようとしているベクターの転移紋の紋様が僅かに歪んでその効力を失わせると転移紋は静かに消えていった。


ベクター「ん!何故消える?何故転移しない?!」

アスル「離せっ!いやらしい!この変態オヤジ!」

ベクター「やかましいわ!私はお前のようなチッパイなどに興味…『ドゴッ!』」

アスル「死ね!」


 アスルの容赦無い会心の一撃をあの部分に喰らったベクターはうずくまり、男達の時間が少しの間止まった。


アルホース「今なら!(ポーズ!)」


 アルホースのスキル『ポーズ』は自分以外の全ての時を止める、時間にすればほんの数秒間だがアルホースが裏社会で最強と言われる理由のひとつである。


ベクター「ガハッ!」


 ポーズが切れた時にはベクターの後ろにアルホースが立ち右手に握られた太刀はベクターの心臓を背後から貫いていた。


アルホース「出来れば捕らえたかったが、しょうが無いでしょ!まだキマイラ退治が残ってるんだから」


 アルホースは死してなお掴んで離さないベクターの手を解きアスルを抱きかかえた。


アスル「ちょ…アンタ…ちょっと」

アルホース「なになに?僕ちゃん白馬の王子様みたいだって?」

アスル「そんな事言ってない!早くおろして!」

アルホース「アスル嬢ちゃんはつれないねぇ……ではキマイラ退治を済ませますか!」


 腕の中でジタバタするアスルをそっと降ろすとアルホースはキマイラの方へ突進して行った、アスルの側にはロキシーを背負ったパンが駆け寄りアスルが怪我などしてないかと心配そうにアタフタしていた。


ローサ「アルさんアスルを助けてくれてありがとう!」

アルホース「いいって事よ、それより次はローサ嬢ちゃんの番だぜ!俺の動きを観ときな刀とレイピアの違いはあれど参考にはなる筈だ!」


 アルホースの闘い方は一言で言えば美しかった、相手の攻撃を無理に受け留めないすんでのところで躱し往なし流れる様に刃先を相手の身体に走らせる、まるで舞踊の様であった。


ローサ「凄い!ダンスを楽しんでるみたい…」

アルホース「嬢ちゃんレイピアならこうだ!」


 流れる様な動きは殆ど変わらない、しかし今度は刺突のみで攻撃する。


ローサ「アル師匠!やってみます!」


 ローサも見様見真似で踊る!しかし動きがぎこちなくキマイラの攻撃を受けとめ弾かれる。


ラヴ「アンタ達!実戦なのよいい加減にしとかないとブッ殺すわよ!」

アルホース「おっとぉ…怒ったラヴ姉さんは怖いねぇ」


 ラヴがアルホースとキマイラの間に割って入り渾身の一撃を放とうと構えた。

 その後ろでは先程まで流れる様な動きでキマイラを翻弄していたアルホースが急に立ち止まり鞘に戻した刀の柄にそっと手を重ねてユックリ息を吐く。


「バサッ!」


 次の瞬間には山羊の首は宙を舞い首から下げていた鍵を持つアルホースがキマイラの横でニヤニヤと笑っていた、アルホースは鍵をラヴの方へと投げると残ったライオンヘッドをからかいながら又流れるように踊り始めた。

 

ラヴ「アルホース・シュタイナー……」


 戦慄の走ったラヴであったが直に気持ちを持ち直しキマイラの隙を見てメアリーの居る檻へと駆け出した、檻を開けメアリーに括り付けてある布袋を開いて見ると時間が無い!ラヴは布袋を檻から持ち出しキマイラの方へと投げ捨てた。


ラヴ「皆離れて!爆発するわ!」

「ドオォォン!……ベチャベチャッ…ベチャ…」


 投げられた布袋は理由もわからず噛みついたライオンヘッドの口の中で爆発し腐った肉片が飛び散っていた、遺された胴体は倒れ自由のきかない尻尾の蛇はヒールで風穴を開けられていた。


※※※


 パンとビレイがメアリーの拘束を解いていた、キマイラの胴体の上でアルホースとローサがおちゃらけてポーズをとりラヴが『自分の手柄だ』と下から怒鳴っていた。


アスル(また足を引っ張ってしまった……)


 しのぎを削る裏社会で通用する様な体術を身に着けるなど一朝一夕で出来ないことはアスルも理解している、ただ心の底から悔しかったのだ。


ヴィンス「アスル大丈夫か?さっきは守ってやれなくてすまない…」


 ヴィンスはひとりで呆然とするアスルを気遣い手を差し伸べた。


アスル「な、何いってんの大丈夫よ!アンタに心配され…」

ヴィンス「危ない!」

「ゴキッ!」


 アスルの身体を覆い被さるようにして庇ったヴィンスがアスルの背中に力なく崩れ落ちた、その首にはトカゲのような鱗の指から鋭く先の尖った黒い爪が鈍く光っている。


アスル「キャアァァァ!」


 叫び声はその場にいる全員の注目を集める、叫ぶアスルにヴィンスが覆い被さりその後ろに……。



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