第3章 ふたりのTURNING POINT 第七話
混合チームは闘技場の観覧席で周りを囲むように配置についた、日没から時間も経って空には月と星が輝いている。
四半刻程待つと軋むような音をたてながら入場ゲートが開き鎧姿のスケルトンの群れが場内へとなだれ込んできた。
スケルトン達の配置が終わったのか動きが止まるとゲートから新たな魔物が姿を現した。
四つ脚でライオンと山羊の頭部を持ち尻尾は蛇!キマイラの登場である、しかし普通のキマイラでは無い肉体が腐っているゾンビキマイラだった。
アルホース『ベクターの奴、キメラの製造に成功したのか…』
現在巷で悪用されている魔石からの魔物召喚の技術(正確には一度死んだ魔物の核と魔石を利用して蘇らせる)はムーア帝国時代にベクターが確立した技法である。
その魔物召喚と並行してベクターが秘密裏に研究していたのがキメラ製造だった、しかしそれを知ったムーア帝国アレク皇帝はそれを許さずベクター逮捕を命ずるが行方をくらませた。
その後ベクターはこのセントルアに流れ着き人族によるキメラ製造を成し遂げたのである。
ゾンビキマイラの後ろにはメアリーが容れられた大きな鉄の檻を神輿のように4体の腐ったオーガが担ぎスケルトン達の中をユックリと闘技場中央へと歩を進めた。
ベクター「ムーア帝国並びにイリス王国の暗部の皆さんお待たせいたしました!」
姿はなくベクターの声だけがこだまする。
ベクター「闘技場中央の檻に君等の仲間は閉じ込められている、お察しの通り君等はオーガとスケルトンの群れを排除しキマイラが首から下げている鍵を奪って救出するゲームだ!」
キマイラの山羊首からチェーンで鍵がぶら下がりライオンヘッドがチロチロと舐めている。
ベクター「しかし此れではスリルもへったくれも無いだろ?だから制限時間を設けた15分以内に救出したまえ!出来なければ彼女は挽き肉となって檻から飛び出ることとなるだろう!クハハハッ」
檻の中で拘束されているメアリーの背中の辺りに布で包まれた何かが縛り付けてあるのがみえた、話から察するに恐らくは爆発する仕掛けなのだろう。
ベクター「諸君、準備は良いかな?それではゲームスタートだ!」
混合チームは掛け声と同時に四方から突入した、場内にいるスケルトン達が武器を構え戦闘態勢に入いる、場内は乱戦となった。
ヴィンス『アスルお前に近接戦は無理だ!観覧席からの狙撃と
アルホース『レディお前もアンデッド相手では…』
レディ『馬鹿言ってんじゃないよぉ!毒が効かなければヒールで眉間に風穴開けてやるさぁ』
ラヴ『しかし数が多すぎる!』
レディの毒対策としてベクターはアンデッド系の魔物を用意していた、これで複数体攻撃が可能なのはヴィンスの雷撃だけである。
混合チームは地道にスケルトンを一体ずつ処理する他無かったが流石は両国を代表するチームである30体いたスケルトンがみるみる数を減らしてゆく。
ラヴ「おらおら!骨はあと僅かもう一押しよ!」
バット「これしきの戦力で!俺達をみくびり過ぎじゃないですかってんだ!わっ!」
油断したのかバットの背後にはオーガゾンビがバトルアックスを構えて仁王立ちしていた、眉間にアスルのライフルで風穴を開けた状態で。
バット『お嬢ちゃん助かったよ!』
アスル『バットさん油断大敵ですよ!(でも
場内ではスケルトンが姿を消すと黙ってみていただけのキマイラが動き出した、残り時間は10分を切ったところだ。
アスルは観覧席の中段辺りから場内を牽制しつつ何処かでこの状況を観察しているであろうベクターを探すのだがその影すら見つける事が出来ないでいた。
アスル(此処からの攻撃じゃキマイラにダメージを与えられない、でも数の減った今なら場内に降りても……)
ベクター「ダメダメ!君が一人になるのを見計らっていたのだから、君だけは生かしておいてやろうとな!
」
不意に背後に現れたベクターがアスルの腕と首を押さえ込んだ。
ベクター「アーハッハッハ!急ぎたまえ残り時間は10分を切ったぞ!」
アスル「はなせっこのっ!」
ヴィンス「?!…アスル!!」
ヴィンスが気付いた先にはアスルを拘束したベクターが笑いを堪えきれない様子で場内を見下ろしていた。
ベクター「貴様らは其処でキマイラと遊んでおけ!私はこの娘さえ頂ければ此処に用は無いのでな、こんな処で最上級の素材に出会すとはホトホト私は運が良い!」
ベクターはメアリーを監禁していた牢獄の前でアスルをひと目見て気付いていた『この娘の魔力量は尋常ではない』と、ベクターは左手で宙に転移紋を発動する。
アルホース「不味い!」
ベクター「さらばだ諸君!」
ベクターは左手から順に転移紋の先へと消えて行こうとしていた……。
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