第14話 討伐依頼と役立たずな能力??
「おーい、役立たずの姉ちゃん、コレも頼むわ〜。」
倒したホーンラビットを抱えた男が大声で私を呼ぶ。
役立たずって、そんな大きな声で言わなくても……。
そう思っていると、近くにいた女性魔術師が、その男の頭を手にしたスタッフで殴りつける。
「コラァっ、何デリカシーのないこと叫んでいるのよっ!」
そしてその女性はホーンラビットを奪い取って私のもとにやってくる。
「ごめんね、シズネちゃん。あのバカにはよく言い聞かせておくから。あ、コレもお願いできる?」
「あ、ウン……。」
私はホーンラビットを受け取ってそのまま収納へしまう。
「あのバカのことは気にしないでね。収納魔法が使えるってだけでも凄いんだから。」
その女性……メルさんは私に笑いかけながらそう言うと、次の獲物を探しに行った。
「はぁ~、コレが世間の評判なのねぇ。」
私は誰にともなしにそう呟いた。
私の持つ時空魔法は、扱えるものがほとんどいない希少価値であるにも関わらず、その使い勝手の悪さから「役に立たない」と思われている。
「悪い人達じゃないんだけどねぇ。」
そう、悪い人達ではなく、むしろいい人達なのだ。
私達が、ギルドで塩漬けになりそうな依頼をいくつか受注していた時、横から口を挟んできたのが、さっき私に役立たずと言った男……マークさんだった。
「それを女の子だけのパーティで受けるのはやめたほうがいい。」と…。
「低脳なゴブリン達もなぁ、女の子を襲うときだけは狡猾になるんだよ。」
そう言いながら、ゴブリンたちがいかに残忍で狡猾で、めんどくさいかを話し出すマーク。
「なに女の子引っ掻けてるのよっ!」
御高説の途中に、いかにも魔法使いです、といった格好の女の子が、マークの頭をぶん殴る。
「ごめんねぇ、ウチのバカが。」
「バカ言うなっ!俺はただ、ちょっと気になってだなぁ……。」
「ハイハイ、ナンパ乙~」
「違うってのっ!……聞けよ、おいっ!」
ぎゃぁぎゃぁと騒ぎだす二人からそっと離れて、依頼の受注処理を終える私達。
そのまま、ギルドを出て行こうとしたんだけど……。
「ちょっと待ってくれないか?」
そう言って私達に声をかける大楯を背負った戦士風の男。
話を聞いてみると、さっきの二人のパーティリーダーだそうだ。
で、結局何が言いたかったかっていうと、私達の受けたゴブリンの調査と討伐の依頼を合同で受けないか?という提案だった。
大楯を背負った男の人……ジョンさんが言うには、さっきのナンパ男?マークさんには「機を見る」加護が備わっているそうで、マークさんが「気になった」ことには、何らかの意味があり、事実ジョンさんたちは、その加護のお陰で九死に一生を得る様な体験もしたらしい。
「だから、マークが「気になった」のなら、きっと何かあると思うんだ。」
なので一緒に行かせてほしいとジョンさんは頭を下げる。
私は困ってメイアーさんの方を見ると、彼女は黙って頷くのみだった。
つまり、私が判断しろってことね。
まぁ、実際、メイアーさん以外は素人でもあるし、他の冒険者さん達がどのような感じかを見るいい機会でもある。
だから私は、登録したばかりの新米冒険者であることを告げ、足手まといになるけどそれでもいいなら、と了承した。
というより、了承させられた。新米冒険者が討伐なんか受けるんじゃねぇっ!と、散々お説教を喰らって……何で??
そのあと準備を終えた私達は、門の前で、同じく準備を終えたジョンさんたちと合流して、ゴブリンの襲撃に怯えているという村を目指したの。
途中、依頼の薬草などを採集しながら、お互いの事について話をしたのね。
あんまり個人情報をべらべらと話す気はないけど、最低限、何が出来るか?ぐらいはお互いに知っておかないと、いざと言う時に困るからね。
で、その時に私が使えるのは時空魔法だけ、と知ったジョンさんたちは、なぜかかわいそうな子を見る目になったのよね。
だから私は、「時空魔法は役立たずじゃないよ?」という事を証明するため、収納魔法の素晴らしさとかを熱弁したんだけど……話せば話すほど、メルさんやベルさんが頭を撫でてくれて、ギュってしてくれたのよ。
そして……
「役立たずは下がってろっ!」
飛び掛かってきたロケットウルフを大剣で斬り捨てながら、マークさんが叫ぶ。
……役立たずって……。
確かにメルさんみたいな派手な魔法は使えないよ?ベルさんみたいに癒しも出来ないし、プリムちゃんみたいに鈍器でウルフの頭をつぶしたり、ヒルデみたいに、遠くから矢でウルフの目をつぶしたりもできないけど……。
って言うか、ヒルデとプリム、活躍し過ぎじゃない?
とにかく、皆と同じようなことは出来なくても、私なりに戦うことは出来るのよ。
例えば「転移」だけど、襲いかかってくる相手から一瞬で逃げる事だって可能だし、背後に回り込むことだってできる。
一瞬にして背後に現れ、ナイフで急所を一突き、なんてことだって出来るんだからね。
他に、この転移の能力を使えば、相手を飛ばすことだって出来ちゃう。
離れていると時間がかかるし、離れすぎていたら使えないけど、手に触れていれば一瞬で任意の場所へ飛ばせるのよ。
だから、ウルフが襲ってきても、手に触れた時点で、マークさんの前に飛ばせば……。
ズシャッ!
