第一章 復讐のチカイ編
第一話 まさかの異世界転移
あたり一面の大草原。
見たこともない美しい花。
とてつもなくでかい鳥?みたいなの。
もう色々あってよくわからない。
ここはどこだ?
___もしかして誘拐?
いや、多分違う。犯人も見当たらないし、草原に放置するわけないし。
あらゆる可能性を考えていると、一つの可能性が頭の中を過る。
___異世界転移?
たとえ、異世界じゃなくても俺たちが秘密基地からどこかに転移したのは確かだろう。
信じられないけど……
じゃなきゃ、目を覚ましてこんな大草原が広がってるわけない。
いくら田舎に来たからと言っても、建物一つもないような大草原に来た覚えはない。
「ここどこ?」
俺の横で倒れていた蓮がむくっと起きてきて言った。
蓮は周りをきょろきょろしながら、俺のほうを向いて不安そうな顔をした。
俺は元々幽霊とか神とかアニメとかに出てくる超能力とかは信じたことがなかった。
でもこれは、さすがに信じないといけないだろう。
「これってもしかして異世界転移ってやつ?」
異世界___。
それは言葉通りの俺達が住む世界とは異なる世界。
よく、変なとこに転移や転生した人を良く見る。だがそれは、あくまでも小説やアニメ、漫画、妄想の中でだ……リアルに転移したなんて、誰が信じようものか。
でも俺達がいた基地も見当たらないし、見た感じ日本じゃない。
取り合えずここが本当に異世界なのか確かめるには、誰かに話を聞いてみたり、探検する必要がありそうだ。
「蓮、こんなところで蹲っていても仕方ない。頭痛も治まってきたし、しばらく歩くがいいか?」
「__霧斗は怖くないの?さっきまで秘密基地にいたのに急にこんな場所にきて…これからどうすれば良いの?」
「俺だって怖い....全然、気持ちが追いついていない。でもなにかしなきゃ何も始まらないだろ?」
俺がそう言うと、蓮は覚悟を決めたのか、恐る恐るだが立ち上がった。
そして俺達は、まだ覚束無い足取りで歩き始めた。
蓮は俺の服の裾を掴んで、ゆっくりとだが付いてきてくれている。
◇◆◇
もう何分か歩いたが、草原が広がっているだけで生き物すら見当たらない。
この草原に終わりなんてないのか?
「全くどうなってんだよ、ここは」
俺は半分切れ気味で草原に文句を吐きかけていると、蓮が
「ねえ、あれ見て」
と言ってきた。
俺は言われるがまま、蓮が指さす方に目を向けると、草原の真ん中に建物が並ぶ”街”が俺の視界に映ってきた。
遠すぎてぼんやりとしか見えないけど、あれは確かに街だ。
「あれは....街か!?蓮、行くぞ!」
「うん」
俺達は街を目指して、さっきまで忌々しいと思っていた草原を、気持ち良く駆け抜けた。
___少し希望が見えてきた。
気付くと俺達は、石の防護壁に囲まれた街の門の前まで来ていた。
街の造りは日本とは全く違うな。ゲームとかによく出てきそうな街だ。
門前には、片手に槍、全身に鎧の如何にも門番って感じの人が二人突っ立っている。
見た感じ俺達の世界の顔だ。化け物だったらどうしようかと思っていたけど、普通の顔で安心した。
一刻でも早く、状況を探りに街に入りたいところだが、簡単に入れてくれそうな気配はないな。
ちょっと近づいてみるか。
「連、ちょっと話してくる」
「でも危ないんじゃ....」
「大丈夫」
そう言って俺は話しかけに行った。すると....
