第3章 ふたりのTURNING POINT 第二話

 セントルア王国へは交易都市マリチュードより船だと二日足らずで到着する、この国はイリス王国とムーア帝国の二大大国に挟まれた微妙な位置に在るが魔族との大戦後旧魔族領を起点に急速に勢力を拡大するムーア帝国といち早く不可侵条約を結び併呑・吸収される隣国達を尻目に唯一生き残った国である。

 セントルア王国唯一の港に到着するとそこは王都セリビアである、セントルアにある大きな都市はこのセリビアのみなので人口密度が高く街の景観もゴチャついた感が強い。


ローサ「お城は街のど真ん中にあるんですねぇ〜」

アスル「あの左に観える円形の建物は何ですか?」


 王城は街の真ん中に在り城を取り囲む様に街が拡がり城から西の方角に円形の巨大な石造りの建築物『コロッセオ』が目立っていた。


ヴィンス「先ずはメアリー隊が利用していたらしいアジトへ向かおう」


 アジトは港から数分の場所にあり表の路に面した側は大きな酒場になっており路地から裏側に周るとアジト専用の入口があった。

 

ヴィンス(見張りが居ない……)

ラヴ「中に気配もないわね」


 ラヴを先頭に警戒しながらアジトへと入ったがもぬけの殻だった。

 部屋の中央にあるテーブルにはこの街の大きな地図があり処々に印が打ってあった、おそらくは『ノーマン・ベクター』の潜伏先を捜した跡であろう。

 残った飲料水や散らばったゴミくずから最近まで人の出入りがあった事は推測できる。


ヴィンス(やはり連絡が途絶えた時に何かがあったのだな……)

ラヴ「物色してもこれ以上は何も分からなそうね」


 地図を回収したヴィンス達は此のアジトを閉鎖した、状況のわからないまま引き続き使用するのは危険と考えるのが基本だからだ。

 次の日から地図の印跡を軸としてメアリー隊の足取を捜索し二日が過ぎた。


ローサ「あ〜今日も疲れましたぁ〜」

アスル「そっちも空振りだったんだ……」


 その日の報告会を終え港の近くにある大きな酒場で夕食を摂ることにした、港の近くだけに客の多くは水夫で商人らしき者も数人確認された。


ラヴ「こういう処では耳がダンボな人だらけなんだから不用意な事言わないのよ」

ローサ「そぉそぉ!仕事は忘れて楽しく呑みましょう!」

金髪男「そぉそぉ!お嬢ちゃんわかってるねぇ!」


 二十代半ばにみえるその馴れ馴れしい金髪男は椅子に並んで腰掛けるアスルとローサの間から顔を突き出しその両手で二人の肩を抱いていた。

 

アスル「アンタ誰?!」


 アスルとローサだけでは無く対面のヴィンスを含め三人がその男にフォークを向けていた。


金髪男「ヒィィ!怖い怖い!」

ヴィンス「ならその腕をのけ?!」


 その時ヴィンスはローサの横に座るビレイの後にも怪しい人影がある事に気付いた。


金髪男「その女には気をつけたほうが良い、一度寝たらいっ!」


 急に金髪男が青い顔をして苦しみ始めた、長髪の女が何かのスキルを発動した様だ。


金髪男「嘘!ウソ!レディ冗談だ!」

長髪の女「余計な事は言うな!私は普通に話し掛けろと言ったはずだが……」


 ビレイの後にいた影は深い緑のロングヘアーに黒一色の衣装、そのあでやかさはどの国の色街に居てもひときわ目を奪われる程である。

 金髪男の顔色は次第に戻るが息を切らして何度か咳払いをしていた。


金髪男「俺は『アルホース』そっちの女は相棒の『レディ』だ!今日はヴィンスの兄貴に相談があって来たんだ」

アスル「うっさいわね!先ず手を離せって!」


 アスルはアルホースの頬に向けていたフォークを更に突き出していた。


ヴィンス「アスル辞めておけ……」

ヴィンス「アルホースにレディ……帝国暗部のエースが俺達に何の用だ?」


 『アルホース・シュタイナー』ムーア帝国皇帝の甥であり帝国暗部の絶対的エースと言われる男である。

 その相棒と言えば裏社会で『毒女どくじょ』の異名で知られ、この世に存在するあらゆる毒を自在に操るポイズンマスターである。


アルホース「兎に角落ち着いて話そうぜ!先ずは俺の可愛いホッペに押し付けられているフォークをしまってくれ」

アスル「…………」

アルホース「しかし赤毛のお嬢ちゃんの方は薔薇の香りかい?良い匂いだ〜」

「ガタガタガタガタ!」

アルホース「冗談!冗談だって!!」


 アルホースの発言にその場にいた全員がフォークを突き出したのは言うまでも無い。

 土下座で謝罪の言葉を唱え続けたアルホースは10分ほどで許されやっとの思いで本題を切り出せた。


アルホース「ヴィンスの兄貴!俺達と組まないか!」


 これまで何度も語ってきたように、イリス王国とムーア帝国は休戦中とはいえ敵国である。

 『その真意は?』アルホースの思わぬ発言にフリーズしてしまうヴィンス隊の面々であった。

 



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