異世界復讐グングニル
軌黒鍵々
序章
序章 秘密基地
今までにない悪夢。
いや、夢だったらまだましか……。
夢みたいな現実の話。
あの時、あの瞬間、俺は誓った。この奇妙な世界での復讐を______。
◆◇◆
「いや〜久しぶりだな、この景色」
俺は辺り一面に広がる田んぼを見渡しながらそう呟いた。
母親の転勤で上京してから一度も見れてなかった、この落ち着く景色。中学生以来だ。
都会の景色ばっかり見ていたから、この夏休みに帰ってきてよかったかもな。
「それにしても、連絡しといたはずなのに遅いなぁ。何やってんだ?あいつ……ってうわ!」
「久しぶり!霧斗きりと。えーっと、今は高校2年生だから、5年ぶりくらい?いやぁ、いつの間にか背が私より高くなっているなんて」
相変わらずの元気ぶりで、後ろから俺の肩を勢いよく叩いてきたのは、幼馴染の雨宮蓮あまみやれんだ。
「久しぶり。えっとー誰?」
「えーショック。忘れちゃったの?私だよ」
「冗談だよ冗談」
くだらない会話、蓮の満面の笑み。
懐かしさがふつふつと湧き上がってくる。
俺が都会に引っ越す事になった時、蓮は泣きながら私も一緒に行くと言っていたのを、今になって思い出す。
「都会での学校生活はどう?私も早くこんな田舎町から出て都会に行きたいよ」
「そうとも限らないぞ?俺は、ざわざわしてる都会よりも静かな田舎の方が好きだけどな?」
そんな他愛のない話をしていると、蓮が急に真剣そうな表情で、
「ねえ霧斗、久しぶりに私達の秘密基地に行かない?」
と、言ってきた。
秘密基地とは、小学校2年生の頃蓮と一緒に見つけた、誰も使ってない小さな小屋のことだ。
家と家の間の細い道を通って、草むらを抜け、今にも蛇が出そうなジャングルみたいなとこにある小さな小屋。そこが俺たちの秘密基地だ。
「今からか?ちょっと面倒くさいなぁ。あんな草むらに入ったら服が泥だらけになるって。それに久しぶりに帰って来たんだからちょっと休ませてくれよ」
そんな文句を垂れていると、いいからいいから、といって蓮は俺の手をぐいぐいと引っ張り、田んぼに囲まれている小道を走り出した。
「ねえ」
「ん?何だ?」
「霧斗ってさあ。学年で一番モテてるでしょ」
蓮は俺の手を引っ張ってしばらく走ると、急に速度を緩めてそんな話を切り出した。しかも、よりによって恋愛話。
「どこでその情報を?」
「さては自覚あるなぁ?さっき霧斗と会う前に、霧斗のお母さんと会ってね。こっそり聞いちゃったんだ。まあ霧斗はスタイルも容姿もモデルそのものだし、バスケ部で、学力も平均以上。そりゃあモテるよね。彼女とかいるの?」
まったく……お母さん何変な事言ってんだよ。
「いねえよ。あっ、それよりこの前の宿泊学習の土産で買ったこのキーホルダーいらない?」
話の雲行きが怪しくなってきたから、俺は逃げるようにポケットからキーホルダーを取り出して、蓮に差し出した。
「キーホルダーとか付けないから、いいや」
あっさり断られた。
俺は少しショックになりながらも、キーホルダーをポケットにしまい直す。
蓮もだいぶ大人になったなぁ。
俺はしみじみとした気分になりながら、蓮の話に再び耳を傾ける。
「霧斗のお母さんにはよくお世話になったけど、霧斗のお父さんにはあったことないんだよね。霧斗のお父さんってどんな人なの?やっぱり霧斗に似てるの?」
「俺が2歳の頃に離婚したらしいから、記憶に無いんだよね」
「そうなんだ…なんかごめん」
俺の父親……。
俺はふと母からの話を思い出す。
確か、だいぶ強くて、側に居てくれると心強い人だとか……でも自分や様々な事に無関心で、その事に呆れた母は迷わずハンコを押したのだとか。
「別に良いよ。俺だってそれっきり会ったことないから」
正直どうでもいい。
何故かは知らないが、蓮は興味津々に俺の事を聞いてくる。
だが、そうしている間に、すでに秘密基地の目の前まで来ていた。
昔は秘密基地まで遠く感じていたが、同じ距離でも今回は近く感じた。
それは、5年も経って足が速くなったり体力がついたりしたからだろうか。
それとも、久しぶりに蓮と会えて楽しくあっという間に感じただけなのだろうか。
「前と全く変わってねーな。草むらが生い茂ってるけど、5年ぶりで懐かしいな」
「そうね。私も、中学以来一回も来てないんだ」
そう言いながらも、さっそく蓮は古い引き戸をガタガタいわせながら両手で戸を開けていた。
秘密基地の中は、5年前より物が少なくなっていた。
だが雰囲気などはそのままだ。
こんな所に人でも来るのか?
「この小屋に誰か来たんだね。前はあんまり覚えてないけど、古そうな本やら、枝やらいっぱいあったのにすっかり綺麗になっている」
蓮はそういいながら中へずかずか入っていった。
「おい、ちょっと待てって。そんなにずかずか入っていったら危ないだろ。なんか虫とかいるかもだし……」
虫は苦手だし、5年も放置された小屋に入る気にはとてもなれない。
蓮は言う事をきいてくれなさそうだから、俺は入口から中へずかずか入っていく蓮の様子を見守っていた。
すると、蓮は急にしゃがみ込んで何かをじっと見つめ始めた。
そっと蓮の視線を辿ると、そこには1本の古びた鉄の棒が…。
俺も少し気になって、虫とか汚いのとか一瞬忘れて中の鉄の棒へ向かった。
「何だろうこれ?何か書いてあるよ」
そこには薄く見にくい字でこう書いてあった。
『キウンクエ アッビア イル タレント ディ トロヴァーレ クエスト バストーネ. イル ディアヴォロ エ ス トゥッテ レ フーリエ. ディフェンデーレ』
「何だろうこれ。誰かのイタズラかな?」
そういいながら、蓮は触れようとした。
「お、おい!触るな!」
俺は止めた。
理由は一つ。
シンプルに”嫌な予感がした”からだ。
だが、止めた時にはもう遅かった。連の人差し指と中指はすでに謎の鉄の棒に触れていた。その瞬間、あたり一面に光が差し込み眩しくなって酷い頭痛で俺達は倒れこんだ。
___気付けばそこは俺たちが住んでいた世界とは”別世界だった”
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