第2話 犬だけじゃ…ない!?

翌朝目覚めても、やっぱり子犬はそこにいた。(紫だなー…しっかり紫だ。昨日、電気の光とかで見間違えたわけじゃなかったんだなー……)静かに動揺しながら、六花の訓練された社会性は、朝のルーティンをこなしていく。


シリアルを食べ、残っていた白いご飯と味なしのひき肉を犬にあげて、髪を整え、足にまとわりつく犬を撫で、化粧をし、抱っこし、顔をなめられそうになって避けて…


「ハッ…どうしよう……君、私が会社行ってるあいだ、ここで待てる!?犬…留守番……あ、留守番させてる人もいるんだ。そりゃそうだよね…えーとトイレには古い毛布を洗濯カゴにいれておけばいいか…」


検索しながら、犬の留守番準備をしていたのに、犬ではない気配を感じて振り向くと


そこには、犬を抱いた少年がいた。

ピンクの髪の。


「え゛っ…」六花の脳はとうとう、考えることを放棄した。

無言のまま二人はしばらく見つめあい、そしてそっと目をそらした。


現実を、受け入れがたかった……(人?しかも未成年!?これもしかして誘拐にならない?え?どっから入ってきたの?いやいや犬もだけど、アニメみたいな髪色じゃない?でもなんか染めてるって感じもしないけど最近の保護者って子供の髪ピンクにする?いや昔からいないわけじゃないと思うけどさぁ…このアパート、親子連れいたっけ?寝に帰るだけだからわかんないよ~!!!!)


立花が静かにパニックを起こしている間、だいじそうに抱えた犬をそっと撫でていた少年が「mjぁひあがーたNじょにェ」と、こちらに向かって話しかけてきた。


六花の知る、どの言語でもないようだったけど、ちょっとのんびりした響きのやさしいことばに聞こえたので、少しだけ気分が落ち着いたかもしれない。


(大人なんだから、不安にさせちゃダメだ…)とりあえず、こんな状態では出社できそうにない。まだ小学校低学年くらいにしか見えない迷子(?)を置いて出かけるわけにもいかず、六花は会社に当欠の連絡をすることにした。


「ァッ!」六花のとりだしたスマホを、ピンク髪の少年が指さしている。「めnこゥなーンがiっかNァ~」と六花のスマホ…いや、スマホカバーを見たいようだ。


「これ?見たいの?」と差し出すと、カバーに描かれたなにかの花を指さして、いっしょうけんめいに話しかけてくる。

「ごめんね、わかんないんだよ」と、手でバッテンをつくってみたり、肩をすくめてみてもスマホの花を指さして…つまんでとるみたいなジェスチャーをしている


「これが欲しいのかな?」といわれても、このファンタジーな花…スズランみたいな…ユリみたいな……実際にある花だと思えないんだよなぁ……


「よしっ!まずは親御さんを探さなきゃだよね」六花は、犬と少年を連れて交番まで行くことにした。うっかりすると逮捕されるかもしれないけど、それでもこんな小さな子を見過ごせない

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異世界からの転送座標が、わたしになってしまったみたいです 折原ひと @parfaitthestudy

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