第13話 冒険者ギルドと初依頼

「あ、シズネさん。いらっしゃいませ。」

私がギルドに顔を出すと、すでに顔なじみになった受付嬢のマールさんが笑顔で出迎えてくれる。


「マールさん、繁盛してますねぇ?」

「……えぇ、それはもう。」

私が周りを見ながら言うと、マールさんは頬を引きつらせながら、それでも笑顔を絶やさずに応える。


王都では、いち早く、割の良い依頼を受けようと、冒険者たちでごった返すこの時間帯。

話によれば、王都ではなくとも、それなりに大きな街では同様だという。なのに……。


「マールさん、繁盛してますねぇ。」

私はもう一度そう言った。

「……いじめないでくださぁい……冒険者さん達が少なすぎるんですよぉっ!」

マールさんは、ギルド内に響くような大声で叫ぶ。

「みんな、競合相手がいないっからって……、だから朝早くから行かなくてもいいだろうって……えぐえぐ……。」

「なにも泣かなくても……。確かに閑古鳥が鳴いているけど……。」


このリチャード領に冒険者ギルドが出来て、はや2週間が経とうとしている。

やってきた冒険者たちが「依頼が少ない」と言って離れていかないように、リチャード様やセバス様と相談して、それなりの依頼を用意していたのだが、ふたを開けてみれば、ギルド誘致の際に同行してきた冒険者パーティは5組。人数にして25人と言ったところだ。


それに対し、依頼数は、討伐、採集、そのほか含めて常時30以上出してある。

5組の冒険者にしてみれば選び放題の上、競合相手がいるわけでもないので、もう一刻もしないとやってこないのだという。


「それで、シズネさん、今日は何の用ですか?依頼はしばらく受け付けませんよ。」

「あー、うん。魔道具の反応はどうかなって。新規の冒険者登録に。」

「新規の……って、シズネさん既に登録済ですよね?後、魔道具の評判は上々ですよ。売ってほしいという要望もいくつかあります。」

「あ、えっと、新規登録は私じゃなくて……って、それは来てからでいいか。それより、魔道具を売ってほしいって?どれが?」

「えぇ、一番はやっぱり「マジックポーチ」ですね。アレがいくらで買えるのかと、全冒険者パーティから問い合わせがあります。」

「あれかぁ……。」

私は苦笑する。


マジックポーチ……。一見すればただの革のカバン。女の子が身だしなみを整える道具が入っていそうな小さなものだけど、それに私が「空間拡張」で中を広げている。

空間の広さは大体、小さな倉庫の半分ぐらい。

それでも、ガタイの大きなオークやトロールが5体は収納できるだけの広さになっている。

1回の依頼なら、これだけあれば十分だよね。って感じで……ゴメンナサイ、見栄張りました。

今の私の限界がこれだけなんです。

しかも、永久に拡げておくことは出来ず、魔道具作成のスキルを持つ人に、教えを請うた結果、バッグに魔力を溜めることができる魔石を取り付けることで、拡張状態を維持させている。

魔石の魔力が尽きたら、拡張が消えてただにバックに戻るのよ。……その期間、大体10日弱。


一応、その魔石に魔力を充填し続けることに拠って、拡張状態は維持できるらしいんだけど、一般的な魔術師が、気絶するまで魔力を注いで、1日持つかどうかなんだって。

私はそんなこと聞いたの初めてだったから、セレスに確認すると、私の魔力及びその回復力は、この世界の魔王を遥かに凌駕するとんでもないものらしい。ってか、魔王いるの?


ま、そんな夢の様な魔道具だから欲しがるのも分かるけどね、維持できないんじゃ意味ないよ。ってことでマジックポーチはレンタルのみと、マールさんに説明しておく。

お試し期間が終われば、1依頼につき銀貨1枚で貸し出すことを決める。


その次に、人気が高かったのが『簡単サバイバルキット』だった。

これは、クッカーと水筒、火打ち石の3点セットで、一見どこにでもあるような冒険者の旅立ちセットの一部に見える。


しかし、リチャード領特製のサバイバルセットは、そんなチャチなものじゃないのよ。

まず、一見普通の石に見える火打ち石。

突起になっている魔石部分を押せば、石の先から炎が出て、誰でも簡単に素早く火をつけることができるというスグレモノ。

実は、この魔石の充填してある魔力を使って火属性魔法の『着火』を発動させている。

しかも繰り返しチャージ可能。1回チャージしておけば、10回は火をつけることができるのよ。


そして、水筒もただの水筒じゃなく、側面についている魔石を押せば、水筒の中に『クリエイトウォーター』で生成された水が湧き出すの。

これも魔石の魔力を使っているから、3回も使えば魔力がなくなるんだけど、再チャージ可能。しかもチャージにかかる魔力は、クリエイトウォーター1回分まで落としてあるからね、魔法使いなら半永久的に使えるって言っても過言じゃないわ。


最後にクッカーね。

これも魔石の魔力を使って、底面を自動的に熱するシステムになってるの。IHヒーターが引っ付いている感じかな?

コレがあれば、わざわざ火を起こさなくても温かい料理ができるから、火起こしができない状況のときには重宝してもらえると思うのよ。

ただ、これは少しコストパフォーマンスが悪くて、最大で2刻分までしか使えない。

でもまぁ煮込み料理とかしなければ、そこまで使用することも無いだろうし、魔力が尽きても普通のクッカーとして使えるから問題ないでしょ?


これはセットで少金貨1枚、バラ売りでそれぞれ銀貨5枚で販売することを決めた。

一応有償レンタルも考えたんだけど、 値段が折り合わなかったから、販売のみと決めた。

今モニターしてもらっているパーティには、銀貨7枚で今使用しているものを買い取りできることを伝えてもらう。


それ以外の魔道具についても、販売価格などを決めている間に、私の待ち人たちがやってくる。


「あ、こっちだよぉ。」

私は大きく手を振る。

「そんな大げさに手を振らなくても、見ればわかるわよ。……あなたしかいないんだし。」

苦笑気味にそういうのはメイアーさん。リチャード家のサブメイド長だ。

サリーさんのいない時は、実質彼女がメイド隊を仕切っている。

その後に続くのは、私の同僚のヒルデとプリムちゃん。

そう、この4人でパーティを組んで冒険者生活を始めるのだ。

さっき言っていた「新規登録」って言うのはヒルデとプリムちゃんの二人。メイアーさんはすでにライセンスを持っていた。しかもCランク。

 討伐依頼はDランクからじゃないと受けられないので、メイアーさんが居てくれて助かったんだけど……。

なんでメイドさんが冒険者のライセンス持ってるのかな?

そう聞いてみたら「あなたも持ってるじゃない」と返された。

ウン、まぁ、そのとおりですね。

要は、詮索するな、と言うことらしい。


で、なんで私たちが冒険者になったかというと、依頼を受けるため、なのよ。

あ、いや、冗談じゃなくてね。


まぁ、簡単に言えば、依頼を出しすぎたってわけ。

しかも「これくらいじゃ全然足りない」って私が主張して依頼を多めに出させたのよね。まさか、冒険者が5組しか来ないなんて思わないじゃない。

せっかく、ここを拠点にする冒険者が多くてもいいように、アレコレ画策したのにぃ。


それでね、当初に出した依頼で、まだ受注されていないものが多く残ってるの。

コレを放って置くと『塩漬け依頼』って判断されるのね。

で、塩漬け依頼を多く出す依頼主は、今後依頼を受けてもらうのが難しくなり、また塩漬け依頼が多く溜まっているギルドは、評価が落ちて優秀な冒険者が来なくなったり、買取査定が厳しくなったりするの。

しかも、設立してすぐ塩漬け依頼が溜まったとなれば、下手すればお取り潰しもあり得る案件なのですよ。

だから、そうならないように、ヤバそうな依頼を受注して終わらせようと言うことになったのよ。


だったら依頼を取り下げればいいって?

それやっちゃうと、膨大な手数料を取られる上に、ブラックリストに載っちゃうから、今後色々困ることになるのよ。

それに『大丈夫です』ってリチャード様とセバス様に大見えきった手前……と言うか、ここで損失出しちゃうとね、私の身請け金額に上乗せされて自由が遠のくのよ。

私の能力の底上げもしたいしね。

熟練度稼ぐには実戦が一番ってセレスも言ってたし。


「早速依頼を受けますか?」

その辺の事情を察したマールさんは、にこやかな笑顔を私に向けてくるのだった。



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