異世界からの転送座標が、わたしになってしまったみたいです

折原ひと

第1話 とつぜんの不思議現象は、座標のせい!?

田中 六花は、今まで賞罰なしの人生を送ってきた。「どこにでもいる、平凡な」という形容詞がこれほど似合う人間もそうそういない。普通過ぎていじめられることも、いじめの傍観者になることすらなく、親も私を普通に愛してくれて、そこそこの大学を出て、特徴のない会社に勤めている。


営業補佐の仕事について、先輩に「明日までにやっとけ」なんて普通の無茶ブリをされたりもするけど、繁忙期じゃないときは仕事帰りにジムへ行ったり、ライブへ行ったり…決してブラックな職場でもない。


結構充実もして、そろそろ仕事にも慣れたし、久ぶりに恋愛もしたいな~なんて考えるくらいには、平凡な日々を送っていたのに……


最初は、気のせいだと思った。ふと気づいたら、髪に見知らぬ花びらや、鮮やかな鳥の羽根がくっついていたり。先輩や同僚に「田中さん、髪にお花ついてるよ」って指摘されて「最近そんなことが多いんですよ~」なんて笑っていたんだけど、いやまさか、それがある日突然こんなことになるなんて、思わないじゃない?


「あの…君……どこから来たの?言葉、わかったりしない…?」おずおずと呼び掛けたのは、なんとラベンダー色の…犬?家でリラックスしながら、スマホで動画サイトを見ていたら、ご機嫌で現れたのだ。犬?が。


薄い青色まじりのラベンダーカラーの犬には、首輪がついている感じもない。一人暮らしの23時、窓もドアもしっかりと閉まっているし…どこから?犬は何かを期待するようにこちらをじっと見ている。


「ごめんね、わたし犬が食べるようなものを持ってないんだけど…さっきゆでた豚肉が残っているけど、食べる?わたしのこと噛まないよね?」吠えるでもなく、こちらをキラキラした目で見ている小型犬は、すごくおとなしそう。これなら大丈夫だよね?とベッドからそーっと脚を下したけれど、突然こちらに向かってくる様子も…ないみたい。


「ゆっくり動くからね…」なんとか冷蔵庫にたどり着いて、夕飯の残りであるゆでただけの豚肉を取り出すと、嬉しそうにハグハグと食べた。「君、たぶん子犬だよね…?でもそんな色の犬がいるわけないし…何より、どこから来たの?」答えが返ってくるわけもないのに、思わず話かけ続けてしまう。だって怖いのだ。得体のしれない子犬が。


食べ終わった犬は、ひとしきり身体を舐めるとこちらにぽてぽてと歩いてきた。緊張して動けない私の足を時間をかけて臭いをかいだ後、ぽてっと丸まって寝てしまった。「これは……普通の子犬っぽい…色以外は…!!!」子犬を起こさないように、小声で衝撃を外に逃がすと(明日…会社……どうするかなあ…)と考えているうちに寝てしまった。


あまりにも平凡な生活に慣れすぎて、緊張感が続かないので。

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