第6話 調査の結果、なにも得られませんでした
さて。さっそくと楓花から聞いた、『シンデレラ効果』の掲示板をスマホで覗きに来たわけだが。うん。どれがどれだかわかんねぇや。
大体のタイトルが、『これ誰だっけ』なんて題名を付けられて、その人の特徴が好き勝手に書かれている。
だからこそ、本当にその人のことを指しているのかどうかもわからない。
よくもまぁ、こんな適当な掲示板に俺の名前があがったもんだ。いや、適当だからこそ、アマチュア選手の名前もあがるってもんなのか。
こんな、適当なネットの掲示板なんてなんの信憑性もないし、そもそも、出雲琴の事が書かれていたからなんだって話にもなるか。
しかし、今はこんな信憑性のない掲示板しか情報がない。
「うーん……」
「授業の調べものでもしてるのかな?」
ビクッと、背筋、ピーンとなってしまう。
ピカピカの小学一年生がランドセルを背負った時よりも姿勢が正しくなっちまったよ。
ギギギと錆びついたロボットみたいに顔を上げると、国語の田中先生が立っていた。
「黒板に書いてある文字でわからない漢字があった感じですかね」
「なるほど。四ツ木くんは黒板の字が読めるのですね」
パッと黒板を見ると、そこにはなにも書かれていなかった。こりゃ下手こいたね。
「四ツ木くん。授業中にスマホをいじりたくなる気持ちはわかるわよ。私もよぉく授業中にいじってたから。もちろん、私の時代はガラケーだけどね」
国語の田中先生が悟った感じで頷いてくれる。
「でも、授業中にスマホをいじると没収ってルールがあるから、ごめんね」
「生徒の気持ちがわかる田中先生なら、俺達高校生がスマホなしじゃ青春できないということも知ってますよね?」
「大丈夫。四ツ木くんならスマホなしでも青春できるわよ」
田中先生が周りを見渡した。
「そうだぞ、世津。スマホなんかなくてもよ、人生楽しいじゃねぇかよ」
「そうだよ、四ツ木くん。スマホなんてなくても私達なら大丈夫」
そうだ、そうだ。そう言ってくるクラスメイト達。その内の何人かが、こっそりとスマホをポケットに入れているのが見えた。
「このクラスは本当に青春ができているわね。先生、嬉しいわ」
「先生。俺には他人を出汁にして自分は逃げる、人間の闇みたいな部分が見えているのですが」
「そんなことないぞ!」
「そうだよ!」
「最高のクラスだね。はい、没収」
無情にも俺はスマホを没収されちまった。
♢
「いや、まじで最悪のクラスだわ」
ざわざわと騒がしい学食内。戦場とまではいかないが、混んでいるなぁという印象。
よくもまぁ、こんな古臭い中華屋みたいな場所に人が集まるよなぁとか思っちまう。ま、俺もその一人なんだけどね。
それにしたって今の時代に、長机に丸椅子ってのは古すぎやしませんかね。
他の高校なんてカフェみたいになってんぞ。とか文句をたれつつ、いつものやきとり丼を食べる。このシンプルかつジャンキーな食い物がこの上なく好きなんだよな。
「ま、スマホいじってた世津が悪いんだし、しゃーねーだろ」
「おいごら。スマホいじりながら言ってくんな、クソペイ」
「QRコード決済みたいに呼ぶなよー。悪かったって」
笑いながら、淳平はポッケにスマホをしまうと、ラーメンをすする。
「それにしても、世津が授業中にスマホをいじるなんて珍しいこともあったもんだな」
「まぁ、なんだ。ちょっと調べ物をな」
質問に答えると、ちょっとマジな顔をされちまう。
「セカンドオピニオンか?」
「今更だろ。もう二年も通ってる病院を変えたりしねぇよ」
「肩は良くならないのか?」
「変わらず」
「そうか」
淳平はしんみりとした声を出すと、ラーメンをすすり話題を大きく変えてくる。
「じゃあ、デートスポットを調べていたんだな」
「は? なんで、そんなもん調べるんだよ」
「隠すな、隠すな。秋葉とデートすんだろ?」
「お前の思考回路はどうなってんだよ」
「みなまで言わなくてもわかってるっての。いつものお前らのやり取りを見ていたら誰でもわかる」
「おい、勘違いするなよクソペイ」
「その出来損ないのQRコード決済みたいに呼ぶのはやめれ」
「楓花と俺はただの──」
幼馴染だと言おうとして止められる。
「わかってるっての」
淳平は聞き飽きたって感じで言ってくる。
「ご主人様と犬だろ?」
「いや、まじでお前の思考回路どうなってんだよ」
「予想の斜め上だろ?」
「斜め上だな。んで、どっちがどっち?」
「その日によってポジションが変わる系」
「楓花をご主人様と呼ぶ日が来るのかねぇ」
そんなことを言うと、「えぇ……」とドン引いた声が聞こえてくる。
「世津くんとあたしってそういう関係なの?」
ふと聞こえてきた声の主を見てみる、俺と淳平の前にはトレイを持った楓花が立っていた。
「お、今から昼か、犬」
「わん」
ノリの良い幼馴染様なこって。
「今日めっちゃ混んでてね、席がないんだよ。入れてよ、犬」
「わん」
こっちもノリノリで返事をすると淳平が大笑いをしていた。
「良いよね? 白露くん」
聞きながら既に淳平の隣に腰かけている。
「もちろん」
「ありがとう」
楓花が丁寧に、いただきますをすると、うどんを食べ出した。
「しかし、良いのか? 大好きな世津の隣じゃなくて」
ぶふっと楓花が吹き出して、びちゃっと俺の顔面に麺が付いた。すげー出汁の香りがする。
「ちょ、白露くん!? なにを言ってるのかな!?」
「いや、世津と秋葉って仲良いから、単純に俺の隣で良いものかと思ってな」
「ち、違うよ!」
「え? 俺と楓花って仲良くないの?」
俺は仲が良いと思っていたからちょっとショックだ。
「世津くんとは仲が良いけど、そういう関係じゃないから」
「どういう関係?」
俺が聞くと淳平が笑いながら言ってくる。
「少なくとも、顔面にうどんを吹きかけられても良い仲ってのは確かだな」
「おい淳平。美女のうどんだぞ。美女のうどんならご褒美だろ」
「ちょっと反応に困るからそんなこと言わないでよ」
言いながら楓花はハンカチを取り出して俺の顔面を拭いてくれる。洗剤と柔軟剤の香りが出汁の匂いを消してくれて、鼻には彼女のハンカチの匂いが残る。
「あ、楓花。お前にもうどん付いてるぞ」
「え、どこ?」
「いや……。ぷふっ。どうやったらそこに付くんだよ」
笑いながら楓花の髪の毛に付いていたうどんを取る。
「うどん。髪に付いてたよ」
「キュン」
「いやいや秋葉。どこのぶっ飛んだ少女漫画だよ」
笑いながら淳平が俺達を見る。
「そうやって見てると、ご主人様と犬じゃなくて、どっちも犬だな」
「「わん」」
「息ぴったりだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます