第二話 復讐のチカイ
さっきの歓迎会のような明るい雰囲気は風のごとく消え去った。
何を言っているんだ?
狙いは俺たち?
悪魔ってまさかさっきの話に出てきてたやつか?
駄目だ、嫌な予感しかしない。
さっき絶対関わらないようにしようって思ってたのに!!
「ごめん、霧斗。私のせい。私があの鉄の棒なんかを触ったから。霧斗だけでも逃げて」
蓮がやっと喋りだしたと思ったら、連も何を言っているかわからない。
ついに蓮もパニックになったのか。
まともなのは俺だけかよ!確かに蓮があの鉄の棒に触った瞬間、妙に嫌な予感を感じた。けど、その嫌な予感はこれだったのか?
「何言ってるか分からないけど。一緒に逃げる以外の選択肢はない」
状況は分からない。でも一緒に逃げなければならないということだけは俺だって分かる。
「私は…」
ドォォォン!!!!
蓮が何かを言いかけた瞬間、すごい勢いで火の玉らしき物が、俺達がくつろいでいた店に飛んできた。
魔法か?
魔法なのか?
悪魔は魔法が使えるのか?
この世界では魔法が使えるのか!?
運良く俺達には当たらなかったが、店にはぽっかりと穴が開いて、そこから火が燃え広がっていっている。
こんなもん当たったら即死だ。
「取り合えず、この店はもうダメだ。外に出るぞ」
俺はうずくまる蓮を引っ張って外に飛び出した。
そして扉を開け、何とか外に出る。
だが、そこで見たのは”絶望”
頭に生えた角。
背中に生えた黒い羽。
赤く光った目。
鋭い爪。
とがった牙。
全身紫色のムキムキな怪物。
そんな化け物が大量にいて、街はパニック状態。
逃げる人で溢れかえっている。
だが化け物は容赦なく逃げ行く人たちを襲っている。
街もいろんなところが燃えていて、外はもう夜で真っ暗なのに、炎で明るくなっていた。
でも、決して希望の明るさじゃない。絶望の明るさだ。
「この音と、火の玉みたいなのは何なんだ!?あの化け物は何?あれが悪魔なのか!?何が起きているんだ!?」
いつもはクールで焦らない俺だが、とてつもなく焦っているのが目に見えて分かる。
「焦るのも無理はない。この状況で焦ってない人なんかいない。__悪魔たちが攻めてきたんだ…」
「さっきも白い人が言ってたが、悪魔って一体何なんだ?」
「悪魔は神の宿敵だ。この世界には数えきれないほどの悪魔たちが存在している。神も昔は悪魔と同じほどの人数がいたんだが、150年前の”あの大戦争”によって神たちは30人にまで減ってしまったんだ」
つまりこれって…かなりやばい状況。
異世界にやってきてすぐ戦争?
街で歓迎されたときは、豚とか牛とかの肉がないとか、神とか悪魔とかがいるとか、訳が分からない世界だけど少しはやっていけそうだと思ったのに…今は絶望しか見えない。
急に異世界にやってきたら俺たちの命が狙われる?
もうマジで意味わかんねーよ。
「ここは私に任せて、この2人を逃がすのよ」
そう言って俺達の前に現れたのは、先ほどの神。
「しかしそうはおっしゃっても、あなた様がやられてしまったら、この国は滅びたも同然」
神は悪魔の襲来を知らせた門番と会話を始めた。
「神様一人と悪魔1体だったら圧倒的に神様が勝ちますが、下級悪魔500体、最上級悪魔1体で苦戦する程度。それなのにこれだけの量は…。今数えられるだけでも下級悪魔が2500体と一般悪魔500体、最上級悪魔1体。さすがにあなたさまでも......」
「それでも今は戦わないといけません!騎士団たちが来るまで霧斗と蓮を逃がすのよ!__彼らはこの世界の希望」
会話を聞く限り、どうやら神は相当強いらしい。
それでもこの数は太刀打ち出来ない。
_____本当にこんなところで終わるのか?
ヒュー バコン!!!