「お前ら、何者だ!」
右にいた門番が威嚇するように言ってきた。
話すのは日本語のようだ。もし外国語だったらどうしようかと思ったけど、初対面の人に向かってその言い方はないだろ。全く、最近の若者は....。
「俺らはここでいう異世界から来たんだ。この世界についての状況を把握したいから色々教えてくれないか?」
本当に異世界転移したという確証はないが、ちんたら話を聞いてくれる連中でもなさそうだ。
「何!?何だって!!異世界から来ただと!!!!」
ビ、ビックリしたぁ。急にでかい声出すなよ。耳にも心臓にも悪い。
「まさか本当に異世界人が存在しているとは……確かにこの服装は我々が住んでいる世界の服装とはかなり違うな。念のため異世界人かどうかの検査をさせてもらうが、もしも異世界人の場合…」
「異世界人の場合?」
「歓迎会だー!」
良かった。
てっきり、異世界人の場合は殺されたり、監禁されたりするのかと思った。
でも、やはりここは異世界のようだ。
◇◆◇
無事に検査が終わり、俺たちが異世界人だということが判明した。
そして、880億年ぶりの異世界人として、国を挙げて歓迎された。
880億年前はまだ地球が誕生してないのでは?
どうやら俺たちが住んでいた世界の1年はこっちの世界の1億年だそうだ。
歓迎会はとても盛り上がった。
しかし、蓮はさっきからずっとうつむいたまま喋らない。
きっとまだ気持ちの整理ができてないのだろう。
俺たちは、この世界の住民たちと一緒に飯を食ったり、歌ったり、踊ったり……いろいろなことをして大体4時間ぐらい?が経過した。
日本の文化を知らないから、話がかみ合わなくて困ることもあったけど、意外と楽しくて不安とかもうどうでもよくなりかけていた。連も徐々に気持ちの整理ができてきたのか、周りの異世界人と打ち解けるようになってきた。
「それにしてもこの世界の肉は美味いな。一体なんの肉を使ってるんだ?鶏か?それとも豚か?」
「鶏と豚....それはあなたたちの世界の料理のことですか?この世界にはそんな生き物は存在していません。料理は主に、スナイノシシの肉を使っています」
何?この世界には鶏や豚が存在してないだと!?そしたら俺はこの先、牛タンが食えないのか…。
だが、俺はそんな悲しみよりも今食べている生き物の方に驚いた。
この世界では化け物の肉を食うのか?
だとしたらここにあるサラダも、ラーメンみたいなのももしかしたら……。
そう思うと自然に体がこの食べ物をたべることを拒絶してしまいそうになるが、美味しければ何でもいいか、と結局完食してしまう。
「まあ、別に美味しければ良いじゃん」
よく連は化け物の肉を食べれるな。尊敬してしまう。
「ここは異世界…なんだよな?俺たち来たばっかでよく分かんないんだが…」
すると白い服を着て王冠を被った背丈の高い女性の人が答えた。
「この世界は、30の神々と人間が共存する世界。30の国があって一つの国につき一人の神がいる。その国の中でも、この国は一番大きい。私はその30の神の一人」
神と人間が共存する異世界かぁ。あまり聞いたことないな。
___っていうかこの人、神なのか⁉
「この世界にはあと29の神がいる。現時点では…。昔はもっといた。でもあいつら、悪魔のせいで…。あなたたち、名前は?」
よく分かんないけど、この世界でも戦争とか争いはあるんだな。でも地球とは違って、神と悪魔が実在しているなんて…やっぱり異世界にはそういう奴がいるのか。
まあ、悪魔とやらとは絶対に関わらないようにしておこ。
「俺の名前は津狩霧斗だ。こっちは雨宮蓮で…」
バタンッ
「大変だ―っ!」
自己紹介をしている最中、急にさっきのがたいの良い門番が勢いよく扉を開けて入ってきた。
だいぶ焦っているみたいだが、何かあったのだろうか。
「悪魔の襲来だーっ!狙いは、おそらく異世界人の霧斗殿と蓮殿」
「___は?」
さっきの歓迎会のような明るい雰囲気は風のごとく消え去った。
何を言っているんだ?