急に眼の前に現れたウルフを、驚く様子もなく切り捨てるマーク。
「役立たずは余計なことしなくていいっ!」
……だから役立たずじゃないもん……。
その後、私は端っこの方で座り込み、地面にのの字を書きながら、襲ってくるウルフをマークさんの前に飛ばすだけの簡単なお仕事をしたのでした。
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「えっとね、シズネちゃん。あいつ口は悪いけど、悪気があって言ってるわけじゃないから……。」
「……どうせ役立たずだもん。」
私は拗ねた声を出しながら、目の前の野菜を切り刻み、下拵えをしたお肉と共に串にさし、網の上に乗せて焼いていく。
途中特製のたれを収納から取り出し、肉串にかけると、暴力的なまでの美味しそうな匂いが辺り一面に広がる。
「えっと、あのねシズネちゃん……。」
「……焼けたよ、はい。」
私は困った顔をしているメルさんに、焼きあがった肉串を渡す。
「あ、うん。えっと……あいつらにもおすそ分け……ダメ?」
「……役立たずが焼いたお肉が食べたいの?それとも役立たずだから肉でも焼いていろと?」
私がそういうと、メルさんは益々困った顔になり、向こうではジョンさんとマークさんが体を小さくしていた。
「シズネは役立たずじゃない。お肉美味しい。」
「ありがと、プリムちゃん。おっきいの焼けたよ。」
「うん。」
私から肉串を受取ると、その可愛いお口を大きく開けて、美味しそうにかぶりつくプリム……あ~癒されるわ〜。
「ねぇ、シズネ。スープやパンも出してよ。お肉ばっかりじゃ胸焼けしちゃうわ。」
横合いからヒルデが声をかけてくる。
何いってんだこいつ、という視線の中で、私は大鍋を取り出し、中にはいっている熱々のスープをよそってヒルデに渡す。
「ハイ、熱いから気をつけてね。」
そう言っているのに、ヒルデは勢いよくスープに口をつけて、舌を火傷している。
「あ、あのぉ、シズネちゃん……コレは?」
恐る恐るといった表情で私を見るメルさん。
「見ての通りスープですけど……ハイ、どうぞ。」
いつの間にかメルさんの横に来ておわんを差し出しているベルさん。
私はそのおわんにスープをよそってあげると、ベルさんは嬉しそうに、フーフーとスープを冷ましながら咀嚼し始める。
「あ、いえ、なんでスープが熱々で出てきたのかなぁ~、と。」
「収納に入れてたからですよ?」
収納魔法で亜空間に入れたものは時が止まる。
マジックポーチ等の類似魔道具は、珍しいとはいえ、それなりに流通しているんだから、それぐらい常識なのでは?
などと考えていたら、頭の中に声が響く。
『シズネの収納魔法と、空間拡張されたマジックバックは別物だからだよ。』
(セレス、そうなの?因みにどこが違うの?)
『まず、収納魔法は術者の保有魔力と熟練度で収納量が変わるから、術者の成長と共に使い勝手が良くなるけど、空間拡張された魔道具は、最初の設定したときから変わらないの。そして収納魔法は亜空間に収納するから時は止まるけど、空間拡張は拡げただけだから、時の流れはそのまま。もっとも時の流れを遅くすることはできるけどね。あと、亜空間の生き物は入れれないけど、空間拡張であれば生き物も入れることができるわ。……他にも細々とした違いはあるけど、大きな差異はこんなところね。』
……成る程。似たようなものって思ってたけど、完全に別物ね。
私が脳内でセレスト会話していると、急に黙り込んだ私を見て、怒らせてしまったかと、アタフタと、一生懸命に、メルさんがマークを擁護していた。
曰く、口と顔は悪いけどいい奴なのだ、とか、ああ見えて情に厚く、命を助けられたことも何度もあるのだとか、私に対する言葉も、要約すれば「荷物持ちで魔力を消費するんだから、戦いは任せて安全なところで休んでいろ」と言いたかったのだとか……知らないよ、そんな事っ!
まぁ、あまりにもオロオロするメルさんが可愛かったので、お鍋一杯のスープと焼きあがったお肉をプレゼントしておいたけど……。
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その夜……。
「えっと、シズネちゃん、こんなところに呼び出して、どうしたの?」
「いえ、時空魔法がいかにすごいか?ってことを知ってもらおうと思いまして。……この辺でいいかな?」
周りを見回し、危険がなく、また覗かれる心配もなさそうな場所まで移動すると、私は地面に手をつく。
「コレが空間魔法の力ですよっ……転移っ!」
私が力を発動させると、私の手から先の地面の土が消えてなくなり、5m四方、深さ1mほどの穴がぽっかりと開く。
もちろん、私の『転移』の力で、その部分の土を移動させたからだ。
「さぁ、メルさん、メイアーさん、この中に水を入れてください。」
私がドヤ顔をしつつそう告げる。
「まぁ、仕方がないわね。」
「えっと、何が???」
プチパニックを起こしながらも、言われたとおりに水を注ぐメルさんをベルさんが眠そうな目で眺めている。
「次は、ファイアーボールですっ!プリムちゃん、やっておしまいなさいっ!」
「ふぁ~い……どぉーんっ!」
私の掛け声に、プリムちゃんがたまった水の中に特大の火の玉をぶち込む。
水の中に入った火の玉は、大量の水によってかき消されるが、その間に水温をグンと引き上げ、程よい暖かさとなっている。
「どうですかっ!お風呂ですよっ!」
私は、ドヤっとメルさんとベルさんを見る。
「……ハァ、凄いけど……。」
「……シズネ、穴しか掘ってない。穴掘るだけなら土魔法でも出来る。」
ベルさんの容赦ない言葉が私の胸を抉った。
結局、そのままお風呂に入り、私達は文字通り裸のお付き合いを経て、メルさんとベルさんと少しだけ仲良くなったのでした。
……役立たずの返上はあまりできた気はしなかったけどね。
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