音と同時に全身に激痛が走る。
今度は何だ???
俺は気付くと、さっきいた場所から数メートル離れた場所に寝ころんでいた。
恐らく、悪魔の攻撃で吹っ飛んだ。
早すぎて分からなかった。
ヤバい、急に痛みが……。
俺の後ろにいた蓮は大丈夫みたいだ。
だいぶ痛いが、神が盾になってくれて直撃だけは免れた。
「エクストラ魔法、ディヴァ・ウィンド!」
神が何かを唱え始める。
なんて言ってるかよく分からないが、悪魔のうち何体かが風のような斬撃で刻まれていく。
ただその斬撃を軽々と掻い潜って、こちらに近づいてくる姿が1体。
「お久しぶりです、ヴァーユ」
さっきの化け物…悪魔の中でも一際目立ったオーラ―を放っていた1体。
俺でも分かる。
あれはヤバい。
見ただけで足が震えてくる。
「私たちが手に入れたいのは、異世界人の命もそうですが、一番の目的はカーネリアンです。究極進化をして神々を滅ぼせるのなら寿命なんて関係ないですから」
さっきの神はヴァーユっていうらしい。
現実世界でちょっと聞いたことがある名前だ。
「ルシファー、お前らだけにはこれは渡せん。邪悪な奴め」
こっちはルシファーか。
この名前はかなり有名だから知ってる。
神というのは地球にいる神と同じなのか。
「これはこれは、態度が昔と随分違いますねぇ。じゃあ仕方ありません」
深く息を吸うと、ルシファーとやらは
「エクストラ魔法、コースト・ダークライト」
そう唱えた。
すると、空が一瞬ピカッと光り、次の瞬間赤色の雷光のようなものが俺たちめがけて落ちてきた。
「嘘…だろ⁉」
まさか俺達の方へくるとは思っていなかった。
いや、俺達というよりは、正確には蓮の方。
___完全に油断していた。
「しまった。蓮殿!逃げろー!!」
神が何か叫んでいる。
でももう手遅れだ。
間に合わない。
その雷は凄い激しい音を発しながら蓮の方に落ち、小規模な爆破が起こって、俺は再び吹き飛ばされた。
めちゃくちゃ痛いが、そんなの気にしていられない。
痛みを無視して、すぐさま蓮のところへと向かうが、蓮はすでにボロボロの挙句、酷い火傷を負っていて、目を開くのもやっとというところだった。
___なにもできなかった。
圧倒的力の差。
俺が夏休みを利用して帰ってきたのが間違っていたのだ。
「「蓮!!!!」」
「私…ここに来た時から分かってたの。死ぬ、、こと。なん、、となく、ね」
「何……言って…」
俺の頭はもはや何も考える事が出来なかった。
「…あーこれ…ヤバい…かも」
蓮は目を細めた。
蓮は無理矢理笑顔を作っているが、もう限界が近いのがわかる。
でもそれだけは絶対に信じたくない。
絶対に。
「私、が、秘密基地に連れて行ったから…霧斗まで巻き込まれて。ごめん…ね。多分…悪魔に復讐なんか…考えないでって言ったって、霧斗のことだから聞かないんでしょ。それでもいいんだ。霧斗は強いから、死なないって分かってるから、信じてるから。今まで、短い人生一緒にいてくれて本当にありがとう……」
その言葉を最後に蓮の目から光が消えた。
俺はその時悲しみより怒りしかなかった。
なんで蓮が…俺が代わりに死んだって良かったのに…なんで蓮が…。
「定員は一人。蓮殿には悪いが…固有魔法、スレイン」
シュインッ
俺はまた違う場所に転移させられたみたいだ。
きっと神様が俺だけは、と逃がしてくれたのだ。
今すぐ悪魔を倒したいところだけど、俺と悪魔の力の差は歴然。
俺が死んだら意味がない。今はひたすら……泣いた____。そして誓った。
「強くなって復讐する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます