第11話 生徒会長様には恩義しか感じておりません
やけに静かな廊下は俺の足音だけが響いていた。
昼休み。昼食を食べ終えた生徒会室前の廊下には人の気配はない。
そりゃまぁ、昼休みに生徒会室に用のある生徒ってのは極端に少ないだろう。俺だって普段はこんなところなんかに来ないもんだから、生徒会室って名前を聞くだけで堅苦しい気分になっちまう。
コンコンコンと生徒会室の扉をノックすると、すぐに向こう側から扉が開かれた。
「や、世津」
出迎えてくれたのはショートボブの爽やか系美女。俺の従姉である加古川未来だ。
「悪いな、未来。昼休みに押しかけて来ちまって」
「こぉら」
ポンっと俺の頭に手を乗せてきやがる。
「ここ学校だよ。未来先輩、でしょ?」
「誰が先輩だよ」
「私は三年生。キミは二年生だよ。後輩くん」
「まごうことなき真実」
「ふふっ」
そんないつものやり取りを終えてから生徒会室へと入って行く。
生徒会室と聞くと、やたらと豪華な内装をイメージしちまう。だけど実際は、長椅子にパイプ椅子、壁側に本棚とホワイトボードがあるだけの狭い空間だ。
ま、歴史ある公立高校の生徒会室なんてこんなもんだろう。
おそらく未来がいつも座っているのであろうパイプ椅子に彼女が着席するので、俺は彼女の正面に腰を下ろした。
「珍しいね、世津が休み時間に生徒会室に来るなんて。メッセージが来た時はびっくりしちゃった。急ぎの用事?」
「急ぎかって聞かれるとなんとも……」
聞きたいことは、『日夏と仲が良いの?』ってことなので、いつでも良かったんだが、なんとなく今聞きたかったのでやって来た。
「もしかして、恋ばな?」
「うーむ……。恋の話とは違うな」
「なんだ」
つまらなそうに短く放ってくる。このタイミングで、「日夏と仲が良いのか?」と聞くと勘違いされそうなため、違う話題を出すことにしよう。
「未来は、『シンデレラ効果』を知っているか?」
「シンデレラ効果? 知ってるけど……世津ってオカルト話に興味あったっけ?」
「ちょっとだけな。精神科医を目指す未来の見解を聞きたくてさ」
「そのためにわざわざ昼休みに生徒会室まで来たの?」
「お、おう」
「ふーん……」
怪しいと言わんばかりにジト目で見つめられる。従姉といえど、この綺麗な顔に見つめられると思春期男子が爆発しちまうってもんだ。つい、目を逸らしてしまう。
「あ、目を逸らした」
「おいおい。俺はにらめっこしに来たんじゃないんだよ。未来の意見を聞きたいんだ」
「ほんとかなぁ」
ジーっと見つめてくるが、飽きたみたいで、「ま、いっか」と言って話しを始めてくれる。
「シンデレラ効果は私も気になって調べてみたことがあるよ。ネットじゃ、『魔法』とか、『サイコパスだけに起こる』なんて面白がって軽く書かれているみたいだね」
流石ネット。適当なことをぬかして、その場だけのネタにするのね。
「精神科医からすれば過剰なストレスからの思い込みって見解だね。忙しい時に起こる心の病が原因だって切り捨ててる」
「やっぱり、精神科医ならそんな現実じみた感じの意見になるよな。未来も同意見だろ?」
「私は……」
未来は一拍おいてから俺の言葉を否定した。
「この世の中は摩訶不思議なことで溢れている。だからシンデレラ効果も存在すると思うんだ」
「精神科医を目指す人とは思えない発言だな」
「大事なのはそれと向き合うことだよ」
迷いなき目の答え。この医者は信用できると思わせる雰囲気を感じる。
「未来は良い医者になるよ。きっと」
「どうも」
ピースサインで返されたところで、ガラガラと生徒会室の扉が開いた。
「失礼します。加古川先輩、鍵を返しに──」
聞き覚えのある女子生徒の声に振り返る。
「!?」
眼鏡をかけた女子生徒は俺と目が合うとピクリと肩を震わせた。
「し、失礼しました」
女子生徒は脱兎のように逃げ出した。
俺と未来は目を合わせてなにが起こったかの確認をする。
「日夏さんになにかしたの?」
「特になにも」
「いやいや。あの反応は明らかになにかある反応だったよ」
「未来がなにかしたんじゃないのか?」
「私がするはずないでしょ」
「わかんないぞ。生徒会長の権力を使って、あれやこれやをしたんじゃないのか」
「生徒会長にそんな権力あるはずないでしょ」
「それもそうだ。ところで、日夏が生徒会室にわざわざ顔を出しに来たってことは、仲良いの?」
ここにきて、自然とここへ来た真の目的を達成することができた。
「仲良しさんってわけじゃないかな。どうしても屋上の鍵を貸して欲しいって言うから仕方なく貸してあげているだけだよ」
「あ、なるほどね」
楓花が見ていたのは、屋上の鍵を拝借しているシーンだったんだな。
「でも、弱ったな。鍵を返してもらってないや。今日は放課後、すぐ帰らないと行けないのに、このままだと私が先生に怒られちゃう」
「生徒会長が怒られる姿って滑稽だな」
「そうだね。滑稽だね。誰か恩義を感じている後輩くんが鍵の回収に行ってくれないかなぁ」
「そう都合良く恩義を感じている後輩くんなんてもんは現れないだろ」
「じー」
彼女の瞳からは、「今日の晩御飯はピーマン祭りね」と言っているような気がした。
「あ、俺だわ。加古川未来生徒会長様には恩義しか感じておりませんでしたわ」
「じゃ、鍵の回収、頼んだよ」
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