狙いは俺たち?
悪魔ってまさかさっきの話に出てきてたやつか?
駄目だ、嫌な予感しかしない。
さっき絶対関わらないようにしようって思ってたのに!!
「ごめん、霧斗。私のせい。私があの鉄の棒なんかを触ったから。霧斗だけでも逃げて」
蓮がやっと喋りだしたと思ったら、連も何を言っているかわからない。
ついに蓮もパニックになったのか。
まともなのは俺だけかよ!確かに蓮があの鉄の棒に触った瞬間、妙に嫌な予感を感じた。けど、その嫌な予感はこれだったのか?
「何言ってるか分からないけど。一緒に逃げる以外の選択肢はない」
状況は分からない。でも一緒に逃げなければならないということだけは俺だって分かる。
「私は…」
ドォォォン!!!!
蓮が何かを言いかけた瞬間、すごい勢いで火の玉らしき物が、俺達がくつろいでいた店に飛んできた。
魔法か?
魔法なのか?
悪魔は魔法が使えるのか?
この世界では魔法が使えるのか!?
運良く俺達には当たらなかったが、店にはぽっかりと穴が開いて、そこから火が燃え広がっていっている。
こんなもん当たったら即死だ。
「取り合えず、この店はもうダメだ。外に出るぞ」
俺はうずくまる蓮を引っ張って外に飛び出した。
そして扉を開け、何とか外に出る。
だが、そこで見たのは”絶望”
頭に生えた角。
背中に生えた黒い羽。
赤く光った目。
鋭い爪。
とがった牙。
全身紫色のムキムキな怪物。
そんな化け物が大量にいて、街はパニック状態。
逃げる人で溢れかえっている。
だが化け物は容赦なく逃げ行く人たちを襲っている。
街もいろんなところが燃えていて、外はもう夜で真っ暗なのに、炎で明るくなっていた。
でも、決して希望の明るさじゃない。絶望の明るさだ。
「この音と、火の玉みたいなのは何なんだ!?あの化け物は何?あれが悪魔なのか!?何が起きているんだ!?」
いつもはクールで焦らない俺だが、とてつもなく焦っているのが目に見えて分かる。
「焦るのも無理はない。この状況で焦ってない人なんかいない。__悪魔たちが攻めてきたんだ…」
「さっきも白い人が言ってたが、悪魔って一体何なんだ?」
「悪魔は神の宿敵だ。この世界には数えきれないほどの悪魔たちが存在している。神も昔は悪魔と同じほどの人数がいたんだが、150年前の”あの大戦争”によって神たちは30人にまで減ってしまったんだ」
つまりこれって…かなりやばい状況。
異世界にやってきてすぐ戦争?
街で歓迎されたときは、豚とか牛とかの肉がないとか、神とか悪魔とかがいるとか、訳が分からない世界だけど少しはやっていけそうだと思ったのに…今は絶望しか見えない。
急に異世界にやってきたら俺たちの命が狙われる?
もうマジで意味わかんねーよ。
「ここは私に任せて、この2人を逃がすのよ」
そう言って俺達の前に現れたのは、先ほどの神。
「しかしそうはおっしゃっても、あなた様がやられてしまったら、この国は滅びたも同然」
神は悪魔の襲来を知らせた門番と会話を始めた。
「神様一人と悪魔1体だったら圧倒的に神様が勝ちますが、下級悪魔500体、最上級悪魔1体で苦戦する程度。それなのにこれだけの量は…。今数えられるだけでも下級悪魔が2500体と一般悪魔500体、最上級悪魔1体。さすがにあなたさまでも......」
「それでも今は戦わないといけません!騎士団たちが来るまで霧斗と蓮を逃がすのよ!__彼らはこの世界の希望」
会話を聞く限り、どうやら神は相当強いらしい。
それでもこの数は太刀打ち出来ない。
_____本当にこんなところで終わるのか?
ヒュー バコン!!!
音と同時に全身に激痛が走る。
今度は何だ???
俺は気付くと、さっきいた場所から数メートル離れた場所に寝ころんでいた。
恐らく、悪魔の攻撃で吹っ飛んだ。
早すぎて分からなかった。
ヤバい、急に痛みが……。
俺の後ろにいた蓮は大丈夫みたいだ。
だいぶ痛いが、神が盾になってくれて直撃だけは免れた。
「エクストラ魔法、ディヴァ・ウィンド!」
神が何かを唱え始める。
なんて言ってるかよく分からないが、悪魔のうち何体かが風のような斬撃で刻まれていく。
ただその斬撃を軽々と掻い潜って、こちらに近づいてくる姿が1体。
「お久しぶりです、ヴァーユ」
さっきの化け物…悪魔の中でも一際目立ったオーラ―を放っていた1体。
俺でも分かる。
あれはヤバい。
見ただけで足が震えてくる。
「私たちが手に入れたいのは、異世界人の命もそうですが、一番の目的はカーネリアンです。究極進化をして神々を滅ぼせるのなら寿命なんて関係ないですから」
さっきの神はヴァーユっていうらしい。
現実世界でちょっと聞いたことがある名前だ。
「ルシファー、お前らだけにはこれは渡せん。邪悪な奴め」
こっちはルシファーか。
この名前はかなり有名だから知ってる。
神というのは地球にいる神と同じなのか。
「これはこれは、態度が昔と随分違いますねぇ。じゃあ仕方ありません」
深く息を吸うと、ルシファーとやらは
「エクストラ魔法、コースト・ダークライト」
そう唱えた。
すると、空が一瞬ピカッと光り、次の瞬間赤色の雷光のようなものが俺たちめがけて落ちてきた。
「嘘…だろ⁉」
まさか俺達の方へくるとは思っていなかった。
いや、俺達というよりは、正確には蓮の方。
___完全に油断していた。
「しまった。蓮殿!逃げろー!!」
神が何か叫んでいる。
でももう手遅れだ。
間に合わない。
その雷は凄い激しい音を発しながら蓮の方に落ち、小規模な爆破が起こって、俺は再び吹き飛ばされた。
めちゃくちゃ痛いが、そんなの気にしていられない。
痛みを無視して、すぐさま蓮のところへと向かうが、蓮はすでにボロボロの挙句、酷い火傷を負っていて、目を開くのもやっとというところだった。
___なにもできなかった。
圧倒的力の差。
俺が夏休みを利用して帰ってきたのが間違っていたのだ。
「「蓮!!!!」」
「私…ここに来た時から分かってたの。死ぬ、、こと。なん、、となく、ね」
「何……言って…」
俺の頭はもはや何も考える事が出来なかった。
「…あーこれ…ヤバい…かも」
蓮は目を細めた。
蓮は無理矢理笑顔を作っているが、もう限界が近いのがわかる。
でもそれだけは絶対に信じたくない。
絶対に。
「私、が、秘密基地に連れて行ったから…霧斗まで巻き込まれて。ごめん…ね。多分…悪魔に復讐なんか…考えないでって言ったって、霧斗のことだから聞かないんでしょ。それでもいいんだ。霧斗は強いから、死なないって分かってるから、信じてるから。今まで、短い人生一緒にいてくれて本当にありがとう……」
その言葉を最後に蓮の目から光が消えた。
俺はその時悲しみより怒りしかなかった。
なんで蓮が…俺が代わりに死んだって良かったのに…なんで蓮が…。
「固有魔法 スレイン」
シュインッ
俺はまた違う場所に転移させられたみたいだ。
きっと神様が俺だけは、と逃がしてくれたのだ。
今すぐ悪魔を倒したいところだけど、俺と悪魔の力の差は歴然。
俺が死んだら意味がない。今はひたすら……泣いた____。そして誓った。
「強くなって復讐する」
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