第4話 忘れられた最推し
朝ごはんを食べると未来は先に行ってしまった。
未来は生徒会長。
たまにこうやって朝が早い時がある。
加えて、かなりの成績を誇る。
精神科医になりたいみたいで、それを成績で証明しているほどだ。こんな完璧超人が従姉だなんて頭が上がんねぇよ。ったく。
そんなことを思いながら、クロスバイクを走らせて学校へ向かう。
学校は基本的にチャリ通だ。家から学校まで大体三〇分程度。
我が校は高槻市は北の方にある高校だ。駅を北に越えて、古本屋のある交差点を更に北へ向かい、坂道を上がって行くと我が校が見えてくる。
正門をスッと入り、駐輪場へチャリを止めた。錆びた波板からわかるように、結構歴史のある学校だね。
「うぃー。世津」
「おはー。
キッとブレーキをかけ、俺の横にママチャリを止めたのは、中学からの友人である
サッカー部所属。
中学までは細身な体型だったけど、高校に入学してからガタイが良くなってやがる。高校の運動部はどうやら激しいらしい。
淳平がママチャリの鍵をポケットにしまうと隣に並ぶ。特になにも言うことなく、二人して校舎の中に入って行く。
下駄箱で上履きに履き替えながら、ふと、昨日の日夏のことが気になって淳平に問う。
「そういや淳平。俺の好きな歌手って覚えているか」
「んぁ? アレクにオーラル。ラルクにウーバー。ワンオク、マイファス。バンプに──」
「確かにめちゃくちゃ好きなバンドだが、ちげーよ。お前が俺に、『最推しだな』って言ってたやつだ」
「あーん? 最推しぃ? んなこと言ったか?」
まぁ適当な発言なんて覚えていないか。
「出雲琴だよ」
「イズモコト?」
「なんでカタコト?」
「誰だよ、それ」
「いやいや、中学の頃、このご時世なのにCDを布教しただろうが」
「CD? 世津は基本的にサブスクで音楽聴いてるだろ?」
「え、うそ。まじで言ってる?」
「借りたっけか?」
真剣に聞いてくる。
こいつからはしらばっくれている感じはない。というか、しらばっくれる意味もないので本気で言っているのだろう。
「忘れてんならいいや」
「んだよ、気になるなぁ」
淳平との会話に違和感を覚える中で、少し怖いことを考えてしまう。
「なぁ、日夏は知ってるか?」
出雲琴のことを忘れているということは、日夏八雲のことも忘れているのではないかという恐怖。
これで日夏のことも忘れてるとかなら、かなりの異常事態が発生していることになる。
「え……」
その反応が更に怖かった。
もしかして、日夏も知らないとか言うのではなかろうかと怖くなっちまう。
「クラスメイトの日夏さん?」
その返しに、ふぅと安堵の息が漏れる。
「なんだよ。もしかして世津は眼鏡属性か?」
「眼鏡属性がいちごパンツだったらどう思う?」
「そりゃ萌えるな」
「眼鏡をしていても美人なのに、眼鏡を外せば有名アーティストだったらどうだ?」
「そりゃもうファンタジーだろ。でも、萌えるな」
「だよな。萌えるよな」
「んで、その日夏は眼鏡を外せば有名アーティストなんか?」
話の流れから、そりゃそんな質問が飛んでくるわなと納得しちまう。
「んにゃ。ありゃただの眼鏡美人だ」
「ただの眼鏡美人つうか、高嶺の花というか」
「ちげぇねぇや」
淳平の口から出雲琴のことは聞けなかったが、とりあえず日夏八雲のことはわかっているということで一安心だ。